Surekha Ragavan
2021年2月04日

資生堂、コロナ禍のイノベーション

パンデミックの最中、リテールテクノロジーの活用などデジタル変革を急速に進めた資生堂。アジアを統括するデジタルマーケティングディレクターに、その戦略を聞いた。

(写真:Shutterstock)
(写真:Shutterstock)

昨年、世界で新型コロナウイルスの感染拡大が始まると、資生堂は総合的なオンライン戦略にいち早く着手。デジタル化プログラムを4年ほど前から準備してきたことが幸いし、その導入は数週間で実現した。だが世界が国境を閉ざし、外出制限を発令すると、新たな課題に直面した。

資生堂のビジネスの生命線はリテール(小売)だ。そして大きく依存するのは、デパートでの売上。その額が劇的に減少する中、アジア太平洋地域のデジタルマーケティングディレクター(日本・香港・中国を除く)、リロイ・チュア氏が目指したのはEコマースのより大胆な活用だった。

「ショップ・イン・ショップの立ち上げと展開はたやすいこと。しかし、運営面で克服すべき課題はまだ多いのです」と同氏。「この業界に限らずパンデミックで明確な課題となったのは、リテールを店頭からEコマースにシフトし、いかに売上を伸ばすかということ」

電通をグローバルメディアエージェンシーとして指定する資生堂は、OOH(屋外広告)や従来型メディアからデジタルメディアへの転換を大々的に敢行。メディア利用でのコストの効率化や、消費者の正確な特定を目指した。

リロイ・チュア氏


チュア氏個人にとって最大の課題は、早急な変革に従業員を適応させることだった。「インフラストラクチャーの構築は時間と技術的なスキルセット、そしてある程度の投資をすれば実現できる。しかし最も重要なのは、新しい環境に従業員を適応させることです」。

そのための様々な取り組みを牽引したのが、5年ほど前に社内に設立したデジタルチームだった。例えば、社内教育と開発プログラムの実践。CRM(顧客関係管理)やEコマース、SEO(検索エンジン最適化)といった鍵となる分野を、マーケティングチームが十分に理解できるよう努めた。

「消費者により近いポジションで仕事をするスタッフに必要な技術プログラムにも注力しました。こうしたアプローチは極めてトップダウン方式ですが、デジタルを熟知するリーダーの存在は変革推進に欠かせませんので」

化粧品やスキンケア製品の売上増に重要なのは「タッチ・アンド・フィール」、すなわち消費者が製品を手に取って感じることだ。それを補うため、チュア氏のチームは消費者が様々な製品を試せるようAR(拡張現実)を活用した。マーケティング的視点から、新製品アピールのためにインスタグラムで独自のフィルターも作成。また、店頭で働くビューティーコンサルタントやメークアップアーティストはオンラインを使って顧客と交流した。

「データを見れば、かなり多くの顧客がARを利用していることがわかる。それでもまだ初期段階で、顧客はまずこのテクノロジーに慣れようとしています。究極的にはもちろん今でも、実際に製品に触れてもらうことが大切ですが」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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今、同氏が注目するのは中国で行われるライブ配信を使ったリテール。「11月11日の『独身の日』や12月12日の『双12』といった大規模ショッピングイベントをはじめ、我々がソーシャルメディア上で行うメイクアップやスキンケアの個別指導でもライブ配信はとても重要な手段。特に最近では、総合的戦略の上で欠かせません。我が社に限らず、ビューティー業界全体の傾向でしょう」。

今の時代、ブランド所属のビューティーコンサルタントやメイクアップアーティストは「ブランドと消費者の間のギャップを埋める重要なアセットであり、リソース」。ソーシャルメディア上でより前面に立つようになったのがその要因だという。「短いコンテンツには自社のビューティーコンサルタントを、大きなイベントには名の通ったインフルエンサーを起用するのが今の傾向でしょう」。

2021年は一部の市場で業績回復が見込まれるが、「引き続き慎重な姿勢は崩さない」。「今年の大きな目標はEコマース市場での成長。そしてEコマースに限らず、売上を伸ばす様々なルートを確立することです」。

「コロナ禍以前は、デジタル変革は段階的に進めるものと考えられていました。しかしコロナ禍になり、スピーディーに実現する能力が試されている。これこそブランドにとって、2020年最大の学びでしょう」

リロイ・チュア氏は2021年度スパイクスアジア の「Tangrams Strategy and Effective Awards」で審査員を務める。

(文:サレハ・ラガヴァン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
PRWeek

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