昨年、フロイド氏の死を受けて世界各地に広がったブラック・ライブズ・マター(BLM)運動に、多くの企業は支持を表明した。
今、PR専門家たちは「企業が果たすべき役割はまだ道半ば」と話す。
「従業員に向けた対策がまだ不十分」というのはPR会社ポーターノベリのマネージングディレクター、コンロイ・ボックスヒル氏。「行動は言葉より雄弁であることを忘れてはなりません」
同社戦略・インサイト担当シニアバイスプレジデントのシャニ・セントジョン氏は、「どのようなコミュニケーションも常にリスクをはらんでいる」という。
「コミュニケーションを取るべきか、また取るのであればいつ、どこで、どのように実行するべきか……迷った時には、自社の価値観と存在意義に照らし合わせて決めるべきでしょう」
事件から1年、パンデミックという極めて特殊な状況下で、主要企業はどのように自社の価値と公約を反映させているのか。
アマゾン
昨年、アマゾンは警察に対し、顔検出と分析に使われる技術「レコグニション(Rekognition)」の1年間に及ぶ使用禁止措置を適用した。
DEI(ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン = 多様性、公平性、包摂性)に関して掲げた目標では、2年続けて米国内における黒人管理職の数を倍増。
加えて、黒人の専門職とマネージャー、シニアマネージャーの雇用を昨年と比べて少なくとも30%、ソフト開発エンジニアのインターンは40%増やすと発表した。
また、5000人以上の黒人やヒスパニック(ラテンアメリカ系)、先住民を専門職として採用・養成する全社的プログラムもスタートさせた。
アップル
アップルは昨年6月、社会の公平・平等性実現のために1億ドル(約110億円)を拠出すると発表した。
今年、その公約を更新し、歴史的黒人大学(HBCU、1964年の公民権法制定以前に黒人のために設立された高等教育機関)で人工知能(AI)や機械学習、拡張現実(AR)、アプリ開発などに携わる学生・教員をサポートする「プロペルセンター(Propel Center)」への資金提供を発表した。
デトロイトでは「開発者アカデミー」を設立。またヴァモス・ベンチャーズ、ハーレム・キャピタルといった投資会社と協働し、マイノリティー(社会的少数者)のコミュニティーから起業家を育成するプログラムを支援。加えて、エンジニアを目指す若者のための奨学金制度を設立、資金提供を行った。
さらに、公正な刑事司法と人種正義の実現を目指す全米黒人地位向上協会(NAACP)の法的防衛及び教育基金(Legal Defense and Education Fund)、ブラック・ライブズ・マター支援基金といった団体・組織への寄付も行っている。
バンク・オブ・アメリカ
昨年6月、バンク・オブ・アメリカは人種的不平等や経済的格差の是正に取り組むため、今後4年間で10億ドルを拠出すると発表。今年3月には、それを12億5000万ドルに増額すると発表した。
昨年はスミソニアン協会やラジオ業界最大手アイハートメディア(iHeartMedia)、青少年のボランティア活動を促進するボーイズ・アンド・ガールズクラブ・オブ・アメリカといった団体・企業とプロジェクトを協働。9月にはマイノリティーの起業家や基金に2億ドル、マイノリティーの顧客を専門とする銀行に1億ドルを資金提供した。
また、黒人・ヒスパニックの学生の技能訓練支援のため21の高等教育機関に2500万ドル、パンデミックで大きな打撃を受けた先住民コミュニティーに1300万ドルを寄付。加えてモアハウス大学、スペルマン大学、黒人経済連合基金(Black Economic Alliance Foundation)などと共同で黒人起業家の育成センターを立ち上げた。
バンク・オブ・アメリカによると現在、同社の役員会及び経営陣の50%、米国内の全従業員の48%が有色人種で構成されているという。
シティバンク
フロイド氏事件から1年となる5月25日に先立ち、シティバンクのグローバル広報担当エグゼクティブバイスプレジデントのエドワード・スカイラー氏は社内向けにメッセージを送付。曰く、「フロイドさんが殺害された際の映像は今も生々しく、耐え難いものであり、米国の現状は機会均等の国という誓約からいまだ程遠いことを示している」
そして「我が社はこれまでと同様、反人種主義に貢献し、具体的行動を取っていく」と明言。
シティの掲げたプログラム「人種平等のための行動(Action for Racial Equity)」では、人種間の貧富の格差解消のために10億ドル以上を拠出。スカイラー氏は「HBCUと協働するなどし、多様な従業員の雇用と雇用維持、昇進を推し進めるためさらなる努力を続けていく」とコメント。
「まだ多くのことをやり遂げねばなりません。どんなに困難で不快さが伴うことであっても、必要な対策は実行するという我々の決意は変わらない。多様性こそ、我々の持つ真の強さなのです。それを証明し、これからも他社に範を示していきたい」(同氏)
ゼネラルモーターズ
先月24日、ゼネラルモーターズ(GM)のメアリー・バーラCEOは「フロイド氏事件から1周年となる5月25日は、追悼と尊厳の日」とツイート。
「この事件がBLM運動の口火となったこと、社会にどのような進歩をもたらし、今どのような課題が残されているかを直視しなければならない」
それに先立ち、GMは「偏見と不正に反対する」というメッセージをリンクトインに投稿。今後10年の取り組みとして、5万人以上に及ぶディーラーにDEIの研修を実施すること、100万人の黒人に家族を養える報酬が派生する仕事と生活向上の機会を提供する合同プログラムに参加することなどを挙げた。
また、1000万ドルを投じて「公正と包摂のための基金(Justice and Inclusion Fund)」を設立。そのうちの400万ドルを全米黒人地位向上協会の法的防衛及び教育基金や、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア記念財団の研究員奨学金プログラム、ニューヨーク大学アジア太平洋アメリカン協会の奨学金プログラムなどに寄付するとしている。
リーボック
先月26日、リーボックのマット・オトゥール社長は社内向けにメッセージを送付。
曰く、「今はまだ気を緩めるべき時ではない。むしろ、様々な動きにより注意深く目を配るべき時なのです」「我々の文化を発展させ、真に包摂的なコミュニティーを築くために人種差別や不正と闘っていく。そのための資金提供を続けていきます」
リーボックは昨年、黒人・ヒスパニックコミュニティーと人種差別撤廃に注力する団体・組織に今後5年間で1500万ドルを提供すると発表。今年は「リーボック人権賞」を復活させ、黒人・ヒスパニックコミュニティーに知育運動プログラム「BOKS」を普及させるため20万ドルを提供した。
また、新規採用者に占める黒人・ヒスパニックの割合を少なくとも30%にすると発表。加えて、その50%はあらゆるカテゴリーの多様性を満たす人材にするとした。さらに2025年までには全従業員の20〜25%、米国における管理職の12%を黒人・ヒスパニックにするという目標も発表。同社によると、すでにそれらの数値目標を上回ったという。
ターゲット
5月末、小売大手ターゲットは社内に設けた人種公正委員会の功績についてソーシャルメディアに投稿。曰く、「黒人のお客様と従業員、そしてコミュニティーに持続的かつ体系的な変革を生み出した」
昨年発表した「多様性に関する報告書」では、今後3年間で黒人従業員の割合を全従業員の20%にすると明言。黒人の上級管理職の割合はすでに約40%になったという。
また、黒人が所有する販売会社や建設会社、広告エージェンシーといった企業との取引を2025年までに20億ドル以上に増やすと発表。この取り組みには黒人起業家のサポートも含まれ、地域の黒人所有企業の無償サポートにはこれまで約8000時間を費やしたという。さらに、HBCUでの奨学金プログラムも開始した。
ウォルマート
ウォルマートは先月25日、ダグ・マクミリオンCEOがツイートで声明を発表。米国における人種差別の長い歴史について言及し、「平等と正義の実現は汗を流して闘う価値がある。そのために引き続き行動していく」と述べた。
また、ノースカロライナ州立農業工科大学に500万ドルを提供し、公平性に関する教育プログラムを始めると発表。さらにウォルマート財団を通じ、同社が設立した「人種平等のためのセンター(Center for Racial Equity)」に今後5年間で1億ドルを拠出する。今年2月にはその第一歩として、1430万ドルを寄付した。
(文:ベッツィー・キム 翻訳・編集:水野龍哉)