楽観主義が戻り、回復と再興が始まった。パンデミックによる困難はまだ続くものの、2021年は、東南アジアにおいて独自の消費者パターンを形成し、デジタルの導入と需要を高める諸要素が集約することによって、ブランドにとって大きなチャンスに満ちた年となる。だがこの「ニューノーマル」は、マーケターや企業に対し、柔軟性とイノベーションをさらに高め、2021年の軌跡を描く変化とトレンドに適応するよう迫ることになる。
アドテクの台頭
劇的な移行がすでに始まり、アドテクの状況はかつてないほど活発化している。こうした再興の背景にあるのは、消費パターンが進化するなか、広告主とパブリッシャーに消費者と結びついて事業を拡大するための新しく良好な機会をもたらしたイノベーションだ。
東南アジア経済の再開に伴い、看板、車内広告、Wi-Fiキオスク、手指消毒ステーションといった屋外広告媒体のデジタル化が継続し、デジタルとオムニチャネルでの購入機会が増えるだろう。もちろん、eコマースも忘れてはならない。各国にロックダウンが広がるなかeコマースが大躍進したことで、あらゆるチャネルで手軽さや効果、効率を高める必要があることが明白になった。
エンゲージメント率の高いデジタルオーディエンスに支えられ、オムニチャネルの領域は目覚ましい発展を遂げるだろう。広告主やマーケターは、ネイティブフォーマット、ダイナミック広告、AR(拡張現実)、音声などとオムニチャネルの統合を一層進化させると同時に、消費者向けの取り組みをレベルアップする必要がある。アドテクのプラットフォームにより、あらゆる種類のインベントリへのシームレスなプランニングや購入、管理を並行して行うことが容易になるため、バイヤーは他のメディアとともにプログラマティックにインベントリにアクセスできるようになる。
ユーザープライバシーに関する新たな戦略
ユーザープライバシーの重視がさらに高まるとともに、各国でデータとブラウザのセキュリティに関する法的懸念も増すなか、ブランド各社はポストCookieの世界でオーディエンスを効果的かつ意味のある形でエンゲージする方法を模索している。
こうした状況に対して、マーケターとパブリッシャーは、プライバシーを尊重しつつ消費者にポジティブな体験を提供するために、アイデンティティ(ID)識別技術の不在を克服する方法を見つける必要がある。2021年にCookieの後を継ぐものは何だろうか。意外に思うかもしれないが、昔から存在するメールが、ID識別におけるCookieの役割を引き継ぐ可能性がある。
結局のところ、この問題の鍵を握っているのはファーストパーティデータだ。ユーザーの同意を得て複数のチャネルからファーストパーティデータを取得し、IDグラフを作成したプレイヤーは、新たに置き換わるID、ターゲティング、測定のソリューションをマーケターに提供するうえで優位に立つだろう。また、ユーザーのプライバシーを保護し、Cookie以外の手段でIDを識別するために、業界全体でのパートナーシップ連携が進展する可能性が高い。2021年には、新たなIDソリューションのテストと検証が進むだろう。
eコマース体験の強化
2020年の年末商戦における売上記録の更新は、パンデミックの最中にも関わらず東南アジアでのeコマースが急成長したことを示すものだ。オンラインカートに次々と商品を追加する人々の勢いを止めることはできない。調査会社のスタティスタ(Statista)によると、東南アジアのeコマース市場は2021年に670億ドル規模に達すると予測されている。ユーザーベースは約3億3000万人だが、これでも地域の全人口の半分に過ぎない。さらにパンデミックは、市場店舗や家族経営の店舗など昔ながらの実店舗にも、オンラインでの新たな機会をもたらし、これがeコマース体験の多様化につながっている。
ただし、この機会を活かすには、eコマースの体験を強化し、フリクションレスで没入感の高いものにする必要がある。ショッピングコンテンツの見せ方が変化するなかで、eコマース体験がさらに多様なフォーマットで提供され、より地域に適合したものになることが期待される。今後は、ARに対応したコマースやよりリッチなインタラクティブ動画が開発され、注目を集めていくだろう。そうした例としては、インタラクティブなショッピング番組を、テレビやストリーミングで友人と一緒に見ながら、リアルタイムで買い物ができるといったことが考えられる。また、顧客を煩わせることなく、常にベストプライスを保証し、快適な購入体験を提供できるようにリアルタイムにカスタマイズを行うオンラインストアの登場も期待される。クラウドからCDNエッジコンピューティングへの移行によって、そうしたイノベーションが実現し、特に動画の分野で顧客体験を大きく変えることになるだろう。
5Gと没入感の高い次世代体験の台頭
2021年は、シンガポールだけでなく、フィリピン、ベトナム、ラオス、カンボジアといった東南アジア諸国でも5Gが本格的に普及する年となる。
5G通信網と5G対応デバイスの登場により、没入感の高い、魅力的でパーソナライズされた体験のための舞台が整った。ARのような没入型技術の人気が高まるにつれて、教育、ヘルスケア、エンターテインメント、コマースなどあらゆる分野で抜本的な変革が起きると予想される。しかも、これらは氷山の一角にすぎない。
激変がどのようなものになるのかを知りたいなら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が引き起こした変化がリハーサルだったと考えるといい。コンサートや小売といった対面での体験が失われ、オンラインショッピング、AR、VR(仮想現実)などが、現実とデジタルの隔たりを埋めるために利用されるようになった。2021年は没入型体験の年となり、スポーツや音楽などのライブイベントが新しいリッチなXR(VR/AR/複合現実[MR])などの総称)体験を伴うものになり、自宅にいる視聴者と会場にいる観客の両方に提供されるだろう。
一方、小売の分野では、フリクションレスなショッピング体験を強化するためにARの利用が増え、消費者がオンラインや店頭で購入する前にバーチャルな環境で商品を試せるようになる。店舗内体験も、5Gと没入型技術を使って強化できる。「スマートインタラクティブ」ミラーを考えてみるといい。衣類などのバーチャルなアイテムをスワイプ操作で瞬時に「着替える」ことができ、さらにインタラクティブな背景オプションにより、バリのビーチやシンガポールのオーチャードロードでの見映えを確かめられる。
5Gの普及により、コンテンツ体験の処理をクラウドに移す動きも促され、マーケターは実店舗とオンラインの両方でパーソナライズとエンゲージメントを強化した体験を提供することが可能になる。ポップアップストアも、決済処理だけでなく、動画体験や店舗体験を含むあらゆる消費者体験を容易に提供できるようになるだろう。リアルタイムのレンダリングと処理により、データに基づくインサイトを、状況に合った適切なレコメンデーションやアラート、サービスとして瞬時に提示できるようになるため、ショッピング体験を向上させながら貴重なアップセル機会も得ることができる。つまり、個々の買い物客にカスタマイズされた、バーチャルなショッピングアシスタントが実現するのだ。
2020年は、企業が消費者の嗜好と状況の変化にすばやく対応し、変化に適応することの重要性が鮮明になった1年だった。今年は、時代を先取りしたいブランドにとっては、未来を形成する技術への関与をより強め、刻々と変化する状況に適応するよう迫られる1年になるだろう。
リコ・チャン氏はベライゾン・メディアでアジア太平洋地域の共同責任者を務めている。