Ryoko Tasaki
2020年2月07日

世界マーケティング短信: 新型ウイルスの影響、広告界にも

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

世界マーケティング短信: 新型ウイルスの影響、広告界にも

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

出張制限、イベント中止、在宅勤務 広告界も警戒強める

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、グローバルエージェンシーが社員の中国訪問や現地社員の移動を制限している。例えばOMDは開催を予定していた、世界各地のリーダーやクライアント、プラットフォームパートナー約75名を集めたサミットをキャンセルし、中国の社員には在宅勤務を求めた。IPGも中国の社員だけでなく、中国から帰国した社員にも在宅勤務を求めた。同社はまた、不要不急の出張を制限した他、どうしても中国への出張が必要な場合には、経営陣から承認を得た上で、リスク関連部門に書面で提出することを義務付けている。電通やWPPも中国への出張を制限しており、WPPは春節(旧正月)の休暇を延長した。

なお、3月4日に予定されていたCampaign主催「Campaign360」は5月28日開催に、3月18日に予定されていたアドフェストは今年中の開催にそれぞれ延期される。


DANCEOのブルマン氏、デジタルマーケティングのエージェンシーに参画

電通イージス・ネットワーク(DAN)のCEOを務めていたジェリー・ブルマン氏が、英国に拠点を置くデジタルマーケティングエージェンシー「クラウド(Croud)」で、チェアマン(業務執行の任務を持たない)に就任した。

いわゆる大企業でなく、2011年に設立した比較的新しい企業に参画したことは驚きだが、「クラウド社の新しいテクノロジーや、クライアントを中心に据えた新しいサービス、ビジネスモデルは、あらゆるステークホルダーの価値を高めるだろう」とブルマン氏は語る。クラウド社はロンドンなど4拠点に200名ほどの社員がいる他、「クラウディーズ(Croudies)」と呼ばれるフリーランスのネットワークを構築しており、ここには約2,300名が登録している。


Campaignが選んだ、今年のスーパーボウルの傑作CM

米国最大のスポーツイベントである、スーパーボウル(アメリカンフットボールの優勝決定戦)が2月2日に開催された。世界一高額なスポットCM枠とも評されるスーパーボウルのCMで、今年放送された中からいくつか選んでご紹介する。

まず、バドライトのハードセルツァー(フルーツフレーバーのお酒)の、ポスト・マローン(歌手)を起用した2本のCM「#PostyBar」と「#PostyStore」。スーパーボウルのCMとして放送してほしいのはどちらなのか、1月29日よりSNSで広く問いかけた。ちなみに選ばれたのは後者。制作はワイデン+ケネディ。

アマゾンのCMには、エレン・デジェネレス(コメディアン)とパートナーのポーシャ・デ・ロッシ(女優)が登場。アレクサ(音声アシスタント)が登場する前の暮らしを想像する、コミカルなCMだ。制作はDroga5。

オールドスパイス(男性用デオドラントブランド)は、昔のCMの主人公が、息子の勤務先を急に訪問するというもの。腰にタオルを巻いて馬や丸太に乗るCMに出演するという家業を、そろそろ継いではどうかと聞くが、息子は「お父さんとは違うんだ」と話し、同ブランドの別商品を使っていることを打ち明ける。制作はワイデン+ケネディ。

さまざまな「典型的なアメリカ人」を描いたのは、バドワイザーだ。勇敢に戦ったり、困っている人に手を貸す、自分の考えを主張する…といった“典型的”なアメリカ人が、快挙を成し遂げたときに祝杯をあげるのは、典型的なアメリカのビール(つまりバドワイザー)。もし誰かに「典型的な人物」だとレッテルを貼られるようなことがあったら、底力を見せつけよう――このように語りかける。

マイクロソフトのCMには、ケイティ・ソワーズ氏(スーパーボウル初の女性コーチ)が登場。「最高の女性コーチになりたいのではない。最高のコーチになりたい」と語る。

最後にご紹介するのは、心を打つグーグルのCM。高齢男性が、亡き妻ロレッタの思い出を忘れない方法について、音声アシスタントを使って検索する。そして妻と撮影した写真や動画、訪れた場所などを検索しては、覚えていてほしいさまざまな記憶を語り掛ける。最後に画面には、妻がよく語っていた「あまり寂しがらないで。そして家の外に出て」という言葉が登場。「私は世界で一番幸せな男性」とつぶやくと、犬と一緒に外に出る音が聞こえてくる。

ここでは紹介しきれなかったCMの数々は、こちらから。


経済的に困っている若者に、救いの手を

起亜自動車(KIA)はスーパーボウルCM「Tough Never Quits」にジョシュ・ジェイコブス選手(ラスベガス・レイダース所属)を起用した。同選手は経済的に恵まれない幼少期を過ごし、一時期は父親や兄弟たちと自動車の中で寝泊まりすることもあった。「自動車を運転する人々のスピリットを表現したかった」と語るのは、David&Goliath(クリエイティブエージェンシー)のデイビッド・アンジェロ氏。「ジョシュは、夢を絶対に諦めないということを体現してくれた選手です」。

KIAはまた、子どもや若者のホームレスを支援する団体に100万米ドルを寄付。「100万ドルでは、若者のホームレス問題は解決できません」と、起亜自動車で米国のマーケティングオペレーションを担当するラッセル・ウェイガー氏は語る。「これは出発点なのです」


スーパーボウルの広告、多様性に欠けるとの指摘も

ヒート(Heat、デロイトデジタル傘下)の調査によると、スーパーボウルで実施された広告は、年間を通じた一般的な広告と比較して多様性のスコアが7%低いという。検証された主要な指標は、有色人種、女性、LGBTQ、年齢、民族、社会経済的な地位、障害者、宗教の8つ。高いスコアを出したのは自動車や金融の広告で、日用消費財やテクノロジー産業の広告は最もスコアが低かった。

(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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