ニールセンは1月4日、待望のクロスプラットフォーム測定ソリューションである「Nielsen ONE Ads」を1月11日から市場に投入すると発表した。
この新しいソリューションは2020年から開発されていたもので、オーディエンスがリニアTVからデジタルストリーミング環境に移行するなかで、複数のプラットフォーム間で視聴率を一貫性のあるかたちで測定できるツールの提供を目指している。
Nielsen ONE Adsは米国で展開され、これによって、リニアTV、コネクテッドTV、モバイル、デスクトップで重複がなく一貫性を持った視聴率の測定が可能になる。また、リーチとフリークエンシーの測定や管理ができる機能も提供される。
この新しいソリューションによって、リニアTVでの測定が秒単位になり、デジタルと肩を並べることになるほか、キャンペーンの測定データを「リアルタイム」で提供できるようになる。どちらの機能も、「Nielsen ONE」独自のIDシステムとパネルベースのデータを、セットトップボックスのプロバイダーやスマートTV企業、ソーシャルメディア企業等から提供を受けたデータと組み合わせることで可能となっている。
秒単位のリニアTVデータは、リサーチ目的とプランニング目的の利用に限られ、分単位のリニアTV測定データが引き続きメディアバイイングの通貨(指標)となる予定だ。
ニールセンでは、サードパーティから取り込んだデータを自社のパネルデータを使って検証し、デバイスと個人を紐付けるのだという。ニールセンで製品管理担当シニアバイスプレジデントを務めるキンバリー・ジルベルティ氏は会見の場で、これこそが同社のソリューションを競合他社と差別化している点なのだと述べている。
「ニールセンのパネルデータは、データのバイアスを補正することで、正しく実態を把握する機会を提供する。このパネルデータの存在は、当社が進めている取り組みにとって極めて重要であり、弊社のソリューションを大きく他社と差別化するものだ」(ジルベルティ氏)
また、複数のプラットフォーム、サービス、デバイスにまたがる極めて幅広い範囲もカバーできると、同社は主張している。
「競合他社の多くは、特定のプラットフォームや測定分野に特化しているが、Nielsen ONEが提供するのは、すべてのプラットフォームにまたがる全体像だ」と、ジルベルティ氏は説明した。
さらにニールセンは、広告のプランニングからレポーティングまで、キャンペーンのエンドツーエンドで高度なオーディエンス推計ができる機能を、2023年の後半に提供する計画だ。
ニールセンはラスベガスで開催された「CES 2023」で、「Nielsen ONE Content Alpha」も発表している。この製品は、プラットフォーム間でシンジケートされたコンテンツを重複なく測定し、そのパフォーマンスを集計して表示するものだ。最終的には、Nielsen ONEとNielsen ONE Content Alphaで、リニアTVとデジタルの測定を1つのシステムに統合し、広告主が単一の指標を利用してメディアプランニングとメディアバイイングを実行できるようにする予定だという。
ようやく登場した新製品
広告主はニールセンに対し、パネルベースの測定システムを革新するよう何年も前から求めてきた。これは、デジタル視聴率を十分に把握できていないにもかかわらず、TV視聴率の事実上の通貨として使われているからだ。
ニールセンは、新製品の開発に乗り出すことを2020年12月に発表し、700億ドル(約9兆2500億円)規模のリニアTV市場における測定手法を2024年秋までに変革すると約束していた。4日の発表は、2022年後半にNielsen ONEの展開を開始し、リニアTVにおいてはC3(放映開始から3日以内)およびC7(放映開始から7日以内)の視聴率からの移行を開始するという同社のスケジュールが概ね順調に進んでいることを示すものだ。
しかしこれは、その将来をかけて取り組んできたニールセンにとっては、なだらかな道のりではなかった。
2021年9月、ニールセンはパンデミック期間中の視聴率の算出に誤りがあったとして、メディア評価評議会(MRC)からリニアTVとデジタルTVの認証を取り下げられた。その結果、同社の「Nielsen National TV View」は、「Digital Ad Ratings」と「Local TV Ratings」に続き、この年にMRCの認証を失った3つ目の測定サービスとなった。ニールセンは今もMRCバッジを取り戻せていない。
大手TVネットワークが新しい測定パートナーのテストを開始したのはこの頃だ。9月にNBCユニバーサルが新しい測定プロバイダー向けのRFP(提案依頼書)を提示したことをきっかけに、より高度なソリューションを求める動きが業界で活発になった。
同月、Campaign USは、ニールセンの競合企業であるビデオアンプ(VideoAmp)が、大手の持株会社すべてと大規模なパイロットテストを開始したことを報じた。それ以来、同社はバイアコムCBSや、最近ではワーナー・ブラザース・ディスカバリーといった大手ネットワークと提携している。一方、NBCUは2022年1月にアイスポットTVと提携し、その年のスーパーボウルとオリンピックで同社製品のテストと測定を行うことを明らかにした。
希望はまだある
こうした混乱にもかかわらず、広告バイヤーはニールセンや同社の新製品の開発を今も支持している。結局のところ、業界はニールセンを中心として構築されてきたレガシーシステムや手続きに依存しており、同社との共同作業に慣れているのだ。
ニールセンのジルベルティ氏によれば、同社の製品を試したクライアントからのフィードバックは「好意的なものばかり」だったという。
グループエムは、Campaign USの取材に対して次のように述べている。「現行のニールセン製品がプライムタイムへの対応をようやく整えこと、また2023/2024年度のアップフロント(TV広告枠の先行販売)では、複数の競争力のあるソリューションが登場するということは良いことだ」
また、Nielsen ONEのローンチパートナーでもあるマグナで、オーディエンスインテリジェンスおよび戦略担当エグゼクティブバイスプレジデント兼エグゼクティブディレクターを務めるブライアン・ヒューズ氏は、次のように語った。「ローンチ後も、当社はNielsen ONEと競合するクロススクリーンソリューションの評価作業を続け、クライアントに最適なオプションを見極め、クロススクリーンへとスイッチが『切り替わる』2024年には、統合プランを策定する予定だ」
業界は、TV用の通貨の測定プロバイダーを1社に限定するという考え方から脱却し、複数ベンダーとの提携が必要となる将来を見据えているようだ。
「Nielsen ONEも、この分野の他の新興プレイヤーとともに、クロススクリーンでの動画視聴におけるプランニング、バイイング、測定ツールの有力候補の1つになることを期待している」と、ホライゾンメディアの最高投資責任者を務めるデビッド・カンパネリ氏は語った。