マレーシアのスタートアップ企業「ロデオ」は、自動車の前方座席のヘッドレストにタブレットを取り付け、後部座席の乗客に広告を視聴してもらうサービスを開始。マレーシアでは初めての試みで、同社は配車サービスの運転手に導入を呼び掛けている。
ロデオCEOのヴァレンズ・サブラマニアン氏はCampaign Asia-Pacificのインタビューで、タクシー利用の衰退を目の当たりにする中、タクシーより配車サービスの運転手を取り込むのが得策と判断したと言う。
「広告のリーチの観点で、配車サービスの潜在力は非常に大きいと考えています。利用者はビジネスマンや都会の若者が中心ですから」とヴァレンズ氏。「また、タクシー運転手の職に見切りをつけて、配車サービスの運転手に転ずる潮流もあり、これからは配車サービスの時代です。タクシー広告は今後ますます廃れていくでしょう」
香港や中国の都市部でタクシーに広告ディスプレーを提供していた「タッチメディア」は、昨年10月に中国での事業を廃止している。
ヴァレンズ氏によれば、第一段階として今月末までに、クアラルンプールの都市圏で配車サービス車両100台で車内広告を始める予定。引き続き同社の広告ディスプレーを導入してくれる運転手の確保に努めているという。なお、マレーシアで最も人気が高い配車アプリは「ウーバー」と「グラブカー」で、全国に約6万人の運転手がいる。ロデオ社では、同社の広告ディスプレー搭載車両を毎四半期ごとに500台ずつ増やすという目標を掲げている。
ロデオ社の事業モデルはGoogleアドワーズを踏襲しており、同社プラットフォーム上では広告主と消費者をリアルタイムに結びつけることができる。システムには屋内測位システムiBeacon(アイビーコン)や、地図上の仮想的な範囲へのユーザーのチェックインやチェックアウトを判定する「ジオフェンシング」の技術が盛り込まれており、広告主は車両に搭載されたスクリーンを通して、乗客にプッシュメッセージを発信することができる。ロデオ社は第2四半期には顔面認識の機能も追加し、乗客の性別に応じたターゲット広告の配信を実現する計画だ。
「屋外のデジタルメディアに対する需要はまだありますが、インプレッション数がそのまま費用対効果として現れるわけではありません」とヴァレンズ氏。「プログラマティックが話題になっており、広告主は広告閲覧から購入へのコンバージョンと、消費者とより深くつながることを求めています」
ロデオ社の新サービスでは、「レノボ」がタブレットを、ライフスタイル特化型のテレビ局「ライフ・インスパイアード」がコンテンツを提供している。ディスプレー上には同テレビ局の番組が6割、広告が4割、10分間サイクルで表示される。乗客自身のスマートフォンと車両搭載のタブレットが競合することは避けられず、配信コンテンツが乗客の興味を引けるかどうかが鍵となる。「乗客はタブレットの音量をミュートにすることができますが、10秒経過するとミュートから50%の音量まで戻る仕組みになっています。そうすることで、常にバックグラウンドとして番組と広告を流し続けることができます」(ヴァレンズ氏)
ロデオ社の提携先には、シェル(石油等エネルギー)、BPカストロール(エンジンオイル)、有料道路の料金収受システムの「タッチアンドゴー」などが名を連ねる。ロデオ社の広告タブレットを搭載する運転手には、毎月100リンギットの手当が支給される。稼働時間が月150時間を超える運転手にはさらに、ガソリン券のインセンティブが与えられる。
(文:スン・チェン・カン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)