ウェンディ・ウォーカー氏は、テクノロジー、通信、保険の分野で20年近くマーケティングに携わってきた。現在は、セールスフォースのシニアディレクターとしてアジア太平洋地域(APAC)のマーケティングを担当している。セールスフォースは強力な対面営業で知られているが、パンデミックによって、ウォーカー氏と彼女のチームは短期間のうちにバーチャルなビジネス手法に移行せざるを得なくなった。ウォーカー氏はCampaign Asia-Pacificによるインタビューの中で、セールスフォースが、どのようにこの困難なバーチャルへの移行を成し遂げたのか、マーケターがこのような変化に対応する際に求められるスキルとは何か、CMOがあふれかえるリモートコンテンツにどう対処すべきか、そしてパンデミック発生から2年が経った今、業界が直面する飽和状態等について、率直に語ってくれた。
以下はその抜粋だ。読みやすさを考慮して編集を加えている。
Campaign:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックも2年目に入りましたが、マーケターがバーチャルコミュニケーションへの継続的な移行を遂行する上で、最も重要なスキルは何でしょうか?
ウォーカー氏:マーケターはテクノロジーやデータを活用して、戦略を立てる必要があります。しかも、それは顧客にエンゲージし、より深い人間的なつながりを築く戦略でなければなりません。そのためには、ハードとソフト両方のスキルが必要です。パンデミックにより、データとデータ分析スキルが本当の意味で最重要視されるようになったと思います。
労働環境の変化を考えると、コラボレーションも大きな問題です。「場所に縛られない働き方」は、今後も継続する可能性が高いでしょう。セールスフォースの「マーケティング最新事情(State of Marketing)」によると、ASEAN(東南アジア諸国連合)のマーケターの77%が、パンデミックによって仕事におけるコラボレーションやコミュニケーションの方法が一変したと回答しています。しかも調査結果は、コラボレーションがパンデミック前よりも難しくなっていることを示唆しています。私も確かにその通りだと思いますし、私のチームでもそれを実感しています。社内の同僚や外部のエージェンシーと、キャンペーンの調整やコラボレーションを迅速かつ簡単に行う方法があります。しかしそれは、コラボレーションをすべてバーチャルに移行することではなく、コミュニケーションをシームレスにすることでした。これを実現するための模索期間は、間違いなく大きな学びの機会でした。
なぜバーチャルコラボレーションが難しくなったと思いますか。人々はバーチャルコンテンツで飽和状態になっているのでしょうか?
この1年半、私たちはバーチャル体験に移行しなければならず、また素早く適応する必要もありました。スキルに関して言えば、この期間にチームのメンバーは確実に成長しました。対面型イベントの企画や実施に慣れていた人は、改めて革新的で人々を魅了するイベント体験を開発するために、制作プロダクションレベルの非常に高度な映像制作スキルを短期間で習得しなければなりませんでした。また、それにはスタジオを利用して、外部のエージェンシーと効果的にコラボレートする必要もがありました。利用できるチャネルはいくつもあります。しかし、効率性を維持するためには、そのようなシームレスな関係性とコミュニケーションを実現することが極めて重要だったのです。
業界はどれくらい進んでいますか。新しいスキルを身に付けるという点で、マーケターたちがうまくできている部分とまだ改善すべき部分は?
これは継続的な課題になるでしょう。デジタルトランスフォーメーションに関連する主要なトレンドを見る限り、私たちの地域で今もこの変革が続いていることは意外ではないでしょう。動画の可能性は無限大だと思います。そして、これこそ革新が本当に必要な部分です。
短尺動画、ユーザー生成動画、ハウツー動画、ショッパブル動画など、いろいろな動画が普及してきました。マーケターにとって今は、これらの動画を活用して、さまざまなプラットフォームやデバイスで、いかにして消費者にエンゲージメントするかを考える素晴らしい機会だと思います。そして、これらのチャネルのいくつかは確かに大きなチャンスを生み出しています。しかしこの1年で浮き彫りになったように、マーケターには、いくつもの異なるチャネルを介して大規模に顧客エンゲージメントを獲得しなければならないという、困難な課題があります。デジタル疲れは間違いなく存在しています。
消費者向けのマーケターに比べ、B2Bマーケターはエンゲージメントを維持するのが難しいのでしょうか?
そうは思いません。これは、私がいつもチームに伝えていることですが、結局のところ、私たちマーケターの役割は、自分たちのメッセージを誰かに届けるということです。そして、その誰かがB2Bバイヤーの場合もあるというだけです。
もちろん、相手が一般消費者の場合もあるでしょう。いずれにしても、私たちは数多くの異なるチャネルで、顧客にエンゲージするという課題に今後も取り組むことになるでしょう。私たちは現在、膨大な量の顧客データやその他のデータを持っており、これは素晴らしいことではありますが、同時に大変な困難ももたらします。私たちのレポートで特に注目すべき調査結果のひとつは、使用されるデータソースの数が今後さらに40%増加すると予想されていることです。
これによって、CMOの仕事はどのように変化したり、複雑化したりするのでしょうか?
大半の企業がすでに持っている膨大なデータソースを考えると、彼らは、適切にデータの集約や管理ができていないか、集約されたデータの質に満足していない可能性があります。今後数ヶ月でさらに40%もデータソースが増加したなら、かなり厳しいことになるでしょう。したがって、まずは、すべてのデータソースを仕分けして、「これは確かにビジネスに必要なもので、自社にとって最も重要なデータソースであり、これはその集約方法である」と言えるようになることが必須だと思います。
私たちが最近インタビューしたあるCMOは、エージェンシーのクリエイティブの質に対する不満を口にしていました。エージェンシーとの連携も含め、B2Bのマーケターがクリエイティブのクオリティを向上させることは可能だと思いますか?
B2B、B2Cにかかわらず、マーケターはすべて、広告の質を向上させることが可能だと思います。広告業界から見ていて気づいたのは、共感的でインクルーシブな広告が大変増えているということです。このような広告が増えることはとても素晴らしく、嬉しいことです。だからこそ、広告、マーケティングコミュニティの一員として、私たちも常により良いものを目指して挑戦できると思いますし、向上し続けることができると思います。