David Blecken
2017年2月09日

「日本株式会社」は信頼回復が急務 − 2017 エデルマン・トラストバロメーター

エデルマンが毎年実施する、信頼度調査の最新結果が発表された。浮き彫りとなったのは、企業に対する日本人の著しい不信感。どのように信頼回復に努めるべきなのか、調査結果からはその糸口も見えてきた。

防災訓練での小池百合子東京都知事(写真提供:シャッターストック)
防災訓練での小池百合子東京都知事(写真提供:シャッターストック)

2016年は、悲観的な出来事に溢れた1年だった。テロへの尽きぬ不安から多くの国々で「恐怖」が政治利用され、国粋主義的風潮が拡散。それに拍車をかけたのは、「自由社会のリーダー」にドナルド・トランプが就くという米大統領選の驚くべき結果だった。こうした流れに沿って、グローバル経済の崩壊を懸念する声も上がった。その矛先が企業のあり方にも向けられたことは言うまでもない。自ら招いた不祥事の対応に四苦八苦する企業の姿は、もうすっかりお馴染みなのだ。

こうした状況が日本人の意識に悪影響を及ぼすのでは、と危惧するのは当然だろう。日本は今、前に進もうと多大な努力を払っているが、全てが順調に行っているときでも極めて用心深い国だ。実際、2月7日に発表された「2017エデルマン・トラストバロメーター」では調査対象となった28カ国中、日本が最も悲観的なことが判明した。「自分と家族の経済的な見通しについて、5年後の状況が良くなっている」と答えた日本人回答者は、一般層で17%に過ぎなかった。

しかし調査結果をつぶさに見ると、悪いことばかりでもなさそうだ。「自国に対する信頼度(自国の企業、政府、メディア、NGOという4分野の組織への信頼度の平均値)」という設問に、知識層は一般層よりも明らかに高い数値を示している。昨年からも大幅に上昇し、企業に対しては55%(10ポイント上昇)、政府53%(12ポイント上昇)、メディア45%(6ポイント上昇)、NGO/NPO 44%(4ポイント上昇)。一方、全体的な自国に対する信頼度は知識層の49%に対し、一般層は34%で、その差は15ポイント。昨年の3ポイントに比べると差が12ポイントも広がっている。

エデルマン・ジャパン代表取締役ロス・ローブリー氏は、日本の知識層の自国に対する信頼度が上昇したのは、他の先進諸国と比べた場合の日本の安定性が要因ではないかという。「知識層の人々は30年もの間、日本の状況はひどいと言い続けてきました。しかしあるとき他国を見渡してみると、日本はそれほど悪くないということに気づいた。政権は安定し、経済も比較的安定し、そして社会は極めて安定していますから」。

分岐点となるこの1年

だがローブリー氏は、「社会システムが機能しているかどうか分からない」と回答した日本人が45%に上ったことに着目する。よって2017年は、「各組織がその存在意義を証明する上で重要な1年になるでしょう」。因みに世界全体では、社会システムが機能していないと思っている人々は53%だった。また、汚職やグローバル化、社会的価値の喪失、移民、技術革新の速さといった数々の社会的問題に対して人々が抱く不安が、日本は比較的低いという結果も出た。「この1年で日本の人々は社会システムに対して不信感を強めるのか、逆に信頼度を高めていくのか。これは大きな課題となるでしょう。私たちは今、重要な岐路に立たされているのです」。

もちろん、懸念すべき点はそれだけではない。メディアに対する信頼度は27%で、2012年から2017年の間で1ポイントしか下がっていないのに対し、従来型メディアに対する信頼度は9ポイント低下して32%だった。情報源として現在最も信頼されているのは、検索エンジンという結果も出た(昨年から1ポイント上昇して45%)。さらには、人間によって編集された情報よりも検索エンジンを信頼すると答えた人も65%に上った。エデルマンのニューヨーク支社でプラクティス・アンド・セクターのプレジデントを務めるベン・ボイド氏は、「検索エンジンがこれほど信頼を集めるなか、有料の露出拡大を行わずアーンドメディアに依存する戦略は時間の無駄」と指摘する。

一般的に、企業のプレスリリースよりも漏えいした情報の方がはるかに信頼されるが、メディアにも疑いの目は向けられている。人々が事実を偏って受け入れたり軽視したりする傾向は明らかで、日本では5人に2人が「たとえ真実を誇張しているとしても、私と私の家族にとって良いことをしてくれると信頼できる政治家を支持する」と回答した。また、意見の異なる人や組織には耳を傾けたくないという人は65%に上った。

日本でもフェイクニュースは明らかに懸念材料だが、「米国でも大きな議論になったことから、人々の問題意識は高い」とローブリー氏。また、キュレーションサイトに対してはますます懐疑的になっており、「そのきっかけは昨年末に起きたディー・エヌ・エー(DeNA)の不祥事でしょう」とも。

顔の見えないCEO

CEOに対する信頼度でも、日本は調査対象国の中で最低を記録した(昨年から7ポイント低下して18%)。その原因は「企業が社会の期待に応えられていないから」とボイド氏は指摘する。ビジネスは社会を良くする役割を担うべきだと考える人は今も51%いるが(世界全体では75%)、「企業はそれに失敗したのです」と同氏。「日本を含む世界全体で今、強いリーダーシップが求められていますが、現状は人々が望まない形で権力の座の移行が繰り返されています」。さらに、企業の社会問題への取り組みも遅々として進んでいないという。「世界を救う、などといった大それたことを期待しているのではありません。社会のために何か良いことをしよう、という程度なのですが……」。

ローブリー氏は、「顔の見えないCEO」がいまだに日本の問題だという。企業が危機に直面したとき、社会と向き合うことに消極的なCEOが多いというのだ。企業に対する信頼という点で、自発的に情報を発信するスポークスパーソンを信頼する人は60%近く、駆け引きのうまい経営者よりも単刀直入で遠慮のない経営者を好む人は57%、企業広告よりもソーシャルメディア上での企業メッセージを信頼する人は71%だった。また、企業やその業界のスポークスパーソンとして最も信頼がおけるのは、一般社員という結果も出た。

ボイド氏は、従業員エンゲージメントを高めて社内から信頼を醸成することが「最も近道」であるにもかかわらず、企業の取り組みは非常に遅れていると指摘する。しかし日本企業の間でもその関心は高まっており、社員に盲目的な忠誠心を求める時代は終わったと理解し始めているという。「この3カ月で、過去3年よりももっと多くの従業員エンゲージメントに関する議論をしました」とローブリー氏。

結びにあたり同氏は、グローバルなリーダーシップが不在の今、日本は世界の舞台でより大きな存在感を示し、自由貿易の実現に向けて指導的役割を果たすことも可能ではないかと述べる。確かにそうなのかもしれない。だが日本の組織は、まず人々の信頼を十分に取り戻すところから始めなければならないだろう。

エデルマンの第17回信頼度調査「2017 エデルマン・トラストバロメーター」は、世界28カ国の33,000人以上を対象に2016年10月13日から11月16日にかけて実施された。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

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