自国への「不信」が根強い、日本
「2019エデルマン・トラストバロメーター」が発表され、自国の政府や企業に対する信頼度で日本は中国と対照的な結果が出た(調査が行われた27カ国のうち日本は下から2番目。最も低かったのはロシア)。
それでも日本は「政府を信頼する」と答えた人が39%。「企業を信頼する」は44%で、それぞれ昨年よりわずか2ポイント上昇した。だが「企業は社会を改善できる」と考える人が世界で73%だったのに対し、日本は51%と最低(奇妙なことに、最も高い期待を企業に示したのはメキシコで87%)。近年スキャンダルが相次ぐ日本企業に対する世界的な信頼度は、幸運にも9ポイント上がって69%だった。
また、昨今のフェイクニュースの氾濫で従来型メディアへの信頼度も回復。「最も信頼できる情報源」として従来型メディアを挙げた人は65%で、ソーシャルメディアは43%と最も低かった。「ニュースに関心がある」と答えた人は全体で22ポイント上昇した。
この調査はあくまでもバロメーター。大衆の気分を映し出してはいるが、ソリューションを提起しているわけではない。強靭なブランドにとって欠かせない信用とは、数多くの無形要素から形成される。政府や企業、メディアで働く人々は「正しいこと」に注力し、透明性を高め、行動をよく理解してもらえるよう努めていくことが肝要だ。
「再編」の年
信用問題を続ける。「雇用主は従業員のことを大事にしてくれる」 −− こう考える人々が自然と増えている。確かにそういう会社は少なくないが、それはある程度までの話。ビジネスはあくまでもビジネスだ。今週、電通イージス・ネットワークは再編のためにシンガポールで働く社員を2%削減すると発表した。昨年、ティム・アンドレーCEOはインタビューの中でレイオフをほのめかしていた。エージェンシーネットワークは既存のビジネスモデルへのプレッシャーを受け、自社再編に苦闘する。今年はより多くが人員削減に踏み切るだろう。では、エージェンシーと縁がなくなってしまった人の将来はどうなるのか? 解雇されるのは決して愉快ではないが、業界が多様化する今、従来型のエージェンシーでキャリアを積んできても必ずや新しい、そしてもしかするとより良い生き方が見つかるはずだ。
また、バズフィードは全社員の15%を削減すると発表。グーグルやフェイスブックほど巨大ではなく、「ジャーナリズムの未来」と目されてきたメディア企業であっても収入確保は大きな課題だ。
ソーシャルメディア上の「気分」
ソーシャルメディアがちょっとした自尊心や不安感を煽る、というのは決して驚きではないが、それを証明する調査結果が発表された。アポスフェア(Apposphere)社がスナップチャットの依頼を受けて英国で行った調査で、フェイスブック上で最も引用される感情表現の言葉は「孤独(lonely)」「孤立(isolated)」「心配(anxious)」だった。一方でツイッターは、「消沈(depressed)」「うしろめたさ(guilty)」そして「情報の獲得(informed)」。
より肯定的な感情表現はインスタグラムに多く、「触発的(inspired)」「クリエイティブ」、そして「自意識過剰(self-conscious)」も。スナップチャットは「異性の気をひく(flirtatious)」「馬鹿げた(silly)」「ふざけた(playful)」気分を呼び起こし、ユーチューブの場合は「魅了される(captivated)」「楽しむ(entertained)」「触発的」。
ソーシャルメディアには、担うべき肯定的な役割がまだあることは明らか。だが全ての良いものと同じく、ユーザーは程々に距離を置く必要がある。大多数の人々にとってソーシャルメディアの利用は既に「習慣」だが、その根本的なモチベーションはインスピレショーンを得たいということ。もしブランドがその欲求を満たせないのであれば、ユーザーはこれらのプラットフォームに見向きもしなくなるだろう。
フェイスブック、広告詐欺対策を強化
我々が心配せねばならないのはフェイクニュースの蔓延だけではない。広告詐欺に関しても同様だ。フェイスブック(FB)は広告詐欺を取り締まるツールの導入を発表した。ユーザーが疑わしい広告を告発しやすいようにするという。これは英国のTVプレゼンター、マーティン・ルイス氏が一攫千金をうたう不正広告に勝手に名前を利用されたと訴訟を起こしたことを受けての措置。FBは、セレブリティのプロフィールを悪用する不正広告は英国だけのことではないとして、このツールを多くの市場で利用できるようにするとしている。
グーグルがGDPRに抵触
広告を出すほぼ全ての企業にとって、GDPR(EU一般データ保護規則)は「地雷原」と言えよう。その最も新しい犠牲者で、苦境に陥っているのはグーグル。ユーザーからの許可を得ずにパーソナライズド広告を提供したとして、5000万ユーロ(約62億円)の制裁金を命じられた。フランスのCNIL(情報処理及び自由に関する国家委員会)は同社が「透明性と情報、法的合意に関する義務に違反した」と判断。この罰金額はもちろん、グーグルのような企業にとっては痛くもかゆくもない。だが、当局は迅速に規則の適用を図るという事実を改めて思い知らされる。欧州に拠点を置く企業に限らず、全ての企業にとってタイムリーな警鐘だろう。
グローバルエージェンシーは案外、苦戦していないのかもしれない
米ニューヨークに拠点を置くコンサルティング会社「アールスリー(R3)」の調査によると、エージェンシーの新規事業による収益はグローバルで31億米ドル(前年比107.5%)で、この成長を牽引したのはピュブリシスとWPPであった。調査は、エージェンシー7,000社が獲得した案件を対象に分析された。
アールスリーのグレッグ・ポール代表によると、透明性への要求が高まったため、より多くのマーケターが案件を見直すようになったのだとか。だが収益は増えたものの、獲得案件数は5.5%減少。クリエイティブエージェンシーは10%少ない新規案件数で、2.4%の収益増を達成したとみている。メディアエージェンシーは新規案件数は前年比102.3%で、収益は18.4%増であった。
特に米国で、マーケターは予算を「革新し最適化する」方法を探るべく、「メディアや制作のコストにおいて柔軟な、ハイブリッドで新しいモデルのエージェンシー」に移行しているとポール氏は語る。
スポーツ界のドラマ
ダイバーシティ(多様性)の尊重がこれほど叫ばれている時代において、テニスの大坂なおみ選手を描いた日清食品のCMは注目に値する。大坂選手はテニスの実力はもちろんのこと、謙虚で人々から愛される性格だ。そんな彼女のスポンサーとなったことで、日清食品にも多くの恩恵がもたらされたはず。同社が新しいキャンペーンで、なぜ大坂選手の肌を実際よりも白く描いたのかは謎だが、SNS上では「CMの訴求力を高めようとしたのではないか」など、さまざまな憶測が飛び交っている。日清食品は謝罪し、CMは公開停止された。
この失態を、興味本位で傍観した人も多かっただろう。だが日本の人種構成は、多様化が進んでいる。今回のような粗相が起こらないようにし、人々のありのままを尊重するべき時期にきているのではないか。
一方で、スポーツ界では明るいニュースも。ユニクロがスウェーデンの五輪代表にウェアを提供することが決定したのだ。同社は当初、日本選手団へのユニフォーム提供を望んでいたが、かなわなかったようだ。スウェーデンを選んだことは予想外ではあったが、ユニクロは真のスポーツブランドとして、そしてファストファッションのグローバルリーダーとして評価に値するだろう。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)