ジェンダーバランスを理解していない広告主は、依然多い
性別にかかわりなく従業員を平等に扱うことが、いかに大切かを説く大手企業は多い。だがマーケティング戦略にはそれが活かされていないようで、今もなおジェンダーが固定観念にとらわれた描かれ方をしている。カンターがグローバルで実施した調査の結果を見てみよう。
- 女性をポジティブに描いていると考えているマーケターは91%だが、そのようにとらえている視聴者は55%であった
- ほとんどの商品カテゴリーにおいて、男女ともに購買決定権を握っている。だがベビー用品や洗剤の広告の98%は、女性をターゲットにしたものだ(最近では花王のCMに、パパとママの両方をターゲットにしようという努力が見られる)
- ユーモアに性差は関係ないはずだが、女性が登場するコメディータッチのCMは、わずか22%だった
- 女性が権威ある役割で描かれたCMはわずか6%、だがこれらの広告はより好意的かつ説得力があると受け止められている
- オンライン広告が与えたインパクトは、男性と比較すると女性は28%低かった
- 男女を平等に描くブランドと比較すると、男性志向のブランドは、ブランド価値が平均90億米ドル低い
男女不平等のテーマをここで取り上げたのは今回が初めてではないが、今回が最後になりそうにもない。どうすればよいのか。まずは、男性と女性は根本的に違うということを認識しつつも、2019年の社会規範は1950年代のそれとは大きく異なるということを理解することだろう。固定観念そのままに描くことは簡単だが、さまざまな人に害を及ぼす。では男女どちらにも訴求できる作品を作ろう、そう考えたのならば制作陣には男性も女性も入れるべきだ。現状を鑑みると、他とは異なることを行うブランドは注目されやすい。これは喜ばしいことだろう。
男女平等のテーマで、もう一件。グッチが2013年より実施する男女不平等解消のキャンペーン「Chime for Change」を継続し、今回は壁面のアートや動画、雑誌で展開している。このようなアプローチを真似したいブランドは、何に気を付けるべきか。男女平等を推し進めるムーブメントを支持することは誠に結構なのだが、その精神は企業活動全体に、そして日ごろから行うコミュニケーション活動の隅々にも徹底して貫かれるべきだ。
新しい広告賞は、審査員が全員女性
アワードの世界は、多様性に欠けることで有名だ(不平等なのはジェンダーだけではない。今年のカンヌ広告賞の審査委員長27名のうち24名は英米で働いている)。そこで多様性のバランスを取り戻そうという試みが、世界的な「ゲレティ・アワード(Gerety Awards)」である(ちなみに、デビアスの有名なキャッチフレーズ「A Diamond Is Forever(ダイヤモンドは永遠の輝き)」を生み出したコピーライター、メアリー・フランセス・ゲレティの名を冠している)。このアワードの審査員はすべて女性で、現在までに139名が決定。審査は5月27日~6月13日、世界の10都市で行われる。ショートリスト(最終候補作リスト)はカンヌで明らかにされ、受賞者は7月中旬に発表予定。授賞式が行われないことは残念だが、広告ビジネスの標準と見なされているものを再定義しようという積極的な取り組みといえよう。他の広告賞でも、審査員の多様性が推進されることを願うばかりだ。
アップル、iPhoneの不振は広告で挽回
2018年10〜12月期のiPhoneの売上が落ち込んだアップルは、将来的に広告がより大きな役割を果たすことを示唆した。例年、この四半期は歳末商戦で最も高い売上を記録する。新型iPhoneの売れ行きが旧型よりも悪かったのも、12年前の発売以来はじめてのことだ。同社にとってビジネスの根幹となるiPhoneの売上高は、前年比で15%減少。その一方で、サービス部門の売上は19%上昇した。ルカ・マエストリCFO(最高財務責任者)は投資家向けの説明で、App Store(アップストア)の広告ビジネスの潜在力を強調。アップルがハードウェアに注力していることを鑑みれば、幹部が投資家との対話で広告について言及したのは注目に値する。検索広告の売上は明かさなかったが、その額は5億米ドル(約550億円)と言われており、来年には20億ドルとなる見通しだ。
またアップルは、フェイスブック(FB)のアプリがティーンエイジャーのウェブの閲覧を不適切に「スパイ」しているとして削除した。FBは今週、記録的な売上を公表。同社に対する否定的なパブリシティーにもかかわらず、広告主が依然主要なプラットフォームと見ていることを証明したばかりだった。
より優れた効果測定となるか?
消費財大手ユニリーバがWFA(世界広告主連盟)や他の団体の援助を受け、パブリッシャーやテレビなどの「メディアパフォーマンスの透明性」を提供するシステムを開発中だ。これによって広告主はキャンペーンのオーディエンス数やその反応、短・中・長期にわたる効果が測れるようになるとして、同社は他のブランドやプラットホーム、パブリッシャーに参加を呼びかけている。既にパートナーとなったのはフェイスブック、グーグル、カンター、ニールセンなど。今の時点でカバーするのはテレビとソーシャルメディアだが、ユニリーバはその領域をもっと広げていくという。詳細はまだ不十分でも、この動きはマーケターにとって永遠の課題を解決する第1歩となるかもしれない。“ウォールドガーデン”のエコシステムでは、自分たちの実績を全体的に把握することが根本的に不可能だからだ。
社員のやる気を引き出す「柔軟性」
ピュブリシスグループは、傘下にある英国の全てのエージェンシーで出勤時間と退出時間の記録をやめ、必要な際には社外で働くことを許可していく。社員の仕事に費やす時間よりも生産性を重視する取り組みだ。当初このシステムはピュブリシスメディアに導入されたが、全てのグループ企業に適用。同社によれば、「生産性の向上とともに、人材の惹きつけと確保を図る手段」だという。こうした動きは世界の広告界の主流となっていくだろう。自分の思うように働きたいと考える世代への強いアピールとなるからだ。今は多くの人材が、給料アップよりも自主性の獲得により多くの価値を見出す。コスト削減というプレッシャーにさらされている業界にとっては、好ましい傾向だろう。
WPP、ソレル卿に費用返還を要求
続けてコストに関する話題。ウォール・ストリート・ジャーナルが伝えたところによると、WPPはマーティン・ソレル卿に対し、同氏が妻や子どもたちと使ったスキーなどの旅費、ニューヨークに保有するアパートの調度品購入に使った費用などの返還を求めた。前CEOはこれらに22万米ドル(約2400万円)を使ったとされるが、WPPは更なる返還を求めていくという。結論から言えば、この程度の金額はWPPにとってもソレル卿にとっても大したものではない。同氏は長期ボーナスを受け取っていないが、今でもWPPの筆頭株主だ。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子、水野龍哉)