JWTイノベーショングループとマインドシェア・フューチャーズは、今年のカンヌライオンズで調査レポート「スピークイージー(Speak-Easy)」を発表した。世界中のスマートフォンユーザーの42%が、寂しさを感じたときに音声アシスタントに話しかけたことがあり、29%が姿の見えないスマートフォンの音声に性的な空想をいだいたことがあるという。
記者が見出しに載せたくなるような刺激的な調査結果の他にも、スマートフォンの音声によってブランドと消費者の関係がどう変化しているか、また将来どう変化していくかといった内容や、注目すべきアジア特有の実情など、興味深い結果も伝えている。
一例を挙げると、「スマートフォンの音声に親近感を強く求める」ユーザーの74%は、「もし音声アシタントが人間と同じように、こちらの言うことを理解し、返事をしてくれるようになれば常時利用したい」と答えている。
そんな時代の到来はまだ少し先だとしても、音声技術の利用価値は大きい。10人中9人が「音声技術が的確に機能するようになれば、確実に自分の生活は簡素になる」と回答。一方で、世界中の音声アシスタント利用者の45%は「音声入力の方が速いから利用する」、35%は「文字入力を面倒だと感じたときに利用する」と答えている。
先に触れたアジアに関していえば、この地域での音声アシスタント利用度の高さは、言語の文字入力のしにくさとの相関が高い。レポートは、特に中国とタイでの利用が盛んなことに言及している。
スピークイージーは英国、米国、ドイツ、スペイン、タイ、日本、オーストラリア、中国、シンガポールの18歳以上のスマートフォン所有者6,780人を対象としている。また、英国で実施したセルフエスノグラフィー調査(自身で記述する行動観察調査)や、アマゾンのスピーカー型音声アシスタント「エコー」「エコードット」や中国の灵隆科技(Ling Long)の「ディンドン」のユーザーへの調査など、定性調査も実施した。
このレポートは、神経科学を基盤とした市場調査を行うニューロインサイト社の「神経科学実験」にも触れている。ブランド名を含んだ質問を音声で受けた人たちは、同じ内容を文字で質問された人たちよりも強い情緒反応を示したというもので、「ブランド名を音声でやりとりすると、文字入力で行うよりも強く人の感情に作用するように思われる」とスピークイージーは結論付けている。
これは若干、拡大解釈かもしれない。実験内容がもう少し詳しく分からないことには、単に「音声は文字よりも感情に強く作用する」と証明しているにすぎない可能性もある。それでも、いずれ消費者行動の多くが音声を介して行われるようになると考えれば、ブランドにとって有意義で心躍るような発見だろう。
無論、プライバシーの問題についての不安は残る。英国、ドイツ、スペイン、中国、オーストラリアの回答者たちは、音声技術を利用する上でセキュリティーが最重要課題だと声を揃えた。
世界中のスマートフォンユーザーの過半数(53%)は「絶えず画面を見つめなくてもよいため、音声アシスタントは人々の交流促進に役立つ」と楽観視している。しかし我々がもっと注目したいのは以下のような、アジア太平洋地域ならではの特徴だ。
日本
- 音声アシスタントの利用度は他地域と同等。
- 音声アシスタントを日常的に利用するユーザーの72%は「人前で利用するのは恥ずかしい」と回答しており、プライベートな場での利用が多い。
オーストラリア
- 音声アシスタントの利用は世界の平均を下回る。
- 音声アシスタントはよく知られているが、その利点については「メリットを感じない(36%)」、「音声の方が速いとは思わない(28%)」と、今のところ認識は薄い。
- しかし、38%は「将来利用することを考えている」と回答。
中国
- 中国には、東洋で最も多くの音声サービスが存在する。
- 音声アシスタントを毎週利用するのは31%で、これは世界の平均と同等。
- 音声アシスタントを自分に合わせてカスタマイズすることに、96%が賛成している。
シンガポール
- 対象となった9カ国中、シンガポールの音声サービス利用度が最も低く、毎週利用するのは17%。英語が広く使われる国ということもあり、音声サービスを利用することの利便性が、他国に比べて低い。
- 日常的に音声アシスタントを利用するユーザーの65%が「音声アシスタントとのやりとりを電話会社に聞かれないか心配」と回答している。
タイ
- 音声サービスの利用率が、アジアで最も高い。
- 毎週利用するユーザーは51%と、世界平均より高い。
- 日常的な利用者のうち42%が、音声アシスタントを利用する理由を「かっこいいから」と答えている(世界平均は26%)。
(文:マシュー・ミラー 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)