日本企業の最大の問題点は、経営幹部が「ブランド」の意義を理解していないこと −− こう語ったのは、内閣府知的財産戦略推進事務局バリューデザイナーの宇津木達郎氏だ。
「内閣府はブランド価値を明確にしようとする企業のサポートを始めました」と同氏。「だが、今もほとんどの企業がブランディングを考慮していない。90%の確率で、ブランドと特許を混同しています」。
ポジティブな側面もある。ブランド評価が専門のブランドファイナンス社のデビッド・ヘイCEOは、トヨタ自動車の豊田章男社長を世界で5本指に入る「ブランドの守護者」に挙げた。彼を超えるのはジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)のみで、ベルナール・アルノー(LMVH会長兼CEO)やティム・クック(アップルCEO)、ロビン・リー(バイドゥCEO)よりも上というのだ。
ブランドファイナンスはトヨタを日本最高のブランドとして位置付ける。へイ氏は「豊田社長はトヨタというブランドに自信を持っており、電気自動車への変革を成し遂げたことで世界最高の自動車ブランドとしての地位を守り続けている」と評価した。
また、「日本で最も急速に成長しているブランド」として挙げたのは資生堂、ユニクロ、東京海上日動火災保険の3社。いずれも「海外市場の成長に注力し、右肩上がりを続けている。ブランド価値の理解が企業内で徹底されています」。しかしまだ多くの企業の経営幹部が「ブランディングの基本的要素にすら注意を払っていない」。
「企業は役員会でもっとブランディングに関する議論を交わし、戦略化させていかねばなりません。まだ多くがこのプロセスを行っていない。あまりにも当たり前のことなので、こういうアドバイスを言い続けている自分が奇妙にすら感じます」
他者に追随せず
BBHのワールドワイド・チーフ・クリエイティブオフィサーで在ロサンゼルスのペル・ショネル氏も、ブランド価値の構築をテーマに登壇した。同氏は「他者に追随しないこと」の重要性を聴衆に説いた。
スウェーデン人の同氏がまず引き合いに出したのは、歴史上の「ブラックシープ(『異端者』の意、BBHのスローガンでもある)」たち。デヴィッド・ボウイと共に「ジギー・スターダスト」のキャラクターを生んだファッションデザイナーの山本寛斎、インディアンジュエリーのブランド「ゴローズ」を主宰した高橋吾郎、アートの価値観を根底から覆した美術家のマルセル・デュシャンなどだ。
「彼らは当時、世の中の価値観に逆らったからこそ際立った。今の広告は全て同じに見えます。それは皆が同じ影響を受けているから。程度の差こそあれ、(ソーシャルメディアで)同じ人々をフォローしているからです。多数派の人々の嗜好を知ることは、逆に素晴らしいインスピレーションにつながる。つまり、やるべきではないことを学べるから。必ずしもトレンドから背を向ける必要はありませんが、流れに逆らう人々の思考は学ばなければならない」
「ブランドは世の流れに逆行することを目的とするべきではない。この考え方は、あくまでも成長を達成する手段なのです。差別化は大衆の興味の範囲内で実現することが、最も機能する秘訣」
「トレンドから外れずに仕事を進めていくことが肝要。そうすれば、世の流れが把握できる。時代精神を読み、いかに自分が話題になるかを探求するのではなく、自分のブランドがどのように時代と関わっているかを把握することです」
BBHは2005年から2008年までの短期間、日本で事業を展開した。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)