Barry Lustig
2017年4月20日

秋澤知子氏(エデルマン):「発言しやすい環境を作ることが大切」

二つの文化を背景に持つコミュニケーションリーダーは、日本の職場や「グローバル化」のための土壌作りに、国際的な経験を生かしている。

秋澤知子氏
秋澤知子氏

日本の女性リーダーを迎えてのインタビューシリーズ「女性リーダーたちと語る」。今回は、エデルマン・ジャパンの秋澤知子氏に話を聞いた。人格形成の時期を米国で過ごし、2012年に同社に入社。現在はデピュティ・マネージング・ディレクターと、テクノロジーとデジタル部門のディレクターを務めている。二つの文化をバックグラウンドに持つ秋澤氏に、国際的な文脈における日本のコミュニケーションスタイルについて話を聞いた。

育ったのは海外ですか?

神戸で生まれ、父の仕事の都合で13歳の時にシカゴに移りました。米国に着いた当初は、自分の名前さえ英語でほとんど書けず、文法の「未来形」も知りませんでした。でも5年後には、完全にアメリカナイズされましたね。

海外の高校に通った経験が、キャリア選択に影響を与えたと思いますか?

日本に戻ったら、日本についてもっと学びたいと思っていたので、最初の就職先には住友商事を選びました。日本の大企業で働くのってどんな感じだろう?と、ちょっと好奇心があったのです。

同級生のほとんどは卒業後すぐに外国企業に勤めましたが、私は、日本で働き続けたいのなら、日本のビジネスがどのように行われているのか知っておく必要があると思ったのです。

日本企業で働いて得られた教訓には、どんなものがありますか?

住友商事では、チームがいかに緊密に連携しているかを学びました。自分の意見を述べることはできましたが、最終的にはチームが一丸となることが求められました。

次に入った会社は、非常に古くて歴史がある有名な出版社、中央公論社(当時)でした。この会社も「ザ・日本」でしたね。

中央公論では文芸セクションで、アメリカの雑誌向けの業務を担当しました。雑誌が相手ですから、アメリカの読者向けにどのような記事を翻訳して出せばよいか、非常に注意を払いました。日本が「ナンバーワン」であることを強調したり、日本の特異性を説明したりすることなく、コンテンツの文化的文脈を説明することを求められました。中央公論では、日本文化をより普遍的に語る方法を学びましたね。

あなたのクライアントにとって最大の課題は何ですか?

多くの企業、特に製造業は、海外で事業を拡大しています。しかし海外での成長が必要な分野は、サービス業などたくさんあり、実現するためにはコミュニケーション上解決しなければならない大きな問題があります。日本の企業は海外で、文化の違いに起因するさまざまな課題に直面しますが、それを解消するにはコミュニケーション術が不可欠といえるでしょう。

文化的障壁とは、例えばどんなものですか?

課題であって、障壁ではありません。異なる国や文化の中で、どのようなコミュニケーションが必要なのかを理解することなのです。それぞれの国で、どのような形でコミュニケーションがとられているのか、しっかりと具体的に理解することが必要です。それには、当該地域における専門的知見が役に立ちます。エデルマンなどは、そのような微妙な調整をどのように行うべきか、かなり学んでいます。

多国籍企業が日本市場で事業を行う際、特に配慮するべきことは?

それは過大視しすぎだと思います。ジャーナリストが何を知りたいのか、それにどう応えるのかを考えれば、「ここは日本なのだから、特別にこんな事をすべき」とは絶対になりませんね。

日本市場が他と比べて、それほど大きく異なるわけではありません。日本ならではの言葉と文化ゆえ、メッセージをしっかり伝える際に微妙な調整が必要になるのは事実です。弊社では日本企業に、海外で成功するために必要なことを、神経質にならないよう配慮しながら伝えていくことが重要だと考えています。

女性の発言を促すために、コミュニケーション担当の責任者は何をすべきだと思いますか?

まず第一に、もし女性が率直な意見を言うのが難しいようであれば、経営陣は女性の中間管理職がきちんと発言することができるようにサポートし、意見を述べたことで非難されたり、とがめられることがないという点を明確にすべきだと思います。

私は女性の代表として語っているわけではなく、同じことは男性にも当てはまります。キャリアを通じてこのような場面を多く見てきましたが、日本人はまだ人前で意見を述べることに少し躊躇します。学校教育の中で、発言するように教えられてこなかったことが原因の一つです。男性と女性の双方が率直に発言し、意見交換できる環境を作り出すことが重要で、これをできるのは経営者や幹部だけだと思います。これこそが本当に重要な点です。

アメリカの高校での経験は、発言することへの自信をつけるのに役立ったと思いますか?

おそらく、そうですね。アメリカや西洋諸国では、意見を言わなければ存在しないも同じ。それほど極端ではなくても、発言する姿勢であることがとても望ましいとされています。発言することが自然だという状況に放り込まれたことは、私にとって幸運でした。

今でも英語でプレゼンテーションをしたり、上司や社内ネットワークに話す時に緊張すると、初めてアメリカに行った時に感じたことや、それをどのように乗り越えたのかを思い出します。米国での経験は、私に自信を与えてくれました。

マネージャーとして心掛けていることは?

日々の業務の細かなことに注意を払っています。例えばクライアントが言った些細な事など、いつもとは違う事が起きたら、たとえどんなに小さな事でも伝えてもらうよう、チームの皆には言っています。

私たちは非常に複雑な環境の中で働いており、クライアントが求めるものを理解する必要があります。チームの皆には、日頃のクライアントとのやりとりの中で見えるものに注意を払い、普段とは違う何かを聞いたり見たりした時には、私に知らせてほしいと伝えています。

問題や間違いがあっても、怒ったりはしません。私が怒るのではと思って、報告するのを躊躇してほしくないのです。ですから問題を早い段階で提起し、何をすべきかを皆で一緒に考える環境を作るよう努めています。

日本で働く外国人マネージャーに、何かアドバイスはありますか?

日本人は、アメリカでのように皆の前で意見を言うことを奨励されていません。特に英語になると、多くの日本人は、複雑な考えを完全に表現することができないのです。日本人は物静かな傾向がありますが、だからといって無視しないでください。多くの人が興味深い考えを持っています。個別に意見を聞けば、自分の考えを話してくれるはずです。

(文:バリー・ラスティグ 編集:田崎亮子)

このインタビューは英語で行われた。バリー・ラスティグは、東京を拠点とするビジネス・クリエイティブ戦略コンサルティング会社「コーモラント・グループ」のマネージング・パートナー。

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Campaign Japan

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