食品・飲料業界の未来を予見することは難しい。だが、現代ではテクノロジーの力を使ってデータを追跡・収集し、その予兆を感じ取ることができる。
AI(人工知能)による分析のおかげで、我々は消費者の嗜好を掘り下げ、数々のリスクやビジネス機会を予測し、次の人気商品を割り出すことが可能になった。
データを吟味し、新しいフレイバーを開発する。インサイトを活用し、市場のニーズを読む。消費者に向けたキャンペーンが、適切か否か判断する。そして、今後のトレンドと消費者心理をいち早くつかむ。
こうした手法をベースに、今年の食品・飲料業界の流れを予測するとどうなるのか。鍵となる3つのポイントをご紹介したい。
家庭は「安息の地」
今は激動の時代だ。予期せぬ出来事が「日常」となり、世界が脆弱になりつつあることを誰もが肌で感じている。
欧州では生活費の高騰が家庭を直撃し、消費者は家計に細心の注意を払うようになった。コロナ禍の第1波が襲った際にはメンタルヘルスの問題が大きく取り上げられ、多くの人々が外出を控え、様々な不安から自分たちを守る選択をした。
結果としてこの傾向はさらに強まり、人々が自宅で過ごす時間はブランドにとって「ビジネス機会」になりつつある。将来的に成功する消費者ブランドは、家庭の中で常に存在感を発揮していかねばならない。
消費者は身近でお金のかからない、ささやかな喜びを求めるようになってきている。それはストレスから解放される手段でもある。これまでにない新しい経験、あるいは生活していく上で欠かせない人々との付き合いはストレスにつながるからだ。
消費者がブランドに求めるのは、まさにこのささやかな喜びだろう。夜の外出という選択肢が減っても、ブランドの広告やキャンペーン、製品は彼らと時間を共有していかねばならない。消費者との関係性を維持し、「娯楽性」を提供せねばならないのだ。
消費者心理をつかみ、愛されるブランドになるためにはこの点を忘れてはならない。
「目的」の明確化
コンサルティング会社デロイトの最新調査では、英国の消費者の64%が「使い捨てプラスティック製品を使わないようにしている」と答えた。この傾向は一昨年の調査よりもさらに強まっている。
また34%の回答者は、「倫理的、あるいは環境保護的視点から問題があると感じるブランドの製品の購入をやめた」と答えた。
この結果は明らかに、消費者が社会的責任を果たすブランドを選ぶようになったことを物語る。消費財業界は倫理・責任感を持ち、社会にポジティブな影響を与えていかねば、もはや信頼を獲得できないのだ。
消費者の価値観は驚くほど速いペースで変わりつつあり、ブランドは真摯なメッセージを送ることを怠ってはならない。
ペプシコでは政府やサプライヤー(供給元)、小売業者と協働し、インフラストラクチャーとリサイクルの改善に努めている。すでに欧州の11市場で、容器をリサイクルによって製造したPETボトル(キャップとラベルを除く)へと変更した。
さらに欧州の農業従事者とも協働、困難に直面するウクライナの農業のサステナブル化をサポートしている。
社会的責任の遂行は企業の成長を促す力となる。消費財業界では数々のグローバルパートナーシップやプログラムが具体化しつつあり、さらなる取り組みを期待したい。
消費者が求める「価値」
弊社の製品で最も大切な要素は、言うまでもなく「味」だ。親しみやすさ、爽やかなフレーバー、泡立ち、噛みごたえ……最高の品質を提供してこそ、より多くの顧客は獲得できる。
だが、今後は味の良さだけではビジネスは成立しない。ブランドはあらゆる点で、可能な限り向上していかねばならない。
現代の消費者は代価以上のものを求める。それはインストアにおける独自のエクスペリエンスであったり、話題となる限定版のマストアイテムであったり、他では見つけられないメリットであったりする。
1つの主要なトレンドとなり、今も広がりつつあるのが消費者の健康志向だ。
弊社はサステナビリティに関する取り組みの一環として、製品の改善に注力する。脂肪や塩分、糖分を減らし、環境に負荷をかけず、しかし味には妥協しない −− こうした製品開発は欠かすことができない。
将来的には消費者の感性と味覚、そして購買習慣をつなぎ合わせることが極めて重要と考える。
不安定な時代に将来を予見し、人々に快適さを提供できるのが優れたブランドだ。パンデミックの3年間を経験し、我々ブランドはさらにこの能力を伸ばせると確信している。
(文:イアン・エリントン 翻訳・編集:水野龍哉)
イアン・エリントン氏はペプシコ・ヨーロッパのCMOを務める。