ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(以下WBD)は、2024年までの構造改革のコストを最大43億ドル(約6000億円)と見積もっている。コストの大部分は、コンテンツ運用の改善と、制作途中のプロジェクトの打ち切りに起因するものだ。
例えばWBDは、『バットガール』、『バットマン:ケープド・クルセイダー』、さらにルーニー・テューンズの新作ミュージカル映画『バイバイ・バニー』などの打ち切りを決定した。こうしたリストラによって、4月以降に1000人以上が解雇されており、コストカットは今後も続くとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。
WBDの西太平洋地域担当マネージングディレクターとプレジデントを兼任するジェームズ・ギボンズ氏は、不確定要素はあるものの、新会社には多くのチャンスと課題があると考えている。
WBDでは、中国、日本、オーストラリア、ニュージーランドを含む西太平洋地域をギボンズ氏が統括している。一方、インド・東南アジア・韓国については、同地域担当プレジデントのクレメント・シュウェビック氏が率いている。
ギボンズ氏は、11月1日、2日の日程で開催された「 Asia Video Summit 2022」の会場でCampaign Asia-Pacificの取材に応じ、「我々はここ数カ月、ワークフロー、プロセス、そして戦略目標のスキーム確立に取り組んできた」と述べた。
「我々は、将来の方向性がはっきり見える段階に達した。第一に、我々の本質はコンテンツIP企業だということ。これは極めて重要だ。なぜなら、世界には多種多様なメディア企業が存在しているからだ」
「我々は、これまで築き上げてきたコンテンツや知的財産を軸として成長する。そこには、『ブラックアダム』のような映画、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のようなHBOのテレビシリーズの他、子ども向けアニメーション、DCコミックス、CNN、そしてディスカバリーが所有するディスカバリー・チャンネルのすべてのコンテンツが含まれる」と、ギボンズ氏は述べた。
ギボンズ氏は、WBDのコンテンツとIPは「膨大なオーディエンス」にリーチできるが、それらを配信できなければ、いくらコンテンツがあっても宝の持ち腐れだと語った。
例えばWBDは、リニアチャンネルに加え、米国のHBO Maxなどのストリーミングプラットフォームも所有している。これに加えて、統合ストリーミングサービス(米国では2023年春に開始予定。APAC主要市場でのサービス開始は2024年後半となる見込み)も間もなく発表される。WBDは、グローバル規模の配信ネットワークを形成し、これらを最適な形で構築し、管理していく必要があるわけだ。
「我々にはフランチャイズ、つまりキャラクターやストーリーに関連したコンテンツもある。『ハリー・ポッター』シリーズは映画やゲームだけではないのだ」と、ギボンズ氏は言う。
「無数の人々が、テレビ放映された映画の視聴や、ハリー・ポッター・スタジオへの来場、グッズの購入などを通じて、ハリー・ポッターの世界に参加している。こうした人々はハリー・ポッターの世界に深く没入しており、顧客体験も複合的なものとなっている。優れた顧客体験を構築するには、このことを理解しておくことが重要だ。フランチャイズには莫大な価値が眠っているのだ」
WBDにとってアジアがもつ意味
世界第2位の経済大国である中国、そして第3位の経済大国で、メディア市場でもある日本は、いずれもWBDにとって非常に重要なマーケットだ。
ギボンズ氏によれば、日本は従来から、ディスカバリーのレガシーネットワークが強く、今後もディスカバリーは一定の成長が見込まれるという。ワーナー・ブラザース側に関して言えば、すでに日本と中国は、映画、ゲーム、消費財マーケットにおいて重要な役割を果たしている。例えば日本は、映画『ファンタスティック・ビースト』の最も重要な市場だった。
オーストラリアとニュージーランドは、GDP的には小規模な市場だが、英語コンテンツと親和性が高く、「強固なエンゲージメント」があると、ギボンズ氏は言う。
「我々はすでに、オーストラリアのオーディエンスのかなりの部分にリーチできている。ストリーミングサービスを開始すれば、サードパーティープラットフォーム経由のつながりから、直接的なつながりへの転換が期待できる。したがって、これらの市場は今後12~24カ月が非常に重要になる」と、ギボンズ氏は説明する。
ストリーミング市場の断片化とインフレへの対応
一貫性のあるデジタル広告商品を構築することは、WBDにとって最も重要な課題だ。広告主がキャンペーン計画を立案する際、WBDがどのようなオーディエンスにリーチしていて、CPMがいくらなのかを説明しなければならない。
従来型テレビの世界では、こうした点はすでに定義済みであり、誰もが広告の効果を理解していたが、ストリーミングの台頭により、広告主に提供されるサービスは断片化してしまっている。
プレミアム動画広告は、WBDの制作スタジオにとっても、放送事業にとっても、非常に重要だ。しかしWBDは新たな市場を開拓し、またコンテンツ収益化の新たな方法も考案しなければならない。なぜなら同社としては、現在のデジタル広告市場の価格帯でビジネスを運営していくつもりはないからだ。
「大きな仕事だが、各国の取り組みの違いに注目すると、例えば我々がネットワークを展開しているオーストラリアやニュージーランドでは、デジタル広告取引は極めて組織化されている。複数のデジタルプラットフォームに共通の測定システムがあり、一貫性のあるデジタルパッケージを提供できるようになっている」と、ギボンズ氏は指摘する。
「チャンネル9、7、10が展開するストリーミングサービス上の広告を手掛ける、ビルボード・アドバタイジング・オーストラリアの例をみると、彼らの市場は巨大であり、また取引条件のなかで広告の効果が完全に定義されている。つまり、システムは完成し、非常によく機能しているのだ。しかし、国によって事情は異なっている」
消費者は、毎月のサブスクリプション費用にかつてないほど過敏になっている。そのため、ディズニープラスなどのストリーミングプラットフォームは、消費者のフラストレーションを抑えるべく、パッケージングやバンドルサービスを工夫している。
ギボンズ氏は、先日ユーチューブが、経済の低迷と競争激化によって広告売り上げが対前年比で減少した、と認めたことについても言及した。
「そういう意味で、我々も世界で起こっているさまざまなできごとの影響下にある。これから直面する課題を決して過小評価はしていないが、我々は、制作スタジオおよび放送事業者として、プレミアム動画広告の市場を再定義しようとしている」と、ギボンズ氏は言う。
「それによって、市場シェアも獲得できると考えている。しかし我々は、いまある市場とは別の、まったく新しい市場を開拓しようとしているわけではない。それは、あまりにも途方もない取り組みになるからだ」
2023年におけるWBDの成長戦略と優先順位
今後を見据え、WBDが最初に着手すべきことは、組織改革を完了し、献身的なチームカルチャーを構築することだと、ギボンズ氏は言う。誰もが共通の目標を念頭に、コラボレーションすることが重要だ。
「カルチャーに重きを置くのは、それがなければ十分に力を発揮できないからだ。それに加えて、ウィンドウの最適化も検討する必要がある」
ウィンドウ戦略とは、特定の媒体ごとに、作品を上映・配信できる期間を定めるものだ。例えば封切映画は、最初に劇場で上映され、そのあとDVDで販売され、そしてPPV/VODや従来のTVネットワークで配信、放映される。
「ウィンドウを最適化しなければ、作品の価値を取りこぼすことになる。番組制作に大金を投じるなら、適切なウィンドウを設定することが重要だ。そうでないと、十分な価値を生み出すことができず、将来的には番組に投資することもできなくなってしまう。だがウィンドウは、各国の市場によって異なるため、複雑な仕事になる」
最後にギボンズ氏は、まもなく開始予定のストリーミングサービスについて語った。ストリーミングサービスは市場での存在感を確立するうえで必要不可欠なものであり、幸先よくスタートダッシュを切りたいと。まずは米国でサービスを開始し、続いて他の市場にも参入する計画だ。
「一部の市場では、より長い期間を要するだろう。だが我々は、サービスを展開できる有望な市場をすでに特定している」と、ギボンズ氏は述べた。