パフォーム・グループは、ロンドンに拠点を置くデジタル・スポーツコンテンツ会社。同社が「世界初」と形容するこのスポーツコンテンツ・ライブストリーミングサービス「DAZN」は、8月初旬にドイツ、オーストリア、スイスの欧州3ヶ国でスタート、日本でも同月23日より配信が始まり、アジア・デビューを果たした。
パフォームは先日、日本のスポーツ界史上最高額となる約2100億円(18.8億ドル)で、2017年から10年間にわたるJリーグの放映権を獲得。東京でDAZNのマーケティング・ディレクターを務めるピーター・リー氏によれば、ドイツ「ブンデスリーガ」など欧州のプロサッカーリーグを中心に、アメリカのMLB(メジャーリーグ・ベースボール)やNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)、総合格闘技「UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)」など、年間6,000以上のライブコンテンツを取り扱っていくという。
消費者側にとってスポーツコンテンツ市場は、ややもするといまだに「柔軟性」に乏しい。DAZNは、こうした状況に一石を投じようとしているかのように映る。同サービスの利用料は比較的低額で、ヨーロッパでは月額10ユーロ(約1,150円)以下、日本では1,750円(税抜)。リー氏は今の日本の状況についてこう述べる。「熱心なスポーツファンは毎月8,000円(80ドル)くらいの視聴料を払っています。多くの人々にとって、これは決して安い金額ではないでしょう」「DAZNはいつでもどんなものでも、あらゆるデバイスで視聴することができる。グローバル市場ではすでに当たり前のことですが、日本ではまだこれからなのです」。
ブランド的観点からすれば、DAZNの姿勢はサービス最優先であることがわかる。広告は一切流さず、「スポーツファンをより自由に」(リー氏)というのがコンセプト。「日本ではスポーツコンテンツの配信が細分化しすぎています。好きなスポーツを、もっと手軽に楽しんでもらいたい。DAZNは一度契約しても、いつでも解約ができます。要は、スポーツファンが自由に、そして簡単に見たいものを見られる環境を作りたいのです」。
DAZNは今後、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンと組んでブランドの認知度向上に取り組んでいく。リー氏によれば、オグルヴィは「Jリーグ放映権の獲得でも重要な役割を果たした」。同社が手掛けてJリーグ側に提案したクリエイティブは、DAZNがいかにJリーグの価値を引き出し、高めていくかを綿密に表現しており、「そのおかげで我々が選ばれたのです」。「オグルヴィのスタッフの多様性も、放映権が獲得できた要素の一つでしょう」。
ブランド構築は、日本の一般的なアプローチとは異なる手法をとる。サービス開始後のキャンペーンでは、従来型メディアはあまり活用しない。大規模なテレビ広告では実現できない、特定の視聴者に向けたプログラマティックなデジタル・マーケティングを展開していくという。
日本での視聴者は20歳から45歳くらいまでの幅広い年齢層を見込んでおり、「この視聴者層をいかに深く理解できるかが、DAZNの成功を左右します。デジタル中心のマーケティングを選ぶ理由はそこにあります」とリー氏。
「日本市場での成功のカギは、詰まるところ提供するプロダクトやコンテンツ。パッと咲いて、すぐに散ってしまうようなことにはなりたくない。日本の消費者を理解する努力が足りず、出だしの数ヶ月は好調でもすぐに失速してしまうブランドは少なくありません。我々はデジタル・マーケティングを通じて、DAZNがどのように利用されているか、よく見極めながらブランドを確立していきたい。デジタルならば、従来型のメディアを使ったキャンペーンでは得られないサービスのライフサイクルが把握できるでしょうから」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)