日本で7月22日から配信が始まった「ポケモンGO」はすでに世界35カ国で大ブームとなっている。ブルームバーグによると、任天堂の時価総額はソニーを抜いて390億米ドルを超えたようだ。
また日本での配信開始に際し、東京株式市場で任天堂の株価が7%近く上がったともブルームバーグは報じている。長く苦戦してきた任天堂に突然明るいニュースがもたらされた格好だが、同社はブルームバーグに対し「ポケモンGO」が長期的な業績に与える影響は「限定的」との見通しを伝えたようだ。実際に、今週は株価が25%近い下落を示した。
ここで重要なポイントは、「ポケモンGO」が任天堂の資産ではない点だ。任天堂はポケモン社と、人気の「イングレス」を開発したナイアンティック社の株主ではあるが、「ポケモンGO」は両社のアプリである。ポケモン社が任天堂から独立した形で事業運営していることを考慮に入れると、任天堂ブランドへのプラスの影響は持続するのか、単に一時的なものなのかが焦点となる。
エッセンスの日本のマネージングディレクター、西谷大蔵氏は配信開始当初、「ポケモンGO」の成功を確信し、間接的ながら任天堂の売上が伸びるチャンスであり、任天堂ブランドに長期的に良い影響をもたらすだろうと語った。
同じころ、付近にいるモンスターを通知するブルートゥース連動機器「ポケモンGO Plus」の発売が、9月に延期されることが明らかになった。
任天堂はかつて、知的財産権に対する考え方が硬直的で、ソフトとハードの分離に消極的であるとゲーム愛好家たちから批判されていた。しかし「ポケモンGO」によって、変化に対する前向きな姿勢を示せるのではと、楽観する向きもある。
R/GAのアジア太平洋地域戦略マネージングディレクターであるクリスター・エリクソン氏は「短中期的な『ポケモンGO』の成功が大きいほど、ゲーム機中心の任天堂ブランドやプロダクトは、体験重視のスマートフォン中心のゲームへと、一層の進化を迫られるだろう」と指摘する。
また、スマートフォンに対して慎重な姿勢を取り続けてきた任天堂の「ポケモンGO」に刺激を受け、ゲーム会社各社が拡張現実(AR)のゲームに進出するため、ライセンス契約締結や自社の知的財産の活用に力を入れてくると、同氏は考えている。「この陣取り合戦で任天堂が、自社の知的財産をどの程度活用するかも含め、どう立ち回るか。それが今後の任天堂ブランドを方向付けるだろう」
同じくR/GAのテクノロジーディレクターであるアンソニー・ベイカー氏によると、任天堂は、何年も前から存在はしていたが活用範囲の狭かったARに、再びスポットライトを当てることに成功したと話す。「ポケモンGO」は「アプリ内課金による売上のみならず、人々の徒歩での往来をマネタイズする新しい事業モデルが、状況を一変させる可能性がある」
マクドナルドは「ポケモンGO」の日本での配信開始に対応しており、販売促進効果に加え、多くの店舗がこのゲームを楽しめる場所となった。もちろんこれは任天堂ではなくナイアンティック社とのタイアップだが、任天堂が今後同様の展開をすることを妨げるものは何もない。西谷氏は、「ポケモンGO」はコンビニエンスストア、自動車ディーラー、旅行代理店、ドラッグストアなど幅広い業態に、事業提携やマーケティングの機会をもたらしたと話す。
『ポケモンGO』への目新しさがなくなった後も、任天堂は消費者の興味を維持できるか、そして持続的な事業モデルを生み出すことができるか。まだ何とも言えないが、一つだけ確実なことがある。任天堂はARの応用により世界規模で消費者の興味を引き、人々と現実世界との関わり方を一変させることができると証明したのだ」とベイカー氏。「最新の技術進歩を鑑みるに、これはまだハイパーリアリティーがもたらす世界規模での変革の、第一歩に過ぎないと言えるだろう」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)