ブランドを作るのは販促活動ではなく、トップの人間たちです。販促活動は、社内の人間がそのブランドをどのように見ているかを、外に向けて投影したものにすぎません。社内に意見などの食い違いがあれば、どんなものであれ、ブランドの販促がうまくいくことはないでしょう。
ブランディングとは、何の説明も必要としない、その名前やロゴが導き出す統一された価値観だと私はみなしています。ブランドの立ち上げや変革は、まず何より社内で始まるものであり、外から始まるものではありません。その会社のブランドがどんなものなのか知りたい時は、そこで働いている人たちと話し、彼らの振る舞いを見ればいい。それでそこにどんな価値があるのか明らかになります。消費者調査や市場調査は、他の人間に任せます。
もしあなたが企業を率いる存在なら、あなたがブランディングの責任者です。私からのアドバイスは、以下のとおり。
1. まず従業員の行動の変化なくして、人々の心をとらえるリブランディングは絶対に成功しない
保険会社が、自分たちのブランドの信頼性は絶対的なものだと強調しても、人々は保険会社に大きな不信感を抱くもの。もし保険査定員が、自分のクライアントをあたかも信じていないかのような振る舞いをしたとしたら、誰がその保険会社を信用するというのでしょうか。もし査定員が、証明できるまではどんな訴えも無効とみなし、すべてを事細かにチェックし、支払いを遅らせ、できるならば支払額を減らそうと努めたとしたら? ブランドとしての信頼感を届けたいと思うのなら、そう思われるように振る舞わなくてはなりません。もし査定員がすべての訴えを、事実とは違うと証明されるまでは有効なものとみなし、顧客が損をすることがないよう金額の上方修正に努め、支払いのスピードを優先させたらどうでしょうか。
2. 顧客との接点ほど、ブランドにとって重要なものはない
ホテルで最も重要な従業員は、ドアスタッフ。最初にゲストと接点を持つ存在だからです。ホテルのブランド力が死ぬか生きるかは、ホテルがそのゲストをどうお迎えするかにかかっています。新幹線は、以前まで行っていたグリーン席の車内検札をやめました。不正を働く人はわずかですし、快適さを求め高い金額を払っている乗客の邪魔をしないことの方がもっと大切だと判断したからです。
3. どんなにきっちりとしたブランド計画があろうとも、理念が最優先される
ある企業のエグゼクティブが、経営陣の朝食会のためテーブルを予約しようと、五つ星の有名ホテルに電話をかけました。だがそのホテルのレストランは予約制をとっていないため、ホテル側は丁重にお断りしました。基本的にホテルは、お客のどんな要求にも応えることができるはず。つまるところ、お金とタイミングの問題なのですから。ホテル側は代わりに、個室での朝食会を開くよう提案したり、せめて礼儀を重んじて、近所のレストランをコンシェルジュに予約させることもできたでしょう。大事なのは理念です。あなたやあなたの従業員は、自社の理念を明確に示すことができますか。
4. ブランド戦略に関するアドバイスをする一方で、広告枠の販売を同時にするような企業は避けること。この二つは本質的に利益相反するものだから
金融商品を売ろうとする金融アドバイザーは、利益相反する存在です。ブランド戦略も同様で、価値あるアドバイスに高いお金を払うのは悪い事ではありませんが、そのアドバイスに基づいた広告枠の購入は別途行うべきです。
5. 世界で最も強力なブランドは、業界の慣行や世間の常識にとらわれない。他の人間に口を差し挟ませないこと
アップルは小売スペースのデザインに関し、それまでの常識を全て破りました。専門家たちはうまくいくはずがないと言ったものの、フィフス・アベニューにあるアップルの店舗の1平方フィートあたりの売上高は、一帯のどの小売店よりも高くなっています。コストコジャパンは、住居が狭い日本で消費者がまとめ買いすることは絶対にない、という専門家の声を無視しました。今では週末ともなれば、店には買い物客があふれ、新規店舗の開店時には、会員になろうという人々の長蛇の列ができています。世界を代表するブランドは、皆とは反対のことを堂々と行い、大胆に振る舞い、既存の価値基準を打ち砕いているのです。あなたもそうすべきでしょう。
6. 強力なブランドは国境を越えられ、また越えていくもの。だが、成功するには綿密な戦略と努力が必要
アメリカのアウトドアスポーツ量販店「REI」は、かつて日本の市場に参入したものの、その名前に頼るだけだったため、すぐに撤退。それ以来、日本市場への再進出を果たしていません。一方でアディダスは日本の市場で1番のシェアを誇っていますが、その成功は単に海外で強いブランド力があったからではありません。アディダス ジャパンは「アディダス」という名前を日本で発展させ、普及させる上でとてつもない努力をしており、それはまず会社の中から始まったものでした。例えば日本に拠点を置く研究開発チームは、日本市場向けの製品を開発しており、これらの製品は世界中でも売られています。単に海外ブランドの名前をそのまま持ってきているわけではなく、他地域にあるアディダスと同様、グローバルブランドを形作っているのです。そして従業員はそのことを理解しているのです。
7. 市場で自分のブランドがどう見られているのかを知りたければ、この会社で働くことについてどう思っているのか、販売担当者に聞くこと
組織過程や企業文化は大事なものです。私は、従業員が幸せと感じていない会社に、良いサービスを見出したことは一度もありません。同じように、販売担当者が労働条件に不満を覚えていたり、製品が消費者のニーズに合致していないとか、カスタマーサポートが欠如していると思っていたり、販売行為が不適切、あるいは倫理上問題がある、または製品が消費者の最大の利益にかなっていないと感じているなら、これがブランドを損ないかねません。たとえどんなにしゃれたマーケティングや大規模PRキャンペーンを行っても、このリスクは残り続けるでしょう。一方、販売担当者が自分たちの売る製品を愛し、消費者の生活向上に何らかの形で役立っていると信じ、自らも製品を使ったり家族のために買い、販売活動とはまず消費者の利益の最大化から始まると信じているのなら、その思いは広がっていくものです。
8. コンテンツ制作を通じてのブランディングが、何らかの形で消費者の生活を向上させる。その他は全てノイズである
ドイツのカメラメーカー「ライカ」は、物語性のあるコンテンツをオンライン版と冊子版で制作しています。そこには素晴らしいフォトアートや、ライカの理念や作品に共鳴するアーティストやプロの写真家たちの記事も載っています。ランニングウェアメーカー「サロモン」は、世界中の魅力的な場所で走るトレイルランナーを取り上げた素晴らしいショートムービーのシリーズを、オンライン限定で提供しています。もし写真やランニングに興味がある人ならば、これらのブランドのファンであっても、まだそうでなくても、コンテンツに魅了されて、もっと見たいと再びサイトを訪れるでしょう。あなたのブランドのコンテンツはどれほど魅力的ですか? 世界に何か価値を提供していますか? それとも、他の売らんかな主義の会社と同様、商品を売り込もうと耳障りなノイズを吐き出し、注目を集めようとしているだけなのでしょうか。
9. 「布教活動」は恥ずべき行為。ファンではない人への寛容さが、敬意を集める
消費者を説き伏せてモノを買わせるのは恥ずべき行為。消費者に金を払ってそう仕向けるのは、さらにひどい振る舞いです。従業員にそういった行為をさせることは、本質的に不自然な行為。とにかく無批判に信じて熱意を見せろと言っているようなもので、思想を押し付けています。しかし人々には思想の自由があり、異なる意見を唱えることができるはず。最良のブランドとは、ブランドではなく顧客をヒーローにするものです。日本の高級メガネチェーン「パリミキ・メガネ」の会長、多根幹雄氏はこう語っています。パリミキが望むのはただ一つ、顧客の一人ひとりに正しく補正されたメガネをつけることの幸せを感じてもらうことだ、と。パリミキは、メガネ版ユニクロといった存在のJINSの顧客に、パリミキの方を向いてもらおうと思っているわけではありません。多根氏によれば、JINSもパリミキも素晴らしいビジネスをしていて、単にやり方が違うだけ。消費者であれ、従業員であれ、どちらを選ぶかは一人ひとりが自由に決めればいいこと、というわけです。手にとってもらえれば良さが伝わり、ブランドのファンになってもらえると、多根氏は自信を持っているのです。
10. あなたの選択次第で、あなたが最大のブランドアンバサダーになる
あなたがいなければ、ブランディングはすべて意味のないものになるのです。
スティーブン・ブライスタイン氏は、東京に拠点を置くビジネス戦略コンサルタント会社「レランサ」のCEO。