巨大コングロマリットである住友商事が国内外でのデジタルメディアやコンテンツに成長機会を求め、新会社を発足させた。
新たな子会社「SCデジタルメディア」は、現存のメディア部門がベースとなる。これまで同部門は通信大手J:COMでテレビ事業と番組供給事業を展開し、住友グループの収益を支えてきた。
SCデジタルメディアの代表取締役社長兼CEOには長澤修一氏が就任。同氏はメディア部門傘下の映画製作・配給会社「アスミック・エース」の社長を務めていた。
昨年9月に住商に加わった西谷大蔵氏は、SCデジタルメディアのディレクターに就任。「住商が既に確立したメディアビジネスとは別に、新たな投資手段としてSCデジタルメディアを活用していきます」。戦略的投資に加え、パートナーシップを生かしたジョイントベンチャーや国際的ビジネスモデルの確立、有能な人材を集めた人的資源の確保も目指す。
長澤氏が会社設立の主要因に挙げるのは、「海外市場での成長」。更には、「国内におけるメディア消費が変わりつつあること」が一因とも。同社は声明の中で「日本のインターネット広告市場は2020年には約1.7兆円(160億米ドル)程度まで成長する」と言及している。
「潜在性がある限り、我が社はあらゆる分野に投資を広げていく」と西谷氏。「ツール供給やコンテンツ制作、エンターテインメントの提供、そしてデジタルに特化した企業への投資も対象になっていくでしょう」。市場に関しては日本と北米、中国を含めたアジアに特に注力していくという。
同社がマーケティングサービスを提供するかどうかについては、今のところ定かではない。この四半期でマーケティングビジネスを立ち上げる計画はないが、「可能性は限らない」と西谷氏は強調。
「我々の展開するビジネスの大部分はメディア関連であり、パブリッシャーとしてメディア広告に関わること。それでも、将来に関する事業は未定です。目標はデジタルメディアやマーケティング業界における単なる投資企業ではなく、プレイヤーになること。どのようなサービスを提供し、またパートナーシップを展開するか、今春には発表できるでしょう」
ビジネスの拡大と多角化を掲げ、コンテンツに積極的に投資している大手広告代理店は電通とADKだ。「両社と競合するつもりはありません。これまでのようにJ:COMを通して協力的な関係を維持し、より広範なコンテンツエコシステムの一翼を担っていきます」。
「広告代理店を興す意図はありません。両社との競合は今まで考えたこともありません。コンテンツを独占的に提供するのではなく、広告大手3社や他の外部企業とも協働していきます」
SCデジタルメディア経営陣は、同社への住商の出資額に関する言及を避けた。約1万7千人の従業員を抱え、2016年には700億円(6億5700万ドル)の利益を上げたJ:COMに比べれば、従業員が10人の同社はまだまだ規模が小さい。だが西谷氏は、「我が社は単なる実験的試みではなく、ゆくゆくは住友グループの中核的存在にしていきたい」とも。
4月には社員数が今の2倍になるという。スタッフは住商内部からの人材に加え、グーグル出身者やブランドの元マーケティング担当者たちで構成。大半はメディアやマーケティングのスペシャリストだが、中には異色のスタッフもいる。取材に応じてくれたビジネスデベロップメントマネージャーの新開瑛美氏は、住商でアルミニウムの取引を担当していた。「可能性を秘めたスタートアップ的組織で働くことに魅力を感じました」。
かつてエッセンスやアップルに所属していた西谷氏は、「日本のデジタルメディアは依然として『空白地帯』」という。「コングロマリットの商社がデジタル分野の発展を目指すのは珍しい」と感銘し、住商への転職を決意した。
「住商がなぜデジタル分野でビジネスを興すのか、不思議に思う方たちが多いようです。我々は従来型のケーブルや衛星テレビ同様、デジタルメディアの分野でも地歩を築きたいのです」
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)