Ryoko Tasaki
2024年3月28日

世界マーケティング短信:英王室をめぐる騒動にブランドが便乗

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

(写真:Getty Images)
(写真:Getty Images)

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

英王室の写真加工をネタに、複数ブランドがSNS投稿

英王室のキャサリン妃が22日、がんと診断されて初期段階の治療を受けていることを動画で明らかにした。皇太子妃は今年1月に腹部の手術を受けたことが発表されていたが、昨年12月から公の場に姿を見せておらず、SNS上ではさまざまな噂が飛び交っていた。さらに、今月に入ってから公開された写真が加工されていたことが11日に判明し、複数の通信社が写真を取り下げる事態に。18日は英日刊紙『ザ・サン(The Sun)』が、ロンドン近郊を訪れる皇太子夫妻の姿を掲載した。

この騒動に便乗したSNS投稿を、複数のブランドが行った。たとえばダブリン空港の公式アカウントは、ザ・サン紙の写真を空港内の写真とコラージュし、夫妻が訪れたというジョークを投稿。プラハ空港も、ダブリンから二人が到着したという内容を投稿している。

また、辞書を出版するメリアム・ウェブスター(Merriam-Webster)も、用例採集カードの資料室を訪れたと投稿。その直後に謝罪コメントを載せたが、これもキャサリン妃が写真加工を認めた際の「多くのアマチュア写真家と同様、私もときどき写真編集を試すことがある」というコメントを真似したものだった。

また、ネズミ対策に熱心なニューヨーク市の衛生局も、キャサリン妃がごみを出す写真を投稿。すぐに「写真は加工されていることが判明しましたが、ネズミよけの密閉容器は非常にリアル。ぜひ使ってください」とアピールした。

どの投稿も悪意のある内容ではない。だが、キャサリン妃のがん公表よりも前にPRウィーク(PRWeek)が実施したアンケートでは、約600人の回答者のうち84%が、状況が不透明な中でのこのような投稿はリスキーだと回答している。

WPP傘下のAKQAとグレイ、5市場でブランドを統合

WPP傘下のAKQAとグレイが効率化のため、豪州、中国、ベルギー、イタリア、アラブ首長国連邦の5市場で、事業を統合する。中国ではグレイ、他の4市場ではAKQAのブランドで事業を行っていく。

グレイのローラ・マネスCEOとAKQAのアジャズ・アーメッドCEOはCampaignの取材に対し、簡素化によって迅速な成長が促されることで「急成長中の世界的な顧客」にアピールできるだろうと語った。

「チームをまとめることで、グレイの名高い創造性と、AKQAのワールドクラスのデザインやイノベーションという双方の長所を組み合わせることができます」とマネス氏。「この恩恵を受けるのは当社の従業員だけでなく、当社の多彩な人材や専門知識にアクセスできるようになる顧客にも利益をもたらすものと確信しています」。

アーメッド氏も「事業の効率を高めて優位性を確立することは、持続可能な成長を実現するというミッションの中核。パフォーマンスを向上させ、長期的なビジョンを実現していくための、スリムで敏捷なエージェンシーの構築に貢献します」と語る。

WPPは昨年10月にワンダーマン・トンプソンとVMLY&Rを統合するなど、持ち株会社全体で効率化を進めている。今年の業績発表においても、エージェンシーを統合していく計画が発表された。

Acorn-iパートナーのDMT、ジェリーフィッシュと経営統合

エイコーン・インテリジェンス(Acorn Intelligence、通称Acorn-i)と戦略的パートナーシップを結ぶDMT(本社:横浜市)が、ジェリーフィッシュ(JellyFish)と経営統合する。

アドテクノロジーの専門家とアマゾンの元社員が2021年に設立したDMTは、アドテクやアマゾンのエコシステムに精通し、2022年5月にはAcorn-iが提供するeコマースインテリジェンスプラットフォーム「イグナイト(Ignite)」の独占販売権を取得。一方、ジェリーフィッシュとAcorn-iは昨年末に経営統合し、ジェリーフィッシュ・コマース(Jellyfish Commerce)を立ち上げた。今回の統合でDMTはジェリーフィッシュ・コマースの傘下となる。

DMTのCEOである廣田力氏は「これまで主に日本国内の広告主や広告会社に向け、海外の優れたマーケティングテクノロジーやeコマーステクノロジーを提供してまいりました。このたび、ジェリーフィッシュとの戦略的業務提携により、日本でもジェリーフィッシュ・コマースがローンチできることを大変うれしく思います」とコメントした。

文章の男女差を、AIツールで修正 

長らく男性が優位だったビジネス界では、コミュニケーションも男性的なスタイルになり、これが男女間の賃金格差の一因となっている――このような観点で、AIを用いたメール文案の提案ツール「ミス・タイプ(Miss Type)」がリリースされた。企画したのは、男女同一賃金を求める広告界の女性によるグループ「ストップ・ザ・パーティー(Stop The Party)」で、開発はVML。

同団体によると、男性らしいとされる文章は「明瞭かつ簡潔で権威的な、素っ気ないコミュニケーションで、特に電子メールにおいて顕著」だという。そして、「~と思う」「~と感じる」といった表現や、回答の範囲を制限しないオープンクエスチョン、謝罪といった「女性らしい言語スタイル」が過小評価されがちだという。一方で、ハーバード・ビジネス・レビューの調査によると、コミュニケーションを含むリーダーシップ能力の大部分において、男性よりも女性の方が高得点だったという。

このツールはAIが文章を分析し、女性らしい表現と男性らしい表現を組み合わせ、直接的かつ共感的な文案を提案してくれる。たとえば冒頭には挨拶を挿入し、依頼する際は「would」や「could」で相手の意思を尋ねるといったものだ。

「プロフェッショナルのコミュニケーション方法は一つではなく、男性的なスタイルが標準なのではないと強調することが重要でした」と語るのは、VMLカナダの最高コミュニケーション責任者、アリ・エルコウビー氏。「このツールで達成しようとしていたものの中で、教育は大きな部分を占めます。そのため、入力した文章に対する提案で、その理由を説明することが大切でした」。

(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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