自分らしい髪の美しさに自信を持てるよう、パンテーンの広告キャンペーンは背中を押し続けてきた。昨年秋には就職活動生の画一的なファッションに異議を唱え、続いて今年1月には驚くほど髪の毛が多い赤ちゃんと、白髪を隠さない近藤サトを起用した広告が話題に。そしてこの春、同ブランドがテーマに取り上げたのは、髪の毛にまつわる校則だ。
「#この髪どうしてダメですか」キャンペーンの4月8日に公開された動画には、生まれつき髪の毛が茶色いために地毛証明書の提出を求められたり、提出してもなお黒く染めるか短く切るよう指導された学生たちが登場。「茶色く染めちゃダメなのに、黒染めっていうのはいいんですか?」と疑問を投げかけ、教師側も「学生らしい髪形について、改めて考えてもいいんじゃないか」と考えを述べる。
「今回公開するWebムービーは、台本無しのドキュメンタリー形式」と説明するのはP&Gのアソシエイト・ブランド・ディレクター、大倉佳晃氏。この動画に先立ち、全国の現役中高生や卒業生、教師を対象に「髪型校則へのホンネ調査」を実施し、3月より広告やSNSを中心にキャンペーン第一弾を展開した。するとツイッター上で3日間で2万件を超えるリアクションが寄せられ、その多くは共感コメントだった。「コメントを読み、日本の『髪型校則』について多くの人が疑問を抱いていたということを実感すると同時に、改めて、この問題に関しては対話するきっかけをつくることが重要だと感じました」
多くの反響を受け、同ブランドは新たに400名(教師と保護者、それぞれ200名ずつ)に追加調査を実施。すると8割の保護者が「生徒の個性や多様性を尊重する学校へ子どもを通わせたいと思う」と回答した一方で、7割の教師が「自分が勤務する学校の校則は、生徒ひとりひとりの個性や多様性を尊重しきれていないと思う」と答えた。また、教師と保護者の8割以上が「学校と腹を割った話し合いの場があってほしい」と望んでいることも明らかになった。
Campaignの視点:
水飲みや日焼け止めの禁止、下着の色の指定などといった、非合理的かつ理不尽な「ブラック校則」の弊害が、ここのところ注目されている。きっかけは2017年、大阪府の高校生が髪の毛を黒く染めるよう強制されて不登校になり、訴訟を起こしたことだった。それ以前にも、遅刻ぎりぎりに駆け込んだ学生が校門に挟まれ圧死する事件や、炎天下で自ら体調管理できない規則などがたびたび問題視されてきた。
パンテーンの調査では「髪や髪形に関する校則やルールがなぜあるのか、理由を先生に聞いたことがない」と回答した学生は9割以上。「おかしいと思っていることはそのままにせず、生徒会に提案するなど動いてはどうか」と問いかける教師のコメントがサイト上にあるが、一方で「たとえみんなが疑問に思っていたとしても、長くあるルールをすぐに変えることは簡単なことではないかと思います。今回の動画で描かれているように、まずは生徒と教師の間で対話を始めることが、大きな一歩になるのではないかと思います」というコメントも。
話し合いで、すぐに状況が改善されるかは不明だ。パンテーンのユーチューブ公式チャンネルに寄せられたコメントにもあるように、話し合っても学校側からノーを突きつけられたり、堂々巡りするだけで結局変わらないのかもしれない。そもそも、これまで続いてきたルールに思春期の学生が異を唱えること自体が、たやすいことではない。
だが、世の中では変化の兆しはすでに現れている。2017年12月には有志による「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」が発足、実態調査や校則の提案などを実施している。約9割の教師が「時代に合わせて校則も変わる必要がある」と感じていることも、本キャンペーンの調査で明らかになった(9割もいるのになぜ今まで変わってこなかったのかは疑問だが……)。このキャンペーンでは、これまで常識と思ってきたことを考え直すきっかけを、新聞やポスター、SNSを効果的に用いて提供している。
(文:田崎亮子)