スナップチャットは直近の資金調達で18億ドルを集め、企業価値が180億ドルとなった。高齢化社会を迎えている日本でも、スナップチャットが各ブランドにとって次の「切り札」となる可能性は大いに高い。もちろん、ブランド側にこのアプリを受け入れる意欲があればの話だが。
東京に本社を置く大手プロダクション「AOI Pro」の中江康人代表取締役社長兼CEOは、昨年の「キャンペーン・アジアパシフィック」のインタビューの中でスナップチャットに対する大きな期待を述べている。理由は、縦型コンテンツを念頭にデザインされた数少ないモバイルベースのプラットフォームという点だ。確かにこれは大きな特長で、ブランドが知るべきスナップチャットの利点はまだ他にもある。
「周囲を気にする必要がないので、SNSの中でも群を抜いた『遊び場』になっています」と言うのは、TBWA\HAKUHODOのプランナーである栗林和明氏。スナップチャットはつい最近日本でローカライズされたばかりで、モバイルメディア・アプリの利用率は15~19歳で3.5%、20~29歳で6%でしかない。2014年に似たようなサービスを始めた「ウィンカー」との競争もあり、氏の評価はやや大げさに聞こえるかもしれない。
だが、スナップチャットが今後成長しないという理由は見当たらないのだ。東京の「マレンロウ」でリード・ソーシャル・コンテンツ・ストラテジストを務めるマイク・スンダ氏はこう述べる。「フェイスブックとツイッターは、日本が独自のニーズを反映させ、究極的なメディアに発展させたグローバル・プラットフォームの好例です」。
さらに同氏は続ける。「スナップチャットのインターフェイスはすべてのアクションを公開して責任を全うしているので、プライバシーに関する懸念は払拭されます。『マイ・ストーリー』の機能も、著名なブロガーやネットアイドルがスマホ世代と繋がるための手段として、実に魅力的です」。
「スマホを利用する日本の若者たち間で、今インスタグラムが人気を伸ばしています。同様に、スナップチャットがじきにブームになってもおかしくありません」。こう語るのは、「ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン」のデジタル・ストラテジー・ディレクター、マルコ・クーダー氏。「いずれのアプリも若いユーザーたちにとって、『ファネル・イン』や『ファネル・アウト』がしやすい。最近の5年間で、これらは実に顕著な行動トレンドなのです」
「ファネル・イン」とは、多数の知人を呼び込むのではなく、より親密なグループとソーシャライズする動き。「ファネル・アウト」とはネットワークを築くために、ユーザーが新しい人々と接点をもとうとする動きを表すという。
その一方で、スナップチャットが広く浸透するためには「より多くのローカル・コンテンツとコミュニケーション戦略の向上が必要」と同氏は指摘する。
では、もしこのままスナップチャットのユーザーが広がっていった場合、ブランドはどのように関わり合えばよいのだろうか?
栗林氏によれば、ソーシャル・プラットフォームの使い方に関して、日本のブランドは概して2年ほど米国に遅れているという。「そう考えれば、この2016年こそ日本企業がスナップチャットを使い始めるべきタイミングなのです」
では、どのように活用すればよいのか。クーダー氏は、「最初からユーザーに意義のある体験を提供し、新しい広告プラットフォームとして扱わないことが肝要」と言う。
ブランドのコンテンツを受け入れるという点でスナップチャットはラインと似ているが、ブランドのコンテンツは「ピア・トゥ・ピア(P2P)の方式とは分けた『クローズド・サーキット』・エコシステムに留まる」とスンダ氏。
コンテンツ・マーケティングの分野では今でも牽引者と見なされている「レッドブル」は、つい最近千葉で開催したエアレースで初めて「スナップ」を投稿したそうだ。
「おそらく近い将来、日本でももっと影響力のあるブランドがスナップチャットを使い始めるでしょう。だが課題もあって、日本のブランドが乗り越えなくてはならない壁は高い」と栗林氏。
「ブランドがスナップチャットの世界に入っていくには、スナップチャットがどういうものかを完璧に理解し、ユーザーのように気軽に楽しまなければなりません。肝心なのは、他のメディア向けのコンテンツをただ変換してスナップチャットに流し込んでも、決してうまくいかないということです」
多くのブランドがいまだにユーチューブのコメント機能の活用をためらっていることを考えれば、進むべき「道」は確かにある。このバリアを乗り越えれば、「日本のマーケティングの手法に大きな進化をもたらすことになる」と同氏。
同時にスナップチャットも、日本的なスタンダードにフィットするよう変化していくだろう。他のソーシャル・ネットワークが日本に浸透したときのように、「長年スナップチャットを愛用してきた人々にも想像がつかないような、新しくてユニークな使い方がたくさん生み出されていくでしょう」(スンダ氏)。
(文:デイビッド・ブレッケン 編集: 水野龍哉)