「つくし世代」(現在31歳以下)の若者たちは、人を喜ばすことで自分もハッピーになりたいというマインドが、上の世代よりも強い。このエネルギーをうまく生かせるかが、若者市場を活性化させるためのカギだと考える。そのためにはどのようなアプローチが有効なのか? 私の若者研究の手法とともに、若者を動かすための視点について言及する。
広告会社のマーケッターとして、若者を研究してきて抱える悩みは大きく二つ。一つ目は、従来調査の限界。今の若者はSNSの影響などで本音と建前の使い分けがうまくなっている。ウェブ調査やグループインタビュー調査などでは、なかなか本音を引き出せない。二つ目は、若者の流行誕生における構造の変化。一昔前はマスコミやタレントが流行を作ることが多かったが、今では若者たちのSNSの中だけで流行が作られることが多く、マスコミが取り上げる頃にはもう流行のピークが過ぎている、というケースも多々ある。多くの若者とSNSでつながる(友達になる)ことができないと、どんな情報をやりとりしているのかを知ることができない。
そのような理由から、若者と本音で意見を交わせるほどの親密な距離感で分析したいと、数年前から思うようになった。そこで2012年に立ち上げたのが「ADK若者スタジオ(通称ワカスタ)」という組織である。若者特有の意識・実態を現役大学生と共に研究し、若者のことを一番知っている組織を目指している。具体的には、現在東京・関西・九州の3エリアで展開しており、総勢約80名の大学生と月2回のワークショップを通じて、企業とコラボしながら若者ならではの視点でキャンペーンや商品開発に取り組んでいる。
今回は、この「ワカスタ」で得た知見の一つ、「つくしマインド」について触れたいと思う。
マーケティングの世界では、「商品やブランドをいかに“自分ごと”にさせられるか」という文脈で戦略が語られることが多い。成熟社会である現代において、数ある商品の中から自社商品を選んでもらうためには、「自分に必要だ!」と生活者に思ってもらうこと(自分ごと化)は当然重要である。しかし、今や価値観が多様化(ロングテール化)しており、人それぞれの価値観にピンポイントにフィットするような、「自分ごと化」させる商品を出すことが難しいという課題を多くの企業が抱えている。
そんな中、マーケティング業界にとってチャンスとなる傾向が、若者を中心に見られるようになってきた。それは「自分ごと化の拡大」だ。
自分のためだけでなく、誰かのために行動するという心理。極端に言うと、自分にとって興味やメリットを感じないものでも、友達が喜んでくれるのであれば、彼らはお金も労力も、手間をかけることも惜しまずに行動する。ピンポイントに「自分ごと化」を狙わなくても、「友達が喜んでくれそう」という期待を感じてもらえれば、若者を動かせるということだ。この特徴を私は「つくしマインド(つくし世代)」と呼んでいる。
具体的に彼らの行動を挙げてみると、たとえば、友達の誕生日にサプライズでお祝いするという行為。弊社の調査では、3カ月に1回以上“サプライズ誕生日”を行っている20代が3割近くにも上るという結果が出ている。また、「行動(お店に行ったり商品を買ったり)する際に、写真を撮ることが一番の目的になることがある」に共感する若者も、10代で約3割存在する。自分がしたいことだけを優先するのではなく、誰かに共有するための写真のために行動する若者が増えているのだ。
なぜ彼らの中にこのような「つくしマインド」が芽生えるようになったのか。その答えは、“居場所作り”のためだと考えられる。SNSの登場で、彼らが所属するコミュニティーは格段に増えた。いまや“旧友”という概念は存在しない。小学校の友達でもツイッターなどでつながり続け、以前と同じように日常的に彼らとコミュニケーションをとり続けている。中学、高校、大学、バイト、サークル、ネットで知り合った趣味友、etc……。多くのコミュニティーの友人たちと、それぞれつながっているのだ。そのような状況下にいる若者は、「どこにも所属していないのではないか」という不安を感じることがある。このコミュニティーに自分が存在している意義はあるのか? もしかしたら必要とされていないのではないか? そんな不安をかき消すために、SNSで「いいね!」を稼ぐような投稿をしたり、友達を喜ばせる行動を取ったりしているのだ。
企業が仕掛けるキャンペーンにも、この「つくしマインド」を捉えたものが増えてきた。
自分のためのクーポンではなく友達のために発行するクーポンや、友達にプレゼントしたら喜ばれるようなパッケージの仕掛け、友達と一緒に行けば誘った自分が感謝されるような体験共有イベントなど。
今後もさらにこのような仕掛けは増えてくると考えられるが、同じような仕掛けではすぐに飽きられる。なぜなら、ワカスタメンバーいわく、若者の「つくし方」も日に日に進化していて、相手の喜ばせ方にも一工夫必要になってきているからのようだ。誕生日にレストランでケーキをサプライズで用意して、顔面にケーキを押し付ける「顔面ケーキ」は、もうSNSで見飽きて、「顔面シュークリーム」「顔面豆腐」などに進化しているし、レストランではなく学校でサプライズする「朝食サプライズ」(朝、誕生日の友達が来る前に、机にランチョンマットを敷いて、その上にみんなとコンビニで買ったサラダや鮭などをきれいに盛り付けて祝う)など、新しい「つくし方」が生まれている。この進化の背景には、若者たちが「つくしつくされる」行為を重ねてきたことで、自分たちの好む「つくし方」が変化したことにある。労力やお金をかけた形でつくすよりも、気軽だけどちょっとした新しさを感じる程度の「つくし」の方が心地よくなってきたのだ。つくす行為が “重い”と、お返しにプレッシャーがかかったり、一緒に「つくす」行為をする仲間を誘いにくくなったりするという弊害を、うまく回避しているのだろう。
「つくしマインド」をはじめとした、若者ならではの価値観は、常に進化し続けている。
日常的に若者と向き合い、彼らの変化を肌で感じ続けることこそが、彼らの心を捉える近道だと考える。
(文:藤本耕平 編集:田崎亮子)
藤本耕平氏は、アサツーディ・ケイの第2アクティベーションプランニング本部 第4アクティベーションプランニング局 プランニング・ディレクター。