今年も業界内では、例年と同様の不平不満が噴出していた。調達部門はクリエイティビティーを、まるで部品のように調達しようとするし、それもできれば無料であることを期待したりする。クライアントが求めてくる競合プレゼンは、ありえないスケジュールだったり、おびただしい数の広告会社が絡んでいたりする。「新しいアプローチを月曜日までに欲しい」と、金曜日に連絡してくる。クリエイティブブリーフが絶えず変更となるため、クリエイティブワークが幾度となく白紙に戻される。コンサルティング会社やプラットフォーム、ロボットは躍進し、われわれにとっての脅威は果てしなく増大していく。
これらの愚痴が示唆するのは、われわれは制御不能な境遇に置かれた、無力な被害者だということ。われわれを苦しめる力は途方もなく大きく、そして強烈だ。
もちろんこれらは、きわめてナンセンスな話だ。われわれは通常、それなりに管理可能で小規模な広告の世界に身を置く、権限を与えられたプレーヤーだ。われわれは、「イエス」と肯定しなくてはならない世界に生きているのではない。「ノー」と断ることもできるのだ。
もし「ノー」と言えば、数々のことが起こるはず。まず、自分自身について、明らかに良く思えるようになる。次に、周りの人があなたに対して、良く思うようになる。そしてここが一番大切なのだが、締め切り、対価、その他ありとあらゆるものが、以前よりも良い条件で提示されるようになるのだ。競合プレゼンをせずに、仕事を貰えることだってあるだろう。
なぜならあなたが、自分の提供する成果物に見合うだけの価値を守ろうと、立ち上がったためだ(価値ある成果物だとの仮定だが)。あらゆる所に赴き、何かを売るために必要な自信を、あなたが示したためだ。
もちろん、ここに書かれたような効果が見られないこともあるだろう。そのような場合は、そもそもその相手と仕事することをやめた方がいい。
(文:チャールズ・ウィグリー 翻訳・編集:田崎亮子)
チャールズ・ウィグリー氏は、BBHのアジア太平洋担当チェアマン。