重大疾病保険は販売することが難しい商品だった。高額な保険料、支払いをめぐる問題、加入の必要性に対する懐疑的な見方など、これまで、あまり良い評判を得ていなかったからだ。しかし、大手生命保険会社のマニュライフによると、パンデミックがそうした考え方を一変させたという。
マニュライフは4月初め、健康関連で特に懸念していることについて、25歳から54歳までの香港人を対象とした調査を実施した。そのなかで数多く挙げられた懸念事項は、まず、がん(72%)であり、それに心臓病(55%)、脳卒中(53%)が続いた。また、新しい未知の病気に対する不安(42%)も根強い。この調査では、重大疾病に対する総合的な保障を求める声も多く、保障を継続するための金銭的な支援(46%)や、柔軟な支払いオプションのある保障が求められていることも明らかになった。
マニュライフは、こうして得られた知見に基づき、最新の重大疾病保険「ManuPrimo Care」と「ManuPrimo Care (BestStart)」に関する大規模な認知度向上キャンペーンを展開した。「Best Chance of Survival(生き残るための最良のチャンス)」と銘打たれたこのデジタルキャンペーンには、YouTubeでの90秒のソーシャル動画、「ViuTV」アプリでのCMと連動した30秒の動画、そして市内の主要な場所における大規模なOOH(屋外広告メディア)の掲出が含まれる。
電通が企画・制作したこの広告では、俳優のゴードン・ラムとルイーズ・ウォンがカップルを演じ、アクション満載のCMに仕上がっている。この広告は、従来の生真面目なコミュニケーション戦略を打ち破り、恐怖や悲しみ、不安を煽るような従来手法には依存していない。その代わりに、早期の備えの重要性と、たとえ重大な病気になっても経済的な安定を維持できることに、訴求の重点が置かれている。
動画の中では、日々危険にさらされているスウィフト捜査官とフレキシ捜査官(演じるのはウォンとラム)が、食事をしながら重大疾病保険のアップグレードの重要性について話している。この広告は、消費者の関心を集め、重大疾病保険に関する意思決定の障壁を克服することを意図しており、深刻で重いテーマとは対照的に、軽快なアプローチをとっている。
Campaign Asia-Pacificは、マニュライフ香港・マカオのマーケティング責任者であるケネス・ルク氏に独占インタビューを行い、大規模なマルチチャネルでの展開に先立ち、(保険の)画一的な広告が雑然とあふれる現状を、このキャンペーンでいかにして打破しようとしているかについて語ってもらった。
このキャンペーンをどのように企画したのかについて教えてください。
私たちは、著名俳優のゴードン・ラムとルイーズ・ウォンをプロダクトアンバサダーとして起用しました。日頃から危険にさらされている特別捜査官でありながら、親近感もあるキャラクターを、2人に演じてもらうのが狙いでした。2人は優秀で、人々を守るのが本業ですが、その過程には多くの不確実性とリスクが存在します。
当社の信念は、リスクマネジメントの最良の方法は十分な備えをすることだ、というものです。医療技術の進歩により、重大な病気になっても、早期の治療により生存できる可能性が高くなりました。そこで、このキャンペーンにより、当社の2つの新しい重大疾病保険プラン「ManuPrimo Care」および「ManuPrimo Care (BestStart)」の認知度を高めてプロモーションすることで、重大な病気になったときに生存できる可能性を高めることを目指しています。
このCMは、重大疾病保険の広告にありがちな、涙を誘うストーリーとは一線を画していますね。このコンセプトのために、クリエイティブチームに示されたブリーフはどのようなものでしたか?
マニュライフでは、どのキャンペーンにおいても、クリエイティビティとマーケティングを融合させ、ターゲットオーディエンスが共感できる素晴らしいストーリーのキャンペーンを生み出すことを目指しています。私たちは、この一般的には深刻な話題について、別のアプローチを取ることを望んでいました。人々が重大な病気について話すのを嫌がったり、怖がったりしていることは承知していますが、それが常態化してほしくはありません。だからこそ、そうした考え方を変えるため、深刻な話題をポジティブかつ気軽な視点で捉えたかったのです。
制作の狙いは、回復への過程には支援があり、医療の選択肢もあり、悲観的なことばかりではないことを示すことでした。さらに、重大疾病にはさまざまな種類や段階があり、回復への道のりも人それぞれであることを強調することが重要でした。
撮影の段階では、経験豊富な映像作家を起用し、CMが娯楽映画のような雰囲気になるよう演出してもらいました。
CMの制作面で何か大変だったことはありますか?
電通とは以前にも仕事をしたことがあったので、制作は非常にスムーズに進みました。CMの撮影に要したのは2日間で、スチール撮影に1日を確保していました。ゴードン・ラムもルイーズ・ウォンも、香港ではとても有名な俳優ですが、映像作品で共演するのは初めてです。2人とも完璧なプロフェッショナルで、私たちが期待していた以上の演技で応えてくれました。これは、すべてにおいて、忘れられない体験でした。
キャンペーンの全体的なマーケティング戦略はどのようなものでしたか?
キャンペーンの第一弾は、ブランドアンバサダーのラムとウォンを招いての商品発表会でした。
今後は、香港地下鉄(MTR)の香港駅と銅鑼湾(どらわん)駅の一等地と、ショッピングモール「アイランド・ビバリー」の屋外に、目立つようにディスプレイ広告を掲出する計画です。市内を走るバスやバス停のシェルターにも広告を掲出します。また、デジタルでも展開し、重大疾病に対する備えについて、ソーシャルでの会話と認知を喚起していきます。
YouTubeでの90秒のソーシャル動画、ViuTVアプリでの30秒の動画に加え、ViuとOpenTVで35秒のテレビ用コマーシャルを流す予定です。短尺の動画でも、CMのテーマを引き継ぎ、ラムとウォンが特別捜査官に扮し、保険プランのメリットを訴求していきます。
また、マルチチャネルキャンペーンでは、コンテンツタイアップや、予約型ディスプレイ広告、サーチエンジンマーケティングなどを展開します。
保険のマーケティングは、往々にして同じようなものになりがちです。マニュライフはどのようにして、際立った存在になろうとしていますか?
データやリサーチ、業界インサイト等を活用することは、顧客のニーズを把握する上でとても重要です。例えば、消費者のニーズが進化していること、継続的なケア給付やより柔軟で選択肢の多い顧客本位の重大疾病ソリューションが求められていることなどが、調査によって明らかになり、そこからこのキャンペーンは制作されました。私たちは、説得力のあるストーリーテリングで、オーディエンスとの感情的なつながりを確立するよう努力しています。
2022年、最後の四半期を迎えますが、来年のマーケティングテーマについてお聞かせください。
パンデミックによって人々の保険に対する欲求は高まっています。保険業監管局の最近の調査によると、香港における生命保険の保険密度と普及率は、すでに世界最高水準にあります。 健康や保障に対するこうした欲求は、マニュライフが香港の人々のニーズを満たすのに最適な立場にあることを意味します。
また、デジタル主導で顧客中心の医療保険会社のリーダーとして、引き続きデジタルツールを活用し、顧客の保険ニーズを加速させ、顧客体験をよりいっそう向上させていきます。
パンデミックによって、多くのことが変化しました。貴社が独自に実施した調査でも、人々が重大疾病についてますます関心を持つようになってきたことが明らかになっています。ニューノーマルの時代を反映し、マーケティングのアプローチはどのように変化したのでしょうか?
ご指摘のとおり、パンデミックによって、私たちの健康意識はますます高まっています。人々がオンラインでエンターテインメントを視聴する時間が増えているので、当社はデジタル動画プラットフォームへの注力を強め、よく考えられていて楽しめる広告を制作することで、同業他社との差別化を図っています。
当社にとって重要なのは、オーディエンスと感情的なつながりを築きながら、予防策や将来設計についての意識を高めることです。ポストパンデミックの今、人々はキャンペーンに楽天主義とエンターテインメントを求めています。そしてそれが、当社のキャンペーン戦略の基調となっているのです。
(このインタビュー記事はわかりやすくするために編集されています)