トヨタ自動車が、カフェを併設したコンセプトストアをオープンした。カーシェアリングのプロセスを簡素化し、日本の若者たちにもっと車に乗ってもらおうという試みだ。
「Drive to Go by Toyota」が設けられたのはトヨタ本社に近い名古屋。コーヒーやサンドイッチを買うのと同じような気軽さで車をレンタルできる、ハイブリッドスペースという触れ込みだ。
ブランド名を冠したカフェを開き、潜在的な顧客層を掘り起こすのは自動車メーカーがよく用いる手法だが、通常は車の購入を促すショールームと一体化している場合が多い。このトヨタの店舗では、車を借りる(因みにキャンプ用品の貸し出しまである)までの時間をカフェでゆったりと過ごすことができる。レンタル料は全車種1時間1000円(8.82米ドル)のパックから、ミニバンの1日1万4300円(126ドル)まで。
このプロジェクトを主導したのは、レイ・イナモト氏(元AKQAクリエイティブ責任者)がニューヨークで創設したイナモト・アンド・カンパニー。建築事務所のアーキセプトシティーとイベントプロダクションのライツアパートメントが協働した。ライツアパートメントは、人気レストラン「ビルズ(Bill’s)」など様々な空間をプロデュースするトランジットジェネラルオフィスと共にカフェの運営に携わっていく。
こうした取り組みは、全ての自動車メーカーが直面する課題を改めて認識させる。車を買うことに興味のない若者は増え続け、自動車検査登録情報協会によれば車の所有者数はこの約20年で最低レベルになった。報道では、トヨタは2025年までに日本で販売する車種を約30まで減らすことを検討中という。
「車を所有することは、以前のようなステータスシンボルではなくなりました」とイナモト氏。「消費者の購買行動が大きく変化した今、従来型の車のショールームをつくることにどのような意味があるでしょう?」。
この動きは、「世界で最もヒトのことを考えた自動車ブランドになろうというトヨタの戦略の一環」とも。
トヨタは昨年、成長を続けるライドシェアビジネスにも参入。世界市場でのウーバーとの提携を発表している。
Campaignの視点:
4年前、トヨタの豊田章男社長は今の時代の若者への困惑を隠さなかった。同氏が若い頃は、車を持っていないのに女性をデートに誘うのは男性として恥ずかしいことだったが、「そうした価値観がまったく変わってしまった」。だがこの言葉は、その後トヨタが変化を受け入れる予兆でもあったのだろう。
企業が消費者に歩調を合わせ、真の有用性を提供するのは素晴らしいことに違いない。成長し続けるカーシェアリング産業に「対抗する」よりも、むしろ参入する方がずっと道理にかなっている。だが、トヨタが向き合わねばならないもう1つの課題は、運転免許証を持つ人々の数自体が減っていること。たとえ製品を売らずとも、潜在的なドライバーに運転の魅力を伝えていく施策がやがて必要になろう。そのための環境作りが、まずは第一歩だ。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)