ニューヨークを拠点に活動するメディアリンクのチェアマン兼CEO、マイケル・カッサン氏。長年にわたるその表向きの活動は、米国の広告・メディア界における中立的な「つなぎ役」だ。時に、互いのコミュニケーションが難しいと思われる様々な分野の企業同士の溝を埋め、双方に利をもたらす(ちなみにメディアリンクは2年前、カンヌライオンズを運営するアセンシャルに売却された)。同氏は2019年が広告主やエージェンシー、メディア企業にとってどのような年になると見ているのか。
メディア企業
「より多くの買収が行われると思います。バイアコムやCBS、ライオンズゲート、MGMといった会社が買収されるというのがメディア企業に関する私の『ビッグバン宇宙論』。バイアコムとCBSに関しては、買収は理にかなっている。ライオンズゲートがある意味、売りに出されているのは誰もが知っています。MGMに関しては定かではありませんが、メディア・エンターテインメント分野の巨大買収として可能性が取り沙汰されている。今後もその噂は絶えないでしょう」
広告代理店
広告代理店や持ち株会社でもより多くの統合が行われるという。WPPが最近、VMLとY&R、ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT)とワンダーマンを統合したのは「その弾みになるはず」。
「これらのブランドを持っている必要性はあるのでしょうか。そもそも持ち株会社がつくられたのは衝突を避けるためでした。マリソン・ハーパーがIPGをつくったのも同じ理由です」
来年は持ち株会社もテクノロジーをより一層売りにしていくはず、とも。
「電通が2016年に米国のマークル社を買収したのと同様、IPGがアクシオム(Acxiom)社のマーケティングソリューション部門を買収したのは賢明でした。ただし、既に多くのマーケターがアクシオムと取引を行ってきたので、IPGは『1+1=3』にしなければならない。アクシオムから得るメリットに付加価値を加えてマーケターに提供し、知識やデータ、戦略性を強化しなければなりません」
「他の持ち株会社もこうした動きに同調するでしょう。マークル、アクシオム規模の会社は市場に多いわけではない。ですから他社は買収がかなわなければ、独自の組織を立ち上げざるを得ないでしょう」。
コンサルティング会社
「彼らは既にこの業界で一定の勢力を成し、独自の活動をしています。だからと言って、悩み事が更に増えたと考える必要はない。競争の形態が変わっただけであり、より多くのプレイヤーが出現したということなのです」
マーケター
「インハウスでクリエイティブやマーケティングを処理する流れは確実に続きます。だからと言って、エージェンシーが取って代わられることはない。インハウスのチームをつくるノウハウをクライアントに提供するザ・アンド・パートナーシップ(The&Partnership)のような企業が更に出現するでしょう」
「こうした動きや代理店を排除する動きは増える。マーケターはそれに備え、適応していかねばなりません。それでもクリエイティブ、メディア、デジタルの各エージェンシーやプロダクションが果たす真の役割というのは確実にあり、それに対する需要はなくならない。彼らとの付き合い方は変わるでしょうが、必要なことは確かです」
カッサン氏とメディアリンクはこの数年、「CMOとCIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)の役割が変わる」と訴えてきた。この考えはますます比重を増している。
「一連のCMOの概念や必要な素養は変わってきています。もはや以前の考え方は通用しません。CMOに必要な知識や技能は5年前と大きく変わりました。テクノロジーやプライバシー、セキュリティー、透明性に対する理解が必須になった。ただ優れたストーリーを売る、というだけではだめなのです」
「とは言っても、ストーリーテリングはやはりこの業界で重要な役割を担います。変わったのはあくまでもツールであり、ストーリーの伝達の仕方。したがってCMOは適切に順応しなければなりません」
指定広告代理店
「来年は統合されたクリエイティブ、メディアエージェンシーが再評価されるでしょう。ただ、皆それに躍起になるのではなく、あくまでも合理的見直しです」
「マーケターは『エージェンシー・セラピー』のようなものを行うかもしれない。現在のパートナーシップを再吟味したり、コストのかかる幅広いRFP(提案依頼)を見直したり、といったことです」
「指定広告代理店には、継続的な関係だからこそ生まれるメリットがある。ただし、今日のクライアントはしばしばより多くの選択肢を求めます。フォードとGTB、コルゲートパルモビールとレッドヒューズ・コミュニケーションズのようなクライアントと指定代理店の関係は減っていくでしょう」
テクノロジー
音声アシスタントは「購買者に関するマーケティングの新バージョンであり、2019年のテクノロジーの最も重要な要素」。
「消費者がブランド名を口に出さないまでも、音声アシスタントでどう強く印象づけるかというのがエージェンシーやブランドの課題です。目下のところ音声アシスタントには、ウェブ上の検索でブランドが存在感を発揮できるSEO(検索エンジン最適化)のような仕組みはありませんから」
(文:リンゼー・スタイン 翻訳・編集:水野龍哉)