Michael Penn
2016年7月15日

追い上げられる通信大手の対応

セクター・インサイト:日本の通信業界は巨額の広告費を投じてきた。しかし圧倒的な地位を占めてきた大手3社を脅かす影が忍び寄りつつある。

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広告市場と同様、日本の通信市場は長い間、大手3社により支配されてきた。電気通信事業者協会が先日発表したところによると、2015年度の携帯電話の契約者数は、NTTドコモがトップでシェア約45%(7090万件)、次いでKDDI約30%(4590万件)、ソフトバンク約25%(3960万件)となった。いずれも高収益企業であり、昨年の純利益は3社合計で150億米ドルを超えた。

しかし、これら通信大手の先行きは楽観できない。

モバイルIT産業コンサルティング会社「モビキョー」の創業者で代表取締役社長のローレンス・コッシュイシイ氏は、大手3社は広告費の正確な数字は開示していないが、多額の広告費を投入していることは明らかだと話す。「ドコモだけを見ても、公表された2012年の年間広告費は5000万米ドルを超えていた。同社の莫大な研究開発費の、およそ半分に相当する額だ。ここから類推するに、3社合計で1億米ドルを優に超えるだろう」

一方で、大手がシェア争いを展開する通信市場は、これ以上の成長が望めない。日本のスマートフォン市場は、既に一人当たり平均1.5台のデバイスを保有するに至っているためだ。

しかし、各社とも通信サービスの販売促進に余念がない。実際、日本ではテレビCMの約5%が通信大手3社によるものだ。

電通の情報通信業界コンサルタントである吉田健太郎氏は、これら通信大手による主要な広告キャンペーンは規模が莫大なだけでなく、クオリティーも他業界の広告に比べて非常に高いと評する。CM総合研究所によれば、ソフトバンクの白戸家「お父さん」シリーズは長期にわたって大好評だ。また、KDDIは日本の昔話の英雄たちを集めた「au三太郎」シリーズを展開しており、吉田氏はこれを「日本で最も人気のあるキャンペーン」と言う。

しかし、こうしたキャンペーンは消費者から高く評価される一方で「業績に貢献していない」と吉田氏は指摘する。通信各社は近年、オンラインでの冒険的なキャンペーンに注力しており、ドコモの動画「3秒クッキング」シリーズなど斬新な作品が絶賛されているが、事業にプラスの効果が出ているかは疑問だ。

今日の通信大手3社にとって重大な脅威は、新規参入事業者だ。吉田氏によると、スマートフォン利用者の10%程度がドコモ、KDDI、ソフトバンク以外を使っている。「この傾向は加速度的に広がっており、昨年は5%だったものが2倍になった。新規参入事業者は今、非常に勢いがある」

小規模ながら既に20社以上が市場に参入しており、イオンモバイル、ビッグローブ、ヤマダSIM、ユーモバイル、楽天モバイルなど知名度の高いブランドも含まれる。これら新規参入事業者の市場シェアは小さいが、低価格でサービスを提供している。特にワイモバイルは、1000以上の実店舗を持ち、猫の「ふてニャン」を登用した広告キャンペーンが人気を集めるなど、他社とは一線を画している。

「大手の通信インフラを仮想移動体通信事業者(MVNO)が再販する動きが、ここ数年で急速に広まり、その加入件数は1000万強に迫ると推定される。高い人気を誇るLINEも今夏からの参入を発表したばかりだ」とコッシュイシイ氏は指摘する。「SIMフリーのデバイス、データ通信1GBあたりの単価、サービスの違いなど、通信サービスを選ぶときの材料にはまだ多少の流動性がある。これに加えて、選択肢の広がりに対する消費者の認識は確実に深まっている。通信業界の今後の展開は興味深い」

新規参入事業者の猛追にも関わらず、通信大手3社の収益性は高く、事業への影響があったとしても当面は小規模に留まるだろう。一方で、今後を見越した軌道修正の必要性を感じている大手各社は、長期利用者を優遇するためにロイヤリティープランやポイントカードなど、あらゆる特典を用意している。

実はこのますます複雑化するプランや特典が、別の問題を作り出していると吉田氏は指摘する。あまりに多くの選択肢を並べられた結果、日本の消費者はただ圧倒されているのだ。「業界が今まさに直面している最大の課題は、消費者が実際にサービスを利用できるように分かりやすく説明することだ」

(文:マイケル・ペン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

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