京都・嵐山の近くに居を構えながら、関西圏と東京、そしていくつかの地方自治体で働くワークスタイルを始めて、1年が経つ。
自宅の隣に建つ和風の一戸建てからは、毎日異なる国籍の多様な人たちがタクシーを使って出掛けていく。民泊用の物件として活用されているのだ。
世界の“情報供給地”である京都に住む私が、世界中で見られるためのバズ動画の企画を考えたり、東京の若者たちにツイートしてもらう投稿キャンペーンの準備をしたりと、“情報消費地”に向いて毎日せっせと働いている。
東京などの“情報消費地”では、どこかで発生した1次情報をキュレーションするだけの2次情報が多い。都市部発の新しい面白い話が減ってきている。最先端のトレンドを常に発信する“情報供給地”だった東京から、最近どんなワクワクする情報を得ただろうか?
一方、ローカル発の日本の未来にワクワクできるような取り組みや話題がいくつも出てきている。それを都会に住む人がメディアを通じて“消費”して、広告・メディア業界に貢献している。
田舎暮らし論や、地方分権論を繰り広げたいわけではない。2次情報で満ち溢れ、情報が画一的になり始めた東京の状況が、昨今のトランプ旋風によって露呈した「大多数の心を捉えられていない、一極集中による虚像のコミュニケーション環境」と、何か似ている。
人は好きなところに住めばいいし、昨今注目される「関係人口」がどんどん増えて、日本全国における“質の高い関係人口”が2億人、3億人と増えていけばいいと思う。それが日本の生きる道だろう。
例えばいま仕事でも関わっている神奈川県の真鶴町は、県の最西端にある定住人口8千人にも満たない、筆者が関係人口となっている町だ。ここには「美の基準」といわれる町のデザインコードが存在する。世界デザイン都市サミットに招待され、世界中から建築やデザインの関係者が訪れる町だ。東京からの移住者が営むゲストハウスには、毎日Airbnbを通じて世界各地からの旅行客が予約を埋め尽くす。現在は、町に息づく人々のさまざまな営みを美しい「作品」と捉えた「真鶴半島イトナミ美術館」というプロジェクトも進行している。魅力あふれるこの小さな町は、世界に向けた情報発信地だ。
“情報供給と情報消費のハイブリッドエリア”と、“それを構成する関係人口たち”をたくさん国内に育むことが、さまざまな課題で悩む世界中の国々やこれからの広告業界に、何かのヒントを与えるのではないか。
例えばいま東京に住む人の数パーセントでも、どこかの町の関係人口になって新しいことを始めたり、刺激を受けたり、情報を双方に流通させたりするとどうなるだろうか。日本は、まだまだ元気になりそうだ。
LCCや民泊の発達もあり、アジア諸国の複数都市と関係を持ってやりとりする“グローバル関係人口”が増えると、もっと世界は面白くなるのではないか。そういう意味では、国内外のどこででも目につく口うるさい“関西人”がいるこの場所は、グローバル関係人口を実践している先進エリアなのかもしれない。
(文:北川佳孝 編集:田崎亮子)
北川佳孝氏は、博報堂のPRディレクター。企業の情報戦略、クリエイティブ・企画業務に従事する傍ら、2014~2015年度は多摩美術大学の非常勤講師として教鞭を執り、真鶴半島イトナミ美術館プロジェクトリーダーなども務める。