デジタルマーケティングが文化に深く根付いており、プライバシーにも比較的寛容な国民性を持つ日本は、世界中で、リーチ拡大を目指しているブランドにとって活動しやすい国だ。だが、高度にテクノロジーに精通したこの国には特有の課題も残されている。
パフォーマンス系マーケターがこの地域での広告出稿を最適化し、将来のプランニングに役立てられるよう、人気のチャネルや最大の課題、最近の成功事例などを掘り下げる。
市場と消費者の概要
日本は米国、中国に次ぐ世界第3位の経済大国だ。また、世界第3位のeコマース市場でもあり、2021年の売上高は1,283億米ドルに達する。
日本は高所得社会であり、日本の消費者の多くは高級ブランドを好む。日本は世界第3位のラグジュアリー市場であり、「究極の消費者主導型社会」と呼ばれている。日本人は今でも収入の多くを物品の購入に充てており、個人消費額は日本経済の約60%を占めている。
しかし、日本が直面している最大の課題のひとつは、人口が減少の一途をたどり、それに伴って消費者の数も減少していることだ。日本は、少子高齢化という人口構造上の時限爆弾に直面している。
日本の若年層世代は、小売事業者にとって重要な市場であり、このグループの消費トレンドは、急速に上昇しては下降し、アジアの他の地域の動向にも影響を与えている。但し最も消費額が多い年齢層は60代と70代で、これは保有している財産が多いためだ。
最も人気のあるメディアチャンネルは?
LINEは日本でナンバーワンのメッセンジャーアプリであり、全人口の70%以上が利用しており、30代では9割以上が利用している。
I&S BBDOのAPACデジタルチームによると、「昨年の時点で、日本のインターネット広告費の3分の1をSMS広告が占めており、その中でもLINEの人気が最も高かった」という。また日本では、モバイル広告、動画広告、新しいテクノロジーやデータ関連アプリを使った広告が成長を続けている。
日本では2008年頃からスマートフォンへの移行が始まった。iPhoneやiPadの独占販売権を持っていた通信会社ソフトバンクが、かなり積極的なマーケティング活動を行ったこともあり、当時はiOSが圧倒的なシェアを占めていた。
ここ数年、主にiPhoneやiPadの値上げによってアンドロイドのシェアが上昇し、iOSの65%に対し、アンドロイドが35%となっている。しかし、世界的な標準から見れば、日本では依然として iOSが圧倒的に支持されている。
TBWA博報堂イノベーション・インテリジェンス・ユニット、デジタル責任者の岡安由樹氏によると、日本のライブコマースは中国ほど過熱していないものの、パンデミックによる消費者行動の変容を受け、勢いを増しつつあるという。
「ライブコマースに参入して成功したのは、主にアパレル業界(無印良品、ユニクロ、シップス)や化粧品業界(資生堂、ファンケル)のブランドでした」と岡安氏は言う。「パンデミックの間に、百貨店や大手スーパーチェーンもライブコマースに投資し始め、一定の成功を収めました」
ゲームは日本の文化に欠かせないものであり、任天堂とプレイステーションの母国であることから熱狂的なゲームファンも多い。だが、eスポーツ文化はまだ発展途上だ。
「とはいえ、eスポーツのプロは増えてきています。近い将来、世界に追いつくことは間違いないでしょう」
独特の強いテレビネットワーク文化を持つ日本では、世界やアジアに比べ、CTVが非常にユニークな進化を遂げている。しかし、アマゾンFireTVやAppleTV、その他のサブスクリプション・サービスの成長によって地上波放送の視聴者は減少しつつある。その結果、日本のテレビ局は大きなパラダイムシフトを迫られることになり、CTVの視聴率が一気に上昇することが予想されている。
日本の広告費の動向
広告費自体は緩やかに伸びている。「大きな流れとしては、デジタル広告費がついにテレビ広告を抜いたことが挙げられる」と電通の広報担当者は語った。
現在、広告シェアは以下の順位:
1. デジタル
2. テレビ
3. 新聞
4. 雑誌
5. ラジオ
「アプリ内広告が日本のバイヤーには非常に人気があります」とI&S BBDOのデジタルチームは言う。「フェイスブック、インスタグラム、グーグル(ユーチューブ含む)、ヤフーなどのプラットフォームが広告費を牽引しています。テレビ広告は、衛星放送やケーブルテレビの数百万人の契約者も含め、今後も数年間は日本の広告市場をリードし続けるでしょう。
「日本のデジタル広告に関しては、プログラマティック領域ではクリック課金(CPCと同義)メニューが主流です」と岡安氏は言う。「日本のデジタルマーケティングは、ダイレクトマーケティングから始まりました。そのため、クリックやコンバージョンが重視されているのです」
しかし最近では、ブランディングにも有用であることが認知され、配信インフラの整備も進み、また4G/5G以降、スマホでの動画接触も一般的になったことから、アドネットワーク事業者は動画オプションにシフトしつつある。
データプライバシーに対する考え方
GDPR規制やカリフォルニア州のCCPAルールに啓発され、日本政府も2022年4月に個人情報保護法を改正した。これにより、ウェブサイトのクッキー情報の外部送信については、ユーザーの許諾を取ることが義務付けられた。
「個人情報保護関連の法整備が少し遅れているとはいえ、日本のプラットフォーマーが、デジタルプライバシーやデータプライバシー問題における世界情勢に対応できていることもあり、消費者や社会全体の不安は世界と比べると大きくありません」と岡安氏は言う。
「一般的に、日本の消費者は、現行の個人情報保護法があるため、ビッグデータについてもあまり心配していません。ほとんどの人は、パーソナライズされた特典を得るためなら、データが蓄積されることにも抵抗がありません」とI&S BBDOのデジタルチームは語る。
「来年末までに、IDFAとChromeのサードパーティCookieが廃止されることが決まっており、リターゲティングとコンバージョン測定に影響が出ることは分かっています」
2022年4月に改正された個人情報保護法に加え、健全なデジタル広告の成長を保証する方法として、2021年3月に、一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)が設立され、デジタルマーケティング担当者のためにブランドセーフティとアドフラウドの検証に注力している。
ソーシャルネットワーク、ショッピングプラットフォーム・アプリの上位
ソーシャルネットワーク:
1. LINE
2. YouTube
3. ツイッター
4. インスタグラム
5. フェイスブック
6. TikTok
eコマース プラットフォーム:
1. 楽天
2. アマゾン
3. ヤフー
eコマース アプリ:
1. LINE
2. ツイッター
3. アマゾン
4. インスタグラム
5. ペイペイ
「スマートフォンとメッセンジャーのカテゴリーでは、中国対他のアジア諸国という勢力図になっています。日本、タイ、韓国ではLINEが最も使われています。一方、中国のWeChatは日本ではまったく使われていません」と岡安氏は語る。
ツイッター(現X)が最初にブームとなったのは2007年だったが、2011年の震災以降、ライフラインとして、またリアルタイムの情報源として利用されるようになった。また最近では、主にZ世代がさまざまなキャラクターを演じるために複数のアカウントを作ったり、カップルアカウントを作ったりなど、さまざまな使い方をするようになり、この日本独自の進化が月間アクティブユーザー数(MAU)の増加につながっている。
決済サービスでは、就活支援(リクルート)、メッセンジャー(LINE)、再販事業者(メルカリ)などが参入し、事業者間の熾烈な競争が繰り広げられている。決済手段では、アリペイ、ペイペイ(ヤフー)、JR東日本が推進するSuicaなどが中心となっている。
最近注目されたパフォーマンス・マーケティング・キャンペーンの事例
『ウインチケット(WinTicket)』は、デジタルの単独施策としてではなく、いわゆるオープンマーケット・オペレーション(OMO)という意味で興味深い事例だ。WinTicketとは、競輪の車券サービスアプリのことだ。
WinTicketは、アプリをダウンロードするとポイントがもらえるキャンペーンを通じて、若者の支持を得た
「WinTicketは、アプリのティーザー広告として、有名人との対談を交えたキャンペーン動画をユーチューブで公開し、アプリをダウンロードしたユーザーには公営ギャンブルのポイントを付与した。「こうしたスマートフォンファーストのUI/UXによって、競輪という伝統的なギャンブルでありながら若者のファンが少なかった公営ギャンブルに、若者の支持を集めることができたのです」(4,000億円だった年間取引額が、7,000億円に増加)
さらに、I&S BBDOのデジタルチームは、多くのブランドがTikTokのハッシュタグチャレンジで成功を収めていると指摘した。そのキャンペーンの特性上、消費者は宣伝されているとはあまり感じず、純粋にチャレンジに参加することを楽しみ、結果的にブランドを認知したり、興味を持ったりするのだという。
*この記事は、Performance Marketing World(Campaignの姉妹サイト)のGlobal Spotlightシリーズの一部として掲載されたものです。