ピュブリシスグループが、あらゆるマーケティングカンファレンスや広告賞を1年間辞退すると発表したのは今年6月のこと。それ以降、この世界最大級の広告フェスティバルにはこれまでにない厳しい視線が向けられてきた。批判が増す中、広告のクリエイティビティーを讃える祭典というその本義からも乖離を余儀なくされた。(Campaignの発行元であるヘイマーケット・メディアは、アセンシャルとともにスパイクスアジアを運営している)
WPPのCEOであるマーティン・ソレル卿はCampaignに対し、「カンヌライオンズは目的を見失ってしまった」「営利主義に走り過ぎている」と公然と批判。同社は11月にロンドンで行われたアセンシャル主催のユーロベスト・アワードも辞退した。WPPワールドワイド・クリエイティブディレクターのジョン・オキーフ氏は、このアワードを「高価な遊びごと」と言い放った。
こうした批判を受け、カンヌライオンズは「フェスティバルの未来を築き、引き続き広告界のニーズに確実に応えていくため」の諮問委員会を設置。メンバーにはP&Gのマーク・プリチャードCBO(最高ブランド責任者)や、ユニリーバのキース・ウィードCMO(最高マーケティング&コミュニケーション責任者)などが含まれる。
その諮問委員会が、フェスティバルを「より透明で意義あるもの」にし、クリエイティビティーと作品の質をより重視していくための改正案を公表した。要点は下記の通り。
- 2018年から期間を5日間に短縮し、6月18日(月)から22日(金)までとする
- 賞のカテゴリーを「リーチ」「コミュニケーション」「クラフト」「エクスペリエンス」「イノベーション」「インパクト」「グッド」など、新たな“トラックス”に再編する。
- 120のサブカテゴリーを廃止
- 各作品のエントリーは最大6つの「ライオン」まで
- ポイント制を変更し、クリエイティビティーを重視するため「クリエイティブエファクティブネス」「チタニュウム」のグランプリ受賞者により価値を置く
- 2年の移行期を経て、チャリティーとNGOの作品はブランド主導のコミュニケーションと分ける
カンヌライオンズ広報担当者は、エントリー費は「インフレの影響で値上がりしている」と説明する。来年のエントリーの受付は来年1月18日まで。
賞の新設に合わせ、カンファレンスセッションなどコンテンツのスケジュールも大幅に変更する。
ライオンズエンターテインメントとライオンズイノベーションはメインイベントに統合され、ライオンズヘルスは6月18日(月)〜19日(火)の2日間の開催に。
価格設定も変更し、5日間の参加者パスは900ユーロ(1050米ドル)値下げする。その代わり、2日間と4日間の前売りパスは廃止。更に、カンヌ・ニース空港間の片道のタクシー代を80ユーロ(93ドル)に固定したり、50以上のレストランで20ユーロ(23ドル)から50ユーロ(58ドル)相当のメニューを固定価格で提供したりという“街中の特典”も提供する。
カンヌライオンズのマネージングディレクターを務めるホセ・パパ氏は、こうした変革は「進化し続けるフェスティバルの一面」と位置付ける。「ステークホルダー(利害関係者)からのフィードバックにかかわらず、我々は常にカンヌライオンズを発展させてきました。広告界の鏡として我々は常に変化を遂げ、進化しなければならないからです」。
「フェスティバルの新たな構造は、過去3年間の我々の尽力の賜物なのです。我々は常にステークホルダーと対話をし、ブランドや広告代理店、テクノロジー企業、コンサルタント会社といった業界をカバーする数多くの企業と深い関わりを持っています。この動きは我々の進化の自然な側面なのです」
ピュブリシスグループは、独自のAIプラットフォーム「マルセル」の開発プログラムが完成する2019年にカンヌに復帰すると言明した。アーサー・サドーンCEO兼会長は、「有意義な変革をもたらす大きな論議を広告界に巻き起こせたことに満足している」とコメント。「よりクリエイティビティーに重心を置いた改革が、カンヌには望ましいでしょう」。
WPPが今回の改正案にどのような考えを持っているのか、判断するのは難しい。この件に関し、同社はコメントを拒否している。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)