東京の不動産業者によれば、世界の多国籍企業が日本参入を目指しているという。
広告主は、中国やブラジルの経済成長の鈍化に落胆する一方で、日本経済に(ゆっくりではあるが)変化の兆しが見られることに少し安堵している。とりわけオリンピック開催の決定は、日本が多くの富裕層を抱えた経済大国だという事実を見直させるきっかけとなった。
では、日本で成功するには?
簡単に成功できると思ったら大間違いだ。トヨタや花王、広告であれば電通など、ほぼ全てのカテゴリーにおいて、国内の大企業が市場の本流を抑えている。いずれも潤沢な資金と地元ならではの強みを有する。またこれらの企業は、先々の国内市場の成長が鈍化することを見越して、海外市場の開拓にも力を入れている。
このような日本市場でも、欧米の企業が堅調な事業を築くことはできる。
コカ・コーラは何十年にもわたり、清涼飲料業界でトップに君臨している。近年では、アップル、ミニ、メルセデス・ベンツ、スターバックス、Airbnbなどの企業が、日本企業の支配下に置かれているかのような業界で目覚ましい成長を遂げている。
日本で勝ち組になるための条件は?
まず大切なのは、成長産業であること。日本が全体的に成長していないからといって、日本に成長分野がない訳ではない。富の偏在や高齢化を背景に、輸入高級車、高級ツアー、ヘルスケア、保険などが急成長している。同様に、これまで遅れていた分野では堅調な追い上げも見られる。クレジットカード、不動産、ソフトウェアなどは、オリンピックを前に政府からの大規模な支援が期待できる。
次に、投資をするならば全力を注ぐこと。グローバル企業は今日、米国と中国を戦略的市場として位置付け、重視している。この2大市場では、競争力を保つための莫大なメディア費用、現地での広告コピー制作、毎年の継続的な投資といったコミットメントが必須とされている。その一方で、あまりに多くのグローバル企業が日本を、単なる一市場としか見ていない。日本は世界第3位の経済大国であり、広告市場はフランスとドイツを合わせた規模を誇る。その日本をないがしろにしては、過ちを積み重ねていくばかりだ。
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競争力がない規模のメディア投資での、市場への参入。(ソーシャルメディアやデジタルに対する過信や、低予算でもパートナーとの共同投資により補えるといった誤った考え方が見受けられる)
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制作費を抑えるため、海外市場向けの広告コピーの再利用。日本はこの手法が最も通用しにくい市場の一つだ。日本の消費者は国内ブランドに高い信頼を寄せている。国内ブランドの方が安全性と品質において優れていると考えており、日本社会に根差した文化的規範や帰属意識が精緻に織り込まれた国内ブランドに親しみを感じてもいる。当社が2016年に実施した「グローバルブランドに関する真実」調査では、日本の消費者は国産ブランドへの忠実さで最上位に入る。そのような中でもメルセデス・ベンツのように、日本で大きな成功を収める海外ブランドもある。同社のスーパーマリオを起用した広告は、世界的ブランドが日本とその文化に敬意を示したことが人々の心に響き、大きな成功を収めた。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンも同様に、日本らしさを演出したユニバーサル・クールジャパンが好調だ。他には、映画産業にもこの現象が見て取れる。日本の映画・テレビ産業は巨大で、日本市場に深く根差しているが、2015年に話題となった映画には海外の作品も多かった。例えば、ロボット作りの才能を持った少年が主人公のハリウッド大作『ベイマックス』や、『スター・ウォーズ』である。
- 最後に、長期計画なく日本市場に参入することによる苦戦。何となく成り行きで進出したようなブランドは、短期的な成果が得られないときやCEOやCMOの方針転換によって、投資を減らす傾向が強い。結果が出ないときに追加投資を呼びかけるのは難しいだろう。しかしあまり拙速に撤収してしまうと、既存投資は無駄になるばかりか、顧客、業界、現地のビジネスパートナーの信頼を失い、再び市場に参入しづらくなるのは明らかだ。
海外ブランドはいわば、誰かの家に招かれたお客さんのようなものだ。誰もが知るように、日本の家庭を訪問するには特別な作法がある。
中に入らず、靴は履いたままで話したいことを話せば、家の人は礼儀正しく話を聞きながら、客が帰ってくれるのを待つことだろう。
それよりも、手土産を持って訪問するのは一案だろう。訪問先のことを少し調べてみよう。そして、将来にわたって良いときも悪いときも共に歩む覚悟があることを伝えよう。
そうすれば受け入れられ、長い付き合いになるだろう。
「日本のグローバリスト」は、グローバルな視点から日本のマーケティングを考察する定期コラム。ジョン・ウッドワード氏は、マッキャン・ワールドグループ・ジャパンのチーフ・ストラテジー・オフィサーであり、英国、フランス、イタリア、オーストラリア、香港にてグローバルブランドを手掛けた豊富な経験がある。
(文:ジョン・ウッドワード 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)