昨年は、男女平等をめぐる「女性たちの闘い」が世界的注目を浴びた年だった。今や女性たちは、以前なら蓋をされていたような問題でも公にすることを厭わない。事実、世界規模の調査では約80%の女性が「今ほど女性にとって良い時代はない」と答えているのだ。
ジェイ・ウォルター・トンプソン(JWT) が2015年末から1年間をかけた「グローバル女性指標 − Women’s Index」の調査結果が発表された。新たに就任したグローバル CEO、タマラ・イングラム氏の下で行われたこの対面調査は、新たにアジアの7カ国を加え、1カ国平均で500名の女性に仕事のキャリアや経済面、テクノロジー、個人的な満足度、人間関係といった様々な質問をし、聞き取ったもの。
結果を見ると、日本はいくつかの点で独自性を示したが、女性が直面する問題はどこの国でもほぼ似通っていることが判明した。「今ほど女性にとって良い時代はない」と感じている女性は、日本では半分以下の43%。日本の女性は仕事か家族かという選択に今でも苦しんでいるようだ。彼女たちのほとんどにとって、仕事のキャリアは最優先事項ではない。「配偶者やパートナーよりも強い野心を持っている」と述べたのは28%に過ぎず、タイの74%、ベトナム69%、中国56%と比べても非常に低い。
中国や台湾、シンガポールの女性は「自立」と「自信」を自分にとって最も重要な要素として挙げた。日本の女性も自立を重視しているが、「子を持つことや育児の方がより重要」と答える。その一方で、36%が「子どもを産むつもりがない」、40%が「産むかどうか分からない」と回答。これはアジアで最も高い数値で、その大きな理由が経済的な不安だ。総じて37%は、個人的な目標も仕事上の目標も達成できないと考え、この数値もアジア諸国の6倍に達する。
日本の女性は人生の「刺激」にも欠けているようだ。成長する過程でもっと多くのロールモデルにめぐり会いたかったと答えた女性は53%で、49%は映画やテレビの世界ではそれが見つからない、と不満を述べている。文化的な影響力においても、63%がもっと女性の声を聞きたいと考え、60%は科学や工学の分野でのさらなる女性進出を望んでいる。
ブランドにとっては、この部分にビジネスチャンスがあることは明らかだ。こうした現実的なギャップをブランドが完全に埋めるのは困難だろうが、社会変革の中で自分の進むべき道を追い求める女性を支え、励ますことは大いに可能だ。ただしそのサポートは誠実で、的を射た感受性の高いものでなければならない。他国での例が示すように、それを正しく理解するのは容易なことではないのだ。
共感を呼ぶ「実話」
日本人の多くは、中国人女性は強く、時には攻撃的だと見なしている。だが中国でも性差別は他国同様、大きな問題になっている。中国女性の55%は職場で性差別を経験し、女性という理由で自分たちの意見が軽んじられると思っている。
P&Gの高級基礎化粧品「SK-II」は、中国で今も使われる27歳以上の未婚女性を表す差別的な言葉、「売れ残りの女性(leftover woman)」を擁護するキャンペーンを展開した。「結婚市場を占拠(Marriage market takeover)」と題されたこの動画は、不当な社会的圧力を受ける独身女性たちの苦悩を実話で描き、注目を集めた。調査会社「ユーガブ(YouGov)」 によると、これによって独身女性に関する人々の問題意識は高まり、彼女たちに共感を示したことで商品への購入意欲も高まったという。
このキャンペーンの良さは、「現実」を描き出した点にある。女性に自信を植えつける戦略は、ブランドにとって魅力的だ。だが真の理解に基づいたものでなければ、単にしらじらしく、恩着せがましいものになりかねない。
ボディケア製品大手ダヴのツイッターのハッシュタグ・キャンペーン「#スピークビューティフル(Speakbeautiful)」は、この意図をはき違えてしまった。同社はこのキャンペーンで、自分に否定的なイメージを持つ女性に向け、ポジティブなメッセージを一方的にツイートした。昨年10月には「〇〇○(ファーストネームで呼びかけて)、自分の好きな部分を見つけよう。さあ、今すぐに! #SpeakBeautifulでツイートを」といったメッセージを送り、ユーザーたちを苛立たせた。また、「チューズ・ビューティフル(Choose beautiful)」と銘打ったキャンペーンも複雑な反応を呼び起こした。自分を表現する言葉をブランドに強要されたくない、と感じた人々が多かったのだ。
調査結果からは、女性たちはブランドからのメッセージを決して多く望まず、より多くの人々と関わりたいと感じていることが分かった。総じて女性たちは、「美しく魅力的でありたいと願っている」というステレオタイプの見方をされがちだ。だがどこの国でも、彼女たちはより幅広いロールモデルを求めていることが明らかとなった。ある国では、軽薄な印象を与えるセレブリティに興味がないと答えた人々は73%で、政治家や科学者、技術者、あるいはドラマの中の強い女性主人公たちを尊崇すると答えたのは80%以上だった。
「広告にもっとユーモアを効かせてもいいでしょう。生き方を諭し、やる気を煽るようなメッセージばかりである必要はないのです」。JWTでグローバルプランニングディレクターを務めるレイチェル・パシュリー氏はこう述べる。
「母」にも個性がある
子どもを持つ女性全てに「母親」という画一的なレッテルを貼ってしまうことも問題だ。「悲しいことに、野心を持つのは男性で、女性は責任を負うものという固定概念をメディアが作り上げています」とパシュリー氏。
女性がいったん子供を持つと、ブランドはそれぞれの個性を無視し、「母親」としてのみコミュニケーションをとろうとする。「私たちの調査で、女性たちは1人の人間として見られたいと思っていることが分かりました。女性が第1子をもうけてからアイデンティティの喪失を経験し、しばしば鬱になってしまうのは驚くべきことではないのです」とパシュリー氏。
米日用品大手キンバリー・クラークの地域担当マーケティングディレクターであるラウール・アスタナ氏は、「これからの女性向けマーケティングでは、率直さと誠実さ、透明性が重要な要素となっていくでしょう」と語る。「ブランドの考えを伝えるだけではなく、女性が何を考え、どう行動すべきかについて消費者と丁重に対話を行う。表層的な人物描写では、もう機能しないのです」
「この流れは、アジア太平洋地域全体に当てはまると思います。女性一人ひとりの個性が、より尊重されるようになってきている。ブランドも、多角的な視点を示せるようにステップアップしなければならないのです」
(文:デビッド・ブレッケン、エミリー・タン 編集:水野龍哉)