エッセンス(Essence)の最新調査によれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックがもたらした不確実性は、マーケティングエコシステム全体を襲った複雑な政治的、経済的潮流とあいまって、2021年以降のマーケティング戦略に重大な影響を及ぼす可能性が高いという。世界的な不確実性を考えると、過去のデータを用いて未来の意思決定を下すことがますます難しくなる。エッセンスの報告書が問いかけているように、将来、ポピュリズム的な政府がアマゾンを国有化したり、中国のインターネットが完全に「分離」されたりするならば、ブランドはそれにどう備えればよいのだろうか?
エッセンスが調査した専門家たちは、2020年の出来事を受けて、バイオメトリクスデータの使用(より実現性が高くなると予測した人の割合65%)、バーチャル環境(同59%)、サブスクリプションサービスの増加、パーソナライズ(同56%)、マイクロペイメント(同46%)など、8つのシナリオでより実現性が高まると予測した。またこのレポートでは、回答者の40%が人工知能(AI)や自動化による雇用喪失や賃金減少の実現性がより高まると予想した一方で、60%近くが、消費者は環境を優先するようになると考えていることが示されている。
これほどの混乱の中にあって、同じ状態に留まることができるものなどあるのだろうか? しかしこれほど流動的な状況であるにもかかわらず、他の5つのシナリオは2020年の激動の影響をほとんど受けなかった。また、エッセンスによれば、2020年初めの調査時よりも現実になる可能性が低下したのは、世界規模のプライバシー法の採択(実現性がより低くなると予測した人50%)、巨大テクノロジー企業の分割(同41%)という2つのシナリオのみだ。全体的には、国際協力の熱が冷め、二極化の冷たい風が吹き始めたように見える。
「2030年の広告:専門家による2020年の影響評価(Advertising in 2030: Experts rate the impact of 2020)」と題されたこの報告書では、eコマースなど、既存のトレンドの加速も予測している。当然のことながら、パンデミックによって促進され今も続く大きな変化として、専門家の4分の3近くがデジタル、バーチャル、eコマースを挙げている。グループエム(GroupM)は、世界全体のリテールeコマースは2020年の4兆ドル(約421兆円)規模から、2027年までには10兆ドル(約1053兆円)に到達すると予測している。また、eコマースの普及が遅れていた国(オーストラリア、カナダ、日本など)では、今後数年間でさらに急速な成長が見込まれている。
ほかにも加速が予測されているトレンドがある。その重要な変化のひとつが、消費者が購入の意思決定を下す際、価格だけではなくブランドの目的や社会的評価を考慮し始めたことだ。エッセンスが2020年の初頭にこのテーマについて専門家らの意見を聞いたとき、すでにその過半数が、2030年までに環境への影響が購入の検討材料として価格と同等かそれ以上になると考えていたと本レポートは指摘している。また2020年の激動を経た今、環境以外の社会的大義も消費者にとって極めて重要なものになる可能性があることを示している。
これらの変化とこれからの不確実な10年に対処するため、エッセンスがヒアリングした専門家たちは、マーケターに、さまざまな未来のシナリオを想定した顧客のエンドポイントに関する実証を行い、現在の変化に正面から向き合うよう助言している。そして、報告書は最後に、マスコミュニケーションは終わりを迎えると述べている。代わりに、ブランドは顧客体験の中に溶け込み、その体験は個々の消費者のためにパーソナライズされ、細分化されていく。そんな未来が訪れるだろうと