ツイッターは、元セキュリティチーフのピーター・ザトコ氏(ハッカー名「マッジ」でも知られる)による厳しい内部告発のなかで、セキュリティの欠陥を隠蔽し、スパム(偽の)アカウントの排除よりもユーザー数の増加を優先させたと非難されている。
CNNとワシントン・ポストが最初に報じた内容によると、ザトコ氏は、ツイッターの幹部らは、セキュリティ、プライバシー、スパムアカウント検出システムの欠陥などについて、ユーザーや規制当局、取締役会を欺いていたと主張しているという。
今回の内部告発は、ツイッターが直面している一連の危機における最新の事例だ。起業家で富豪のイーロン・マスク氏は、いったん買収に合意したものの、同プラットフォーム上のスパムアカウントの測定方法に疑義があるとして、ツイッターに対し合意の撤回を主張しており、現在、両者の争いは法廷に持ち込まれている。
ザトコ氏は、スパムアカウントの排除に対する社内インセンティブについて、ツイッターはマスク氏に虚偽の報告をしていたと主張している。ザトコ氏によると、幹部のボーナスは「収益化可能なデイリーアクティブユーザー(mDAU)」の増加に連動しているが、スパムアカウントを含むプラットフォーム上の「数百万」に及ぶ収益化できないアカウントの測定や排除には、インセンティブは提供されていないという。訴状に書かれているように、ツイッターの戦略は、「プラットフォームの健全性の優先度を下げ、mDAUの増加に注力する」ことだったという。
スパムアカウントはユーザー体験を悪化させるものであり、スパムアカウントに対処しなければユーザー数の増加にも悪影響を及ぼしかねないため、これは「非常に短期的な思考」だと、サンフランシスコに拠点を置くエージェンシー、HUbのパートナー兼クリエイティブディレクター、ヒラリー・ウルフ氏は指摘する。
Campaign USが取材した複数の広告業界幹部も、同様の懸念を抱いていた。内部告発の結果、ツイッターのユーザーベースが縮小するのではないかという懸念だ。
ザトコ氏の内部告発資料では、ツイッターの従業員が自分のコンピューターにスパイウェアをインストールしていたことや、幹部らが収益を守るため中国でユーザーの身元をさらすリスクを故意に冒していたことなど、深刻なプライバシー侵害と潜在的な外国による干渉も主張されている。ツイッターは、中国では禁止されているが、同社は中国の広告主が世界のユーザーにアクセスすることを許可している。
プライバシー研究者のザック・エドワーズ氏は、ツイッターのカスタムオーディエンスターゲティングが、理論上、中国当局がファイアウォールを回避している中国ユーザーを特定するために悪用される可能性があることを、一連のツイートで説明している。
広告主の懸念
広告主は、セキュリティリスクや外国の干渉に関与したくないと考えており、ツイッターがブランドセーフかどうかをエージェンシーに確認しているところだ。「セキュリティに大きなリスクがあれば、企業が広告予算を引き揚げたくなるのも無理はない」とウルフ氏は話す。
ディマッシモ・ゴールドスタインの創設者で、クリエイティブ・チーフを務めるマーク・ディマッシモ氏はこう語る。「広告主は、プライバシーが損なわれ、犯罪被害者になるおそれのあるスキームに顧客を巻き込みたくはない。これはマーケターにとって、倫理、評判、財務の面で越えてはならない一線だ。ツイッターは今後、同プラットフォームの広告が、ブランドにとって危険でないことを説明しなければならないだろう」
2020年7月には、バラク・オバマ前大統領のアカウントなど、著名人のツイッターアカウント複数がハッキングされた。ザトコ氏によると、このハッキングの際、十代の若者がツイッターの従業員をだましてアカウントのパスワードを聞き出していたという。
3Q/Deptの最高戦略責任者を務めるサム・ヒューストン氏によると、ツイッターがこのような初歩的なハッキングに屈したというザトコ氏の主張が示すのは、「ツイッター社内のセキュリティレベルが非常に低いということであり、これはmDAUの減少と、広告主とユーザー双方からのプライバシー懸念の拡大につながりかねない」という。
懸念は行動を喚起しない
ただし、過去のさまざまなプラットフォームの不祥事は、広告主の懸念が、広告費削減につながることは滅多にないことも示している。2018年のケンブリッジ・アナリティカ事件では、フェイスブックのユーザー数百万人のデータが不正に取得され、選挙運動に活用されていたことが、内部告発によって明らかになった。しかし、その後もフェイスブックへの広告費は伸び続けた。
その一因として挙げられるのは、大手ハイテク企業のプラットフォームで、データ流出やシステム障害が頻繁に発生していることだろう。今や、広告主はそうした不祥事には鈍感になってしまったのだ。
RPAの最高デジタル責任者、マイク・マーゴリン氏はこう語る。「ボットアカウントやスパムコンテンツ、ハッキング等の問題がツイッターに蔓延しているのは事実だが、それらは、他のほぼすべてのソーシャルプラットフォームも直面している問題だ。だが、これらの企業はいずれも、スパムとハッキングを撲滅するために、コスト効率が高く投資家に好まれる方法である人工知能(AI)技術は活用しても、それを補完するために必要な膨大なマンパワーは投入する気がないようだ」
また、ツイッターが運営する広告事業は、グーグルやメタのような競合他社よりはるかに小規模であるため、広告主の予算はそれほど大きな影響を受けていない。
パフォーマンスマーケティング企業、ハドルド・マシズ(Huddled Masses)のCEO、クリスティー・マクドナルド氏は、ツイッターが「当社のクライアントである中堅ブランドにとって一貫して優先順位が低かったのは、パフォーマンス面で結果が伴わなかったからだ」と明かす。
「今回のニュースは、クライアントの広告費に見合うだけの十分な成果が得られなかった理由について、私たちにいくつかの明確なインサイトをもたらすものだ」とマクドナルド氏は言い添えた。
データを検証する
とはいえ、広告費が無駄になっているかもしれないと知ったなら、広告主たちも行動を起こすだろう。内部告発によって、ツイッターのシステムの信頼性が疑問視されていることから、広告主はキャンペーンのプランニングやバイイングに使用したデータが有効なものだったことの確証を求めている。
VMLY&Rのソーシャル担当グループコネクションディレクター、ドロン・ファクター氏はこう問いかける。「最近の情報に鑑みると、現在のアクティブユーザーベースやユーザー属性、自分たちで生成したユーザープロファイルなどを、どうやって検証し、再評価することができるだろうか。このことは、私たちがこれまで測定し、信頼を置いてきた指標にどのような影響を与えるのだろうか?」
ツイッターのシステムは、4月に同プラットフォームが3年近くにわたって測定基準を誤って報告していたことを明らかにして以来、厳しい監査の対象になっている。マスク氏は、ベリフィケーション企業のインテグラル・アド・サイエンスおよびダブルベリファイに対して、ツイッターのユーザーベースを監査したことがあるか、ある場合、どのように監査したのかについて情報を提示するよう求めている。
だが、ザトコ氏の主張よりも、その動機の方に関心を持つ人もいる。RPAのマーゴリン氏は、「状況からして、こうした告発を真剣に受けとめるのは難しい」と指摘する。今回の告発は、マスク氏が440億ドル(約6兆1000億円)の買収合意を撤回するための訴訟を準備し、この10月には出廷を控えているなかで行われた。ザトコ氏もまた、1月に解雇されているため、いわゆる「不満を抱えた(元)従業員」である可能性もあるという。
「タイミングがあまりに疑わしいので、重大な疑念が新たに生じる可能性がある」とマーゴリン氏は言う。
ツイッターも同様に、マスコミ報道を否定し、コメントの要請には応じなかった。
今こそ透明性を
広告主がツイッターをメディアプランから外すことはないだろうと予想されるものの、このまま不安定な状況が続けば、予算が削減されるおそれはある。ツイッターの広告売上の伸びは、第1四半期の23%増から、第2四半期には2%増に鈍化したが、その一因には、買収合意をめぐる不確実性があるとされている。
ツイッターが収益を守るためには、広告主からの信頼を回復する必要がある。米広告業協会(4A's)のプレジデント兼CEO、マーラ・カプロウィッツ氏は、ツイッターにとって「最も重要な最初の一歩」は、運営についての透明性を確保することだと指摘する。
「マーケターやエージェンシーは、この問題がブランドセーフティやブランド適合性、消費者の信頼にどのような影響を与えるか注目している。ツイッターにとっては、業界の取り組みやスタンダードを再認識し、ブランドの目標達成に寄与する新プロダクトをリリースし、その利点を伝えるいい機会かもしれない」と、カプロウィッツ氏は付け加えた。
ツイッターは、特にマスク氏の訴訟の焦点となっているmDAU指標の算出方法について、より透明性を高める必要があるだろうと、3Q/Deptのヒューストン氏は述べている。
ディマッシモ氏は、ツイッターは「クリーンになり」、「真実を表に出すこと」で「告発の流れを断ち切る」べきだと提案した。
「何が間違っていたのかを明らかにし、その上で、今はどう違っていて、なぜ、将来もその状態を維持できるのかを示してほしい」とディマッシモ氏は言う。
ツイッターはまた、ハッキングや情報流出からアカウントを守るために、現在どのようなセキュリティ対策、安全対策を実施しているか、あるいは導入しつつあるかを正確に説明する必要があると、VMLY&Rのファクター氏は指摘する。
HUbのウルフ氏は、特定の懸念に対処すること、例えば役員のボーナス査定の仕組みを変更することや、セキュリティ違反に対して罰金を課すことなどを提案した。
「現金」も効果的だ。ディマッシモ氏もウルフ氏も異口同音に提案する。広告主に割引価格を提案すれば、悪影響も緩和できるだろうと。
追加取材はアリソン・ワイスブロットとブランドン・ドーラーが行った。