前例のない急速なデジタル変革が進んだ2020年。その中にあって、電通は「人間性」と「テクノロジー」の画期的なコラボレーションを実現、クリエイティブ界に大きな刺激を与えた。今後も斬新なアイデアの創出を目指し、同社は研究・開発に余念がない。
スパイクスアジア × Campaignのビデオセッションで、マーリー・ハイミー氏は2021年のクリエイティブの指針となる「ブレイブ・ニューノーマル」について語った。以下、その趣旨をまとめた。
1. バーチャルエクスペリエンス・エコノミー
バーチャルイベントは単に生き残りを賭けた解決策ではなく、データやエクスペリエンスデザインの活用によってライブアクティベーションを拡大した。より多くのインタラクションが生まれることで、イベントやスポーツ、ゲーム、コンサートは再定義されつつある。プラットフォームでは、ディスカッション用に進化したツイッチ(Twitch)がその好例だ。また、タッチパネルの操作やバーチャルな参加で声援を送れるスポーツのリーグもある。
電通の実績としてハイミー氏が挙げるのは、中国のベリースター・リンクト・バイ・アイソバー(VeryStar - Linked by Isobar)が生んだバーチャルのCGIアイドル。若年層との交流を深め、ブランドをよく理解してもらう取り組みだ。ファッションブランドではグッチがバーチャルコマースを導入、顧客のアバターを基に注文服やカスタムスニーカーを展開する。
2. 「リアルさ」の探求
バーチャルをはじめとするテクノロジーが導入される一方、シンプルさや人間性への欲求が高まり、世の中は二極化が進む。農業従事者やアクティビスト、現場で働くエッセンシャルワーカーなどが現代の新しいスターやヒーローとして喝采を浴びる事実は、後者の象徴に他ならない。
ブランドはより地域性の強い製品や、クラウドソーシングによるアイデアを生かした製品でコミュニティーへの関与を深めている。一例が、リーボックが販売するシューズ。デザイン決定にクラウドソーシングを利用し、限られたミニマムな顧客層への訴求を図っている。
3. 「コンタクトレス」のサービス
3つ目は、コロナ禍とより関連が深い要素だ。ウイルスの伝染を防ぐために大きく進歩したのは、人との接触を避けるテクノロジー。しかしインタラクションが減ってしまうEコマースでは、パーソナル化と「人間味」の維持が課題となった。それを補うのがライブストリーミングであり、パーソナル化を実現するサービスツールだ。
フィットネス業界では、アパレルのルルレモン(Lululemon)がホームエクササイズのスタートアップ企業ミラーを買収した。ミラーはエクササイズをしているユーザーの姿勢をモニタリングし、正しい姿勢をアドバイスするサービスを提供。この手のツールの代表例だ。
4. AIとの関わり
こうした個人の健康データのモニタリングは、プライバシーと公益性との境界線をどこに引くかという課題を生む。この議論は今も活発で、今後も長く続くと予想される。それでも、散漫なドライバーに車が警告を発したり、個人の消費行動から銀行口座が二酸化炭素排出量を告知したりというテクノロジー活用の流れは止まりそうにない。
精神面での健康管理は、最もプレミアムなサービスになった。精神健康診断をするバーチャルアシスタントや精神状態をトラッキングするテクノロジー、リラクゼーションアプリなどの人気は急上昇している。
電通が開発した「ツナスコープ(Tuna Scope)」は、魚の鮮度を遠隔から審査。食の安全にテクノロジーがどのように貢献できるかを示す一例だ。最終的にはどのブランドも健康志向となり、データの所有権者となっていくとハイミー氏は読む。
5. 迅速な「アライシップ」
ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動をはじめとするムーブメントは、社会的不平等の是正に光を当てた。その大きなうねりはブランドをも巻き込み、社会貢献活動にいち早く取り組もうという機運を生み出した。「ハッシュタグ・アクティヴィズム」に象徴される純粋なアライシップ(社会的に虐げられている集団への支援・理解)を、言葉ではなく行動で示す必要があるのだ。
その例が、子ども向け製品のブランドであるクレヨラ(Crayola)の試み。クレヨンのパッケージにあらゆる人種の肌の色をあしらい、多様性を表現した。また、中古製品の活用もその一環。リーバイスは中古デニムの販売を強化し、H&Mは数時間で古着を新品の服に変えてしまうリサイクル施設「ループ(Looop)」を生み出した。
(文:ロバート・サワツキー 翻訳・編集:水野龍哉)