ブランドがパンデミックの影響からの回復を試みるなか、リテールメディアネットワークの台頭が重要なトレンドとなり、大きなマーケティング機会として注目も高まっている。
リテールメディアネットワークを簡単に説明するなら、小売企業が自社のデジタルでの広告スペースや実店舗でのスペースを他の広告主に提供するものを指す。例えば、スーパーマーケットブランドのウェブサイトに掲載されている他のブランドの広告などが挙げられる。リテールメディアネットワークの概念は数年前から存在するが、大半のブランドは、この機会を最大限に活用するための適切なテクノロジースタックとマインドセットを獲得する出発点に立ったばかりだ。
現在、さまざまな要因によってブランド広告主はリテールメディアに引き寄せられている。リテールメディアは、オンラインで顧客との距離を縮めるメリットに加え、完全にブランドセーフティな環境を提供することもできる。また広告主は、サードパーティCookie関連の問題を回避し、小売企業のファーストパーティデータを用いたターゲティングが可能となる。
さらに、リテールメディアを活用すると、広告支出を詳細に追跡し、適切に配分することができ、認知からコンバージョンに至るカスタマージャーニーの全ての段階で、インパクトのあるブランドメッセージを届けることができる。購買ファネルの各段階(認知、検討、購入前、購入)について考えるとき、これまでは往々にして「検討」と「購入前」の段階への投資が不十分だった。だが現在では、このファネルの中間部に多くの広告費が投入されている。
リテールメディアがもたらすもの
リテールメディアネットワークが広告チャネルとして急成長しているもうひとつの理由として、効果測定とアトリビューションがはるかに容易になったことが挙げられる。クリテオ(Criteo)が実施したリテールメディアの業界調査によれば、パフォーマンスに関して、79%のブランドがリテールメディアへの投資によってROI(投資利益率)またはROAS(広告の費用対効果)が上昇したと回答している。また、デジタルシェルフ研究所(Digital Shelf Institute)の調査では、グローバルなオムニチャネルプラットフォームに、オンライン広告費を1ドル投じるごとに、店頭での購入額が7ドル~11ドル増加したと報告している。
これまでマーケターにとって、パーソナライズとリーチは両立させることが難しかった。デジタルメディアはパーソナライズを得意とするが、往々にしてブランドマーケターが求めるほどのリーチは得られない。一方、テレビやラジオなどのオフラインメディアは大勢にリーチできるが、パーソナライズの選択肢は存在しない。だがリテールメディアでは、消費者の購買に関する動的なコンテキストを認識して、デジタル広告に適応させた上で、大規模に配信することもできる。こうした能力は、マーケターに真の変革をもたらすものだ。
リテールメディアは広告主に、ブランドに関する話題に顧客を引き込むというこれまでにないユニークな機会をもたらす。例えば、店内のフードコートやレストランなどの空間は比較的未開拓で、十分に活用されていない大きなチャネルだ。そうした場所には、同じところに少なくとも30分ほど座っていて、動くことができないオーディエンスがいる。また、一度にいくつものメッセージを浴びせられるような騒然とした空間ではないので、顧客の心は新しい情報やコミュニケーションも受け入れやすい状態にある。このようなスペースは、ブランドが存在感を示し、顧客と「検討」や「購入前」の段階のコミュニケーションを始めるのに最適の場所だといえる。
リテールメディアネットワークがブランドのパフォーマンスに与えるインパクトも、オムニチャネルキャンペーンの一環として測定できるようになった。マーケターが目指すべきは、購入に至るまでのさまざまなカスタマージャーニーを把握し、メディアの支出配分を改善することにより、コンフリクトが生じている場所を特定して、顧客にシームレスな体験を提供することだ。
ブランドマーケターにとっては、今こそリテールメディアネットワークを試す絶好のタイミングだ。この機会は現実的で、しかも検証可能だ。小さなテストであれ、大規模な実験であれ、ブランドマーケターが関与しないのは大きな間違いといえよう。
ビベック・クマール(Vivek Kumar)氏は、フェアプライス・グループの戦略的マーケティングおよびオムニチャネル収益化担当ディレクター。