気候変動に影響を与えるものとして、多くのものが俎上に上がっているが、デジタルメディアが名指しされるのは意外に思われるかもしれない。記事は紙に印刷されることはなく、インタビューの大半は移動せずにオンラインで行われている。それでも実は、オンラインメディアは二酸化炭素排出源として無視できない存在なのだ。
実際、もしインターネットが国だとしたら、世界第7位の炭素排出国に相当する。具体的な数値を挙げると、インターネット由来の温室効果ガス排出量は年間約10億トンにのぼり、世界の排出量全体の約2%を占める。
デジタルメディアの視聴が増えるにつれ、業界におけるエネルギー使用量とCO2排出量も大きく増加している。全てのデジタルコンテンツは、様々なネットワーク(データセンター、ウェブインフラ、ユーザーデバイスなど)を介して配信されるが、それらの所有者はばらばらだ。こうしたすべての要素の合計が、デジタルメディア業界が地球に残すフットプリントとなる。
克服どころか理解することさえ難しく思える課題だが、だからといって傍観しているわけにはいかない。投資家も消費者も、我々の業界が、炭素排出の責任にどう対応するか注目している。今こそ、どうすれば漸進的変化をもたらせるかを考えるべきだろう。今日の改善が、明日の地球をより健全にするのだから。
デジタルパブリッシャーは、ゼロカーボン革命にますます積極的に、画期的な方法で参加するようになってきている。いくつか例を紹介しよう。
気候責任をRFP(提案依頼書)に組み込む
ブランドの中には、広告購入やスポンサードコンテンツの制作を検討する際、デジタルメディア企業へのRFP(要望仕様書)に、DEI(多様性、平等性、包摂性)に関する質問を記載しているところもある。ならば、メディア企業の側も、CO2排出量に関する質問をブランドへのRFPに含めることができるはずだ。そうすることで、初期段階から、気候変動問題をビジネスの必須事項として扱うことができる。こうした慣行は、広告だけでなく、さまざまな業界に波及しうるだろう。
記事ごとの炭素排出量を可視化する
パブリッシャーは、1記事あたりのCO2排出量の推定値を算出することでビジネス全体の気候変動への影響について多くを学ぶことができる。BBCの「フューチャー・プラネット」はその好例だ。どの記事も、気候変動問題を深く掘り下げて報じているだけではなく、制作にともなうCO2排出量の推定値も併せて掲載している。数値は2つのパートに分かれている。記者の取材時の移動にともなう排出量と、記事の配信に必要なデジタルインフラの使用にともなう排出量だ。
驚くべきことに、最初の半年間、フューチャー・プラネットの取材班の移動によって排出された二酸化炭素量は1トンに満たず、シカゴからロサンゼルスへの1回のフライト分よりも少なかった。
情報源を共有する
CO2排出量の削減は、1社のみで実施できることではない。デジタルコンテンツが気候に与える負荷を軽減するには、広範なコラボレーションと情報の共有が決め手となる。
スコープ3(Scope3)というベンチャー企業は、企業のサプライチェーンにおける各ベンダーのCO2排出量の推定に取り組んでいる。スコープ3は、その排出量データを「共通指標」として、広告主やエージェンシー、アドテク企業にライセンス供与し、パブリッシャーにはそれを無償で提供する予定だ。炭素排出実質ゼロを誓約する組織が増える中、この種のデータは今後ますます重要性を増すだろう。
事実によって人々を導く
デジタルパブリッシャーにできる最も効果的な対策は、気候危機に関する知識を広め、その啓蒙に資することだ。そして、これこそがメディア企業にとっての最善策だ。デジタルメディアには、気候問題への関心を高め、それに対して個人に何ができるかを伝えることで、人々にサステナブルな選択を促す役目が期待されている。
デジタルメディア業界は、自らのビジネス慣行について最善を尽くすことでも、またコンテンツを通して読者に気候危機の情報を伝えることでも、有意義な貢献ができるという稀有な立場にある。気候問題に対する責任を日常業務の一部と捉え、他の部門と協力し利用するツールを進化させ続けることで、カーボンゼロ社会の実現がより現実味を帯びてくるだろう。
アイレット・メイバー氏は、ミニットメディア(Minute Media)のESG(環境・社会・ガバナンス)担当責任者。