多くの優れたアイデアが他にもあるのは間違いないだろうが、特にCampaignの目を引いたコンセプトを以下に挙げる。壮大なスケールの作品から小粒なものまでさまざまだが、共通しているのは、そのブランドが一体何者であるか、長期的な価値観がよく示されているということだ。
人々のコミュニケーションのあり方を広告会社主導で変えていくことなど、誰が想像しただろうか。電通の吉開章氏が旗振り役となったこのプロジェクトは、日本語学習者である外国人が日本を訪れた際、地元の人と日本語で交流することを通じて、より満足度の高い体験をしてもらおうというものだ。このアイデアには賛否両論があり、必ずしもうまくいくかどうかは分からない。しかし、外国人の視点に立った発想は、長期的に「日本」というブランドに大きな恩恵をもたらす可能性を秘めている。
三菱重工は日本有数の巨大企業だが、海外でのブランド確立が喫緊の課題となっている。「ブランドジャーナリズム」は特に目新しいものではないが、社外のジャーナリストたちがコンテンツを制作するブランド・メディア・プラットフォーム「SPECTRA」の立ち上げは、保守的な同社にとっては、海外市場に手を伸ばし、グローバルな舞台で活躍するための大きな一歩を意味する。同社だけでなく重工業界全体に関わるトピックを扱っている点は、サイトにブランドのグローバル化という目的を持たせながらも、ウェブ上に溢れるブランドコンテンツとは一線を画しており、特筆に値する。
Airbnbは8月、建築、サービスデザインから新しい経済モデルに至るまで、多様な領域で活動するデザインスタジオ「Samara」を立ち上げた。Samaraが初めて手掛けたプロジェクトは、日本の「吉野杉の家」。奈良県吉野町にあるコミュニティーハウスで、宿泊の予約もできる。建物はAirbnbが所有しており、地元経済の活性化に貢献し、吉野町と世界をつなぐ役割を担うことを目指している。まだシェアリングエコノミーが普及し始めたばかりの日本で、Airbnbのブランドとビジョンが物理的な形を伴って体現されたことは、大きな意味を持つ。
トヨタは5月、ライドシェアリングのUberへの投資を決定した。これはビジネス面はもちろん、ブランドの観点でも重要な一手だった。一見するとトヨタとは明らかに毛色の違う、従来の延長線上にはない「破壊的」なブランドとの協業は、トヨタが人々の考える以上に進歩的な企業であることを示した。Uberの成長は今後も必然的であり、移動手段の新時代の顔であるグローバルブランドと強固に手を結ぶことは、トヨタにとっても悪い話ではないだろう。
日本に「まずはお詫び」の文化があることはよく知られているが、これは格別だった。赤城乳業は3月、過去25年間で初めての値上げに踏み切った。国民的ブランドとも呼べるアイスキャンディー「ガリガリ君」が60円から70円になったのだ。たったそれだけ、と思うだろう。しかし同社の経営陣はこれを重く受け止め、60秒のテレビCMで深々と頭を下げている。これが同社の謙虚な姿勢と、価値提供への強い思いを際立たせ、状況は完全に好転した。このような意外性のあるアイデアを思いつき、さらには実行してしまうブランドが、赤城乳業をおいて他にあるだろうか。
単なる話題作りに過ぎないと片付けるのは簡単だが、実際にトナカイにピザを配達させるトレーニングを行い、失敗し、計画が頓挫したことを発表したのは、実に素晴らしいアイデアだった。具体的には、1)ピザという通常なら注目されないような商品が多くの人々の間で話題になり、2)競合他社との差別化が果たされ、今後も奇抜なアイデアや実験的な取り組みを行う素地を作った点が良い。単発で終わらせず、ここで得られた効果を生かせるかどうかは、ドミノ・ピザ次第だ。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)