新年から、新しいアイデンティティに
マスターカード、ウィーワーク(WeWork)、ペプシは今週からブランドアイデンティティを変更した。マスターカードは、デジタル時代に対応した「より鮮やか」で柔軟なデザインとするため、オフィシャルロゴから社名を削除。起業家向けのワークスペースを提供してきたウィーワークも、社名を「ザ・ウィー・カンパニー」へと変更(事業領域がワークスペース以外にも拡大したため)。そしてペプシはグローバル・ブランド・プラットフォームを7年ぶりに発表、「Live for now」から「For the love of it」へと変えた。
個別の動きではあるものの、ブランドにとって言葉はそれほど重要なのか、と疑問に思えてくる。一体どれだけの消費者が、ペプシの古いタグラインを覚えていただろうか? 新しいタグラインの方が、より強く訴えかけてくるだろうか? いや、その可能性は低いだろう。どちらのタグラインも一般的なことしか語っておらず記憶に残らないし、同社が何か新しいことを始めたわけでもないのだから。ウィーワークのザ・ウィー・カンパニーへの移行は意義があるが、それでも名前の変更は不要かもしれない(WPPは、マーティン・ソレル卿が1985年に買ったワイヤー&プラスチックカンパニーの略である社名を今も使っていることを考えると)。新しい社名にも、じきに慣れるだろう。だがウィーワークの方が耳に心地よく、またこれまで築き上げてきたブランド資産を放棄してしまうのは勿体ないことだ。
マスターカードの動きは、この中で最も大胆だった。二つの円が重なり合ったデザインを1968年に採用した同社の、その後の歩みを示唆したものだろう。ブランド名を削除するには、勇気がいる。だがあらゆるブランドは、アップルやナイキのように言葉が無くてもエッセンスを伝えられるよう、努力する必要があるだろう。ブランドは単純ではないが、その表現方法は常にシンプルであるべきだ。
我々は皆、テック会社となった
米ラスベガスで開催中の見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」にP&Gが初めて出展し、人々の暮らしをより良いものにする革新的な商品6点を発表した。SK-IIのスマートストア、人工知能(AI)を活用したオーレイ(Olay)のパーソナライズド・スキンケア・プラットフォーム、オーラルBの「インテリジェントな」歯ブラシ、刃先を温めることができるジレットのひげ剃り、カメラを搭載したオプテ(Opté)のスキンケアシステム、そして家庭用芳香剤システム「エアリア(Airia)」だ。
同社チーフ・ブランド・オフィサーのマーク・プリチャード氏は、「飛躍的に進化するテクノロジーの力」や「社会的、経済的な力の変化」によって顧客体験は大きく変わりつつあると、声明にて述べている。
「人々の生活をより良いものにするため、P&Gは最先端技術を日用品やサービスと統合しています」と同氏。「人々が求めるものと、その実現に可能なものとを組み合わせています。人々の『もしも』に応えることで、我々は卓越した顧客体験を提供しているのです」
マーケティング担当者が平易な言葉で語ってくれればと望むものの、世界最大の日用品メーカーによる試みを目の当たりにできるのは嬉しいことだ。これらのアイデアのいくつかは、人気が出る可能性がある。一方で、鳴かず飛ばずに終わる商品もあるかもしれない。CESが何を提供する場なのかを記した、ゼニスメディアのイノベーション責任者によるツイートをここにご紹介しよう。
「CESは、言い表せないほど優れた製品を作る者、そして生活者が本当に欲するものは何かを全く理解しない者のための聖地だ。そして正しい理解が全く無いまま、必死に売り出す場でもある。ひどいマーケティングとひどいデザイン、そして素晴らしいエンジニアリングのための祭典だ」
スポティファイのプレイリストも広告出稿可能に
音楽配信アプリ「スポティファイ」は、ユーザーごとの好みを分析してプレイリストを作成し、毎週月曜日に配信するサービス「ディスカバー・ウィークリー」を、広告主に開放する。
同社パートナーソリューションのグローバルヘッド、ダニエル・リー氏によると、人々はパーソナライズされた体験を望んでおり、「そこに参加できるチャンスを、マーケターは切望している」とのこと。初のスポンサーとなったのは、AIに関するキャンペーンを実施したマイクロソフトで、しっくりとなじむ内容であった。毎度のことだが、スポティファイのようなプラットフォームでブランドが受け入れられる存在となるためには、内容に関連性があり、目立ちすぎず、そして人々が望むサービスを提供することが肝要だ。
アマゾン、サンプリング配布で広告事業を強化できるか
アマゾンは、同社が把握しているユーザーの嗜好に基づいて、ブランドが無料サンプルを配布できるプログラムを開始した。アクシオス(Axios)が報じた。グーグルとフェイスブックの2強がオンラインマーケティングの圧倒的なシェアを占めているが、アマゾンは他のテック大手にはできない価値提供によってこの勢力図を塗り替えようとしていると考えられる。アマゾン自身がもっと多くの商品を販売することにも、もちろん役立つだろう。
このプログラムがどのような成果を上げるかは分からないが、いずれにせよ今年は、アマゾンが米国だけでなく日本(同社において4番目に大きな市場)においても広告シェアを伸ばそうと、より一層の努力を傾ける一年となりそうだ。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)