「パーパスウォッシュ」(実態が伴わない見せかけだけのパーパス推進)との非難を避け、ブランドがパーパスを効果的に語るにはどうすればよいのか。Campaignが開催したMedia360のパネルセッションで、4人のマーケターが見解を披露した。以下に彼らからのアドバイスを紹介する。
オーセンティシティを大切にする
当然のことながら、どれだけ強調しても強調しすぎることはない。オーセンティシティ(真正であること)は重要だ。
デジタルタレントエージェンシー、ヴァンプ(Vamp)の共同創業者でPR責任者を務めるルビー=ジェイド・アリク氏は、「私の世代は特にオーセンティシティを重視している」と言う。
「つまり、嘘つきになってしまうくらいならば、何も語るべきではない。だったら一歩引いて、本当に関心がある人にこそ、その舞台と発言権を与え、パーパス主導の取り組みについて語ってもらうべきだ」と同氏は述べた。
OVOエナジー(Ovo Energy)のマーケティングディレクター、サラ・ブース氏はこれに同意し、「どのブランドも、その背後にある組織をまとめるためにはパーパスが必要」だが、すべてのブランドがパーパスを伝えなければならないわけではないとした。
「但し、企業のパーパスやミッションが、社会が求める選択肢の推進と一致しているのであれば、それをコミュニケーションの中心に置きたいと思うかもしれない」とブース氏は言う。
「しかし、企業としてのモラルが健全であることを明確に示したいと思う一方で、そういったメッセージの優先度をあげすぎても、それが消費者の選択を後押しするとは限らない。人は時に、ただビスケットを買いたいと思うものだ」と同氏は語った。
適切な「コーズ(理由)」を選択する
英国の放送局ITVはこの1年、メンタルウェルネスを訴えてきた。同社の社会的パーパス責任者、クレア・フィリップス氏は、プロモーションする上で、そのための適切なコーズ(社会的大義)を選択する際には、他に誰がそのテーマについて語っているのかを調べて、自社が、組織としてその分野で信用を得られているか自己評価してみることも重要だと語る。
「自社にとって競争上、有利になるのか不利になるのか。オーディエンスのモチベーションを高めることになるのか。それがオーディエンスが我々に語ってほしいことなのか」をブランドは問うべきだと、フィリップス氏は言う。
コーズが決まったら、そのテーマで何を語るのかを決める必要がある。ITVはメンタルヘルスについての他の企業による発言を調べ、(同社が)メンタルウェルネスについて語ることは、ブランドを高める上で、良いチャンスだと判断した。
この選択はITVのブランド規模とも一致する。ITVが多くのオーディエンスに向けて、メンタルウェルネスについて語ることによって、「常に4人に1人くらいはメンタルヘルスの危機に直面しているかもしれないが、(我々の対象規模であれば)ケアすべきメンタルを持つ4人中4人すべてを相手にコミュニケーションをすることができる」とフィリップス氏は語った。
社内のオーディエンスを忘れない
マーケターは外部のオーディエンスに注目しがちだが、こうしたコミュニケーションが社内に与える効果も忘れてはならない。エネルギー大手のE.ONで、広告、PR、キャンペーンの責任者を務めるスコット・サマービル氏は、あるテーマについて企業が見解を持ちコミュニケーションを実施することは、スタッフにとっても非常に重要な意味を持つことがあるとして、「そこで働いていることを誇りに思うという、我々自身のアイデンティティに関わる話だ。自分たちのビジネスのあり方について対外的に語るということを通じて、自分たちの組織の士気も高めることができるのだ」と述べた。
完璧である必要はない
完璧を目指すと動きにくくなることが多い。サマービル氏は、E.Onが化石燃料から再生可能エネルギーに事業を転換中であることを明かした。同社はそれが新たなビジネス戦略の中心であるため、この転換について消費者に伝えたかったが、この話題について語る資格を自社が有しているのかということには懸念があったという。
「大気汚染を問題にすることからはじめたが、それを表に出すのにはしばらく時間がかかった。なぜなら、我々はいまだにディーゼルバンなど大気を汚染するものを使用していたからだ。我々は完璧ではなかった」とサマービル氏は話す。
「しかし、そこでわかったのは、消費者は応えてくれるということだ。特にサステナビリティについては、我々自身の暮らしのなかでも完全な人などいない。我々は皆、好きなコーヒーショップに再利用できる自前のコーヒーカップを持参するよう努めているが、おそらく大半の人は、カップを忘れてもコーヒーを注文するだろう」とサマービル氏は語った。
ブース氏もこれに同意して、「我々がはっきりと語ったことは、サステナビリティへの道のりの初期には間違いを犯すだろうということだった。我々は、自分たちが何を行っているのかについて完全に理解することはできないだろうけれど、それを克服して考えることは重要だ」と述べた。間違えることを恐れるあまり、良い方向への変化を妨げるようであってはならない。
マーケターは互いに寛容になるべき
OVOエナジーがサステナビリティに取り組もうとした時、業界からは多くの支持が寄せられたが、それと同時に完璧ではないという批判も多かった。
「強く印象に残ったのは、人々はこうもすぐに批判したがるのかということだった」とブース氏。「初めて何かをしようとしているときに間違いを指摘されると、体がすくんでしまい、もう手は出すまいと思うのが人間だ。試みの段階ではお互いが味方同士になることが重要だ」と同氏は言う。
「もちろん、お互いの失敗を指摘しあったり、教え合って高め合ったりしなければならないが、ソーシャルメディアのようなキャンセルカルチャーの意識で拙速に走ると、身動きがとれなくなるだけでなく、後戻りすることにもなりかねない。そうなると、前に出て物事を良くしようとすることが、非常に気疲れするものになってしまう」
ブランドは立場を明確にすべき
ITVは2020年に思い切った手を打った。「ダイバーシティ」というダンスグループが「Britain's Got Talent」という公開オーディション番組で、ブラック・ライブズ・マター(BLM)をテーマにしたパフォーマンスを披露した際、英国情報通信庁(Ofcom)に2万4000件もの苦情が寄せられたのだが、そのときすぐに、ITVは人種差別に反対する声明と、ダイバーシティを支持する広告を出したのだ。
当時のことをフィリップス氏は次のように語る。「このような危機的状況に関わるのは、決して好ましいことではない。事態は信じられないほど速く動くからだ。しかし、はっきりしたことがある。ブランドは立場を明確にすることが重要だということだ。何もかも順調に進んだというわけではなかったし、少し怖い思いもした。しかし、意見放送にも対応していたので、オーセンティシティに関するギャップはなかった。私はむしろ、ブランドには立場を明確にすることを勧めたいと思う。私であればそうしようとするだろうし、最初は完全というわけにはいかないかもしれないが、我々は今もそうしようと努力しているからだ」
サマービル氏はこれに同意した。あらゆるオーディエンスが対象であるコモディティブランドを運営するE.Onでは、人々を攻撃しないよう、非常に慎重なコミュニケーションをする傾向がある。
サマービル氏は「しかし、ソーシャルメディアで状況が大きく変わり、自分たちなりの意見を持たないわけにはいかなくなったのだと思う」として、「今は立場を定めないでいると双方から批判されることになる。もはや沈黙という選択はなくなったのだ。沈黙は同意したも同然なのだから」と続けた。