ディズニーは10月16日に100周年を迎えた。
それは魔法のような1世紀だった。マーケティングのプロたちにとっても、ブランディングの機会を与えてくれた素晴らしい100年だった。
アニメーションスタジオからすべてのエコシステムのタッチポイントへ。テレビ、映画から、テーマパーク、小売スペース、関連グッズまで、ディズニーは知的財産権(IP)を最大限に活用するためのスタンダードを築いた。
しかし、ディズニーが次の世紀に入るころには、最もブランドを代表する、ひとつのオリジナルキャラクターのコントロール権を手放すことになる。
そう、初めてミッキーマウスは誰の所有物でもなくなる。みんなが大好きなネズミが誕生した、1928年公開の映画『蒸気船ウィリー』は、来年で著作権法の保護を失い、クリエイターなら誰でもその画像を使用できるようになる。
もちろんそれには、現在の私たちが知っている、大好きな進化版ミッキーは含まれない。もっとも、その著作権も2020年代末までには切れる予定だ。
それでは、知的財産権の縛りが無くなるとき、ディズニーブランドとそのキャラクターにはどのような未来が待っているのだろうか?
うまく活用できれば、これは、ディズニーの100周年を祝う成功の材料になるかもしれない。『蒸気船ウィリー』を若い世代のクリエイターに開放して、キャラクターと遊んでもらい、新しい物語を創ってもらうことほど、素敵な『魔法』の展開はないだろう。
これは、次世代のストーリーテラーにバトンタッチをする素晴らしい瞬間であり、ディズニーが文化的な面で、さらにリーチや関連性を高める良い機会にもなるだろう。
『蒸気船ウィリー』は、ポジティブに捉え直す必要がある。なぜなら、蒸気船時代のミッキーは、今時のような模範的な市民ではなかったからだ。1928年のミッキーバージョンは、人種差別的で、女性差別的で、倒錯的でもあり、ディズニーの過去の暗黒面と深く結びついている。
このキャラクターが著作権の縛りから解放されたなら、人々は彼の言動を再考し、それを再生の機会として活用することが可能になる。これは、全ての人々に魔法を届けることを誇りにするこのブランドにとって、完全に理にかなったことだ。
しかし、ブランドを象徴する特徴的な資産のコントロールを手放すことには、多少のリスクも伴う。昨年、くまのプーさんの著作権が切れた時には、その魅力的で健全な本や映画のリストに、新バージョンの『プー あくまのくまさん』が加わった。
新しいバージョンでは、「7エーカーの森」の人物たちが一緒に楽しい冒険の旅に出るのではなく、プーさんとピグレットは、血なまぐさい暴力の世界に乗り出すことになる。それは、くまのプーさんの作家A・A・ミルン(アラン・アレクサンダー・ミルン)の思い描いた世界からは、遥かにかけ離れた物語だ。
ディズニーのようなブランドにとって、こうしたリスクは、ブランドをあらゆるトラブルに巻き込み、人々を傷つけたり、怒らせたりする立場に追い込む危険性がある。
(ブランドの危機に際し)すぐに訴訟を起こす企業だと知られ、託児施設や悲しむ親に対してまで脅しをかけるディズニーでも、この種のリスクには少し躊躇うかもしれない。
しかし、ディズニーにはいくつかの利点がある。一つは、『蒸気船ウィリー』は、もう何年もの間ユーチューブで無料提供されており、すでに再販の価値がなくなっていること。もう一つは、『蒸気船ウィリー』のミッキーを使用した図柄は商標登録されていないため、明確なディズニーではないということだ。
また、ディズニーがコントロールしながら、このやや怖いイメージのミッキーマウスの再デザインを人々に委託するという方法もある。ディズニーは、人々が自分たちの表現のために使用できるリミックスキットを作成することができるし、そうすべきなのだ。
例えばナイキは、スウーシュ(Swoosh)というWeb3のプラットフォームを作成し、ナイキ製品を作成したり、収集したり、トレードしたりする機会をユーザーに提供している。また、ユーザーがデザインしたモデルが製造工程に入ると、その製品のロイヤリティ(印税)としてユーザーに報酬が支払われる。
これによって、ナイキは顧客に、コンセプト設定から製造までの過程を体験してもらうことができ、顧客のロイヤルティをさらに高め、支持を獲得することができた。
コカ・コーラも似たようなアプローチを取っている。ロイヤル顧客に、ピカデリーサーカスに掲示する広告のクリエイティブを制作するよう促したのだ。
最後にひとつ、ブランドに関する重要なポイントを挙げよう。誰かがブランドキャラクターとそっくりなものを作成したとしても、それが大騒ぎになれば、それはむしろ、キャラクターとブランドの結びつきを強くするということだ。それは、オリジナルのキャラクターはそこから生まれたのだ、そこにしかないのだと、常に人々に思い出させてくれる。
結局、本物のミッキーマウスはたった一人しかいないのだ。