
ワイデン+ケネディ シドニー(Wieden+Kennedy Sydney)が初のクリエイティブ職として4人の白人男性を採用すると発表した。私はショックを受けた――そう言いたいところだが、ショックは受けなかった。その代わりに、フラストレーションと既視感の入り混じる、うんざりするようないつもの感覚に襲われた。
なぜなら、私たちは以前にも同じような経験をしているからだ。
私たちは多様性に関する数々のパネルディスカッションに参加し、業界のリーダーたちが変化を約束するのを聞いてきた。男女平等に向けた目標やコミットメントでいっぱいの、見栄えの良い報告書も読んだ。しかし、実際に大物が採用されて大きな権限が与えられる際には、圧倒的に男性が優位な状況が続いている。
今回のクリエイティブ職採用は、幅広く多様なオーディエンスに訴求するブランドであるマクドナルド(McDonald’s)のアカウントに関連したものだ。そして、これほど議論が交わされてきたにも関わらず、依然として豪州の広告業界のトップの座に就くのは男性なのだというメッセージを、はっきりと伝えるものとなってしまった。
繰り返される、同じ言い訳と同じ結果
この決定に対する反発は、もちろん即座に起きた。多様性のあるクリエイティブチームの方がより優れていて効果的な作品を生み出すという圧倒的な数のエビデンスがあるにも関わらず、多様な人材の採用を優先しなかった悪例であるという声が、男女を問わず業界内から上がったのだ。これに対するワイデン+ケネディの反応はというと、聞き覚えのあるお決まりの言い訳だった。同社は問題を認識し、これに取り組むことを約束し、多様性を重視していると述べた。しかし行動が伴わない言葉は、何の意味も持たない。
「私たちは、その仕事に最適な人材を採用している」「そのポジションにふさわしい女性がいなかった」「次回の採用で多様性に対処する」――このような言い訳は、これまでも聞いたことがある。
こういった発言は、女性や過小評価されているグループの人々がこれらの職務を引き受けて遂行する能力があるという事実を無視したものだ。本当の問題は、採用の決定があまりにも知り合いのネットワークに依存し、仲間が仲間を雇ってきたことにある。そして歴史的に男性が支配してきた業界では、同じことが繰り返されるのだ。
「能力のせい」という主張と、その限界
このトピックについてリンクトインに投稿したところ、ある男性から次のようなコメントをもらった。「彼らが仕事を得たことについて、あなたは性別のみを理由に、その仕事を得るべきではなかったと投稿しました。彼らがふさわしくない理由を、実力や勤勉さ、知性などに基づいて主張できる人はいません。あなたは彼らを、性別によって貶めたのです」。
男性ばかりが採用されることに疑問を呈することは、男性たちの能力に疑問を呈することになるという主張を、よく耳にする。はっきりさせておきたいのは、彼らが努力を怠ってきたとか機会に値しないといったことは誰も言っていないという点だ。しかし結果的に、リーダーシップ層が圧倒的に男性に偏ったままの状態が幾度となく繰り返されるならば、「このシステムは本当に公平なのか?」と問う必要がある。
実力は客観的なものではなく、機会、存在感、アクセスによって形作られるものだ。広告業界を目指す新卒者の60%が女性であるにもかかわらず、同じタイプの人々がトップの座を獲得し続けているのであれば、競争の場は平等ではない。
これは男性対女性という問題ではない。多様性があれば、誰もが勝者となる。仕事はより良くなり、企業文化は強化され、人材プールは拡大する。この議論は誰かを「排除」しようというものではなく、多様で素晴らしい意見が交わされるようにするためのものだ。この見解に誰もが同意するわけではないだろうが、少なくとも私たちは議論を交わしている。「経験」したことのない人と実体験について話すというのは常に難しいものだが、だからといってその会話に価値がないというわけではない。
相次ぐDEIの後退
業界全体で起きている広範な変化についても、疑念が募る。かつてはDEI(多様性、公平性、包摂性)について積極的に発言してきた企業が、ひそかに取り組みから距離を置くようになった。今回ワイデン+ケネディが採用したのはマクドナルドを担当するクリエイティブ職だが、マクドナルドはDEIの取り組みを縮小したと報じられており、これは由々しき事態だ。
マクドナルドの主要なアカウントを担当するエージェンシーは、この状況を無視することはできない。このような背景がある中で、男性のみで構成されたクリエイティブチームを任命するという決定は、問題をさらに大きくする。これはワイデン+ケネディの多様性への取り組みや、クライアントの優先事項の変化が同社に与える影響について、疑問を投げかけるものだ。
何を変える必要があるのか?
多様性に対する取り組みについて、これ以上の声明は必要ない。必要なのは行動だ。
1. 人材パイプラインの問題であると偽るのはやめよう
広告業界のあらゆるレベルに、女性は存在している。もしもエージェンシー側が女性に気付いていないのであれば、もっと注意深く探す必要がある。
2. 女性を男性よりも使い捨てにするのをやめよう
エージェンシーが組織再編や人員削減を行う際、女性が解雇されるというパターンが繰り返されてきた。特に中高年女性、育児休業から復帰した母親、育児休暇中の社員、パートタイム労働者が真っ先に解雇の対象となりがちだ。ジェンダー平等に真剣に取り組むのであれば、女性を使い捨てのように扱うのをやめるべきだ。
3. 多様性とアカウンタビリティーを結びつけよう
クリエイティブリーダーが今までと同様、排他的な採用決定を下すのであれば、その責任を持つべきだ。エージェンシーや持株会社は進捗状況を追跡して報告し、リーダー層は結果に対する責任を負う必要がある。
4. 同質性を評価することをやめよう
今までとは異なる結果を望むのであれば、リーダーシップの定義や評価の仕方を変えなければならない。最高のクリエイティブリーダーとは、単に声が大きい人ではなく、多様で力強いチームを構築する人であるべきだ。
5. クライアントにも責任を持たせよう
クライアントには、より良いものをエージェンシーに要求する力がある。男性ばかり、白人ばかりのリーダーシップチームをエージェンシーが提示した場合に、ブランド側は異議を唱えるべきだ。「私たちのキャンペーンを作成しているのは誰か? 誰の視点がメッセージを形作っているのか?」と尋ねるべきだ。クライアントがより多くのことを期待していること、そしてそれに応えられなければ他社に乗り換えることをエージェンシーが認識すれば、エージェンシーは変わる。
6. 変化は内側から起こそう
女性のために声をあげる女性を、あらゆるレベルで増やす必要がある。管理職の女性は「自分は例外である」というだけで満足するのではなく、他の女性を引き上げなくてはならない。リーダー層は、多様性についての口先だけの美辞麗句を役員会で並べたてるだけでなく、多様性を優先した後継者育成計画を立てるべきだ。
美辞麗句は、もうたくさん
豪州の広告業界で働く女性たちは、待つことにも言い訳にも、そして変化には時間がかかると言われることにも辟易している。変化を起こすには、意欲が必要だ。次にエージェンシーが男性ばかり、白人ばかりのリーダーシップチームを正当化しようとしたら、私たちはそれを受け入れないということをはっきり示そう。
これは才能の欠如ではなく、努力の欠如だ。
ジェット・スウェイン氏は、豪州を拠点とするジ・アフェクション・エコノミー(The Affection Economy)の創設者であり、講演者、メンター、教育者。