海外の人々が日本と聞いて思い浮かべるのは寿司、天ぷら、それに富士山だろうか?
天ぷらの語源はポルトガル語だと言われている。今全世界で流行中の日本のラーメンにしても、そもそもは中国由来であることは疑いがなく、カレーライスはインドの独立運動家スバス・チャンドラ・ボースが日本に伝えた。
日本は天性のキュレーターであり、編集者であり、現代的意味でのクリエイターであり続けた。つまり、外の文化を取り入れて、自分のものにして、進化させてアウトプットするのがうまい。自動車産業の歴史を見ても明らかであり、J-Popをヘビーメタルと組み合わせて昇華させたBabymetalの成功は、その最新の成果といえるだろう。
文化や技術をうまく取り入れてきた一方で、人材やその多様性はどうか。「島国根性」という言葉に代表されるように、日本の多様性は低い。OECDの2013年のデータによれば、人口に占める外国人の割合はわずか1.6%であり、性別・性的嗜好・宗教・民族性・障がいが、雇用・昇進の妨げとなるケースもある。我々のアライアンスパートナーであるケッチャム社による10カ国を対象にした調査「Leadership Communication Monitorによれば、日本では「性的嗜好」「性別」が大きな障壁となってリーダーシップ機会が公平に与えられていないと感じる人が多く、その割合は10カ国で最も高い(下図参照)。
なぜダイバーシティー(多様性)が重要なのか。シルビア・アン・ヒューレット氏、メリンダ・マーシャル氏、ローラ・シャービン氏は、『ハーバード・ビジネス・レビュー』2013年12月号でInherent(性別・民族性・性的嗜好など生まれつきの多様性)とAcquired(国際経験、職業経験等から得られる後天的な多様性)の2種類のダイバーシティーを「2-Dダイバーシティー」と名付け、「2-Dダイバーシティーを持つ会社は、そうでない会社に比べて、市場シェアを上げる可能性が45%高い」「2-Dダイバーシティーを持つ会社は、新たな市場を獲得する可能性が70%高い」「2-Dダイバーシティーが、既存の枠にとらわれないアイデアを受け入れる環境を生み出し、イノベーションへの扉を開く」と発表した。
私は、2-Dダイバーシティーこそが日本の社会課題の解決につながると考える。少子高齢化とそれに伴う労働力不足には直接のソリューションとなり得るし、さらに、内圧・内的努力で解決できなかった社会課題に新たなイノベーションを提供できる可能性が高まるからだ。かつて東京大学元総長の小宮山宏氏は、「日本は課題先進国である」と語った。世界一の高齢化率に代表されるように、日本には世界がいまだ体験したことがない課題にあふれている。だからこそ、世界に先駆けて環境問題、少子化、高齢化、地域の過疎化、エネルギー供給問題といった課題を解決し、そのソリューションを海外に輸出することができる、という主張だ。しかし、2007年の同氏の『「課題先進国」日本』出版から9年、日本は何をリードできたのか。2016年5月の日本経済新聞のコラムでは「日本は課題先進国としての世界史的な役割を全く果たしていない」と述べられている。日本整形外科学会によれば、世界一の高齢化率に伴い、寝たきり・要介護の予備軍は4,700万人に上る。また、自殺者数は漸減しているとはいえ、24,000人を超える。これは、飲酒運転厳罰化で激減した交通事故死者数の5倍以上の数字だ。
従業員や管理職に占める女性の割合や、外国人従業員の雇用、英語の活用推進といった表面的な多様性、特に安易な数値目標にとどまってはいけない。InherentとAcquiredの2-Dダイバーシティーに代表されるように、国内外、社内外、他業種、スタートアップなど、あらゆるリソースをプロアクティブに見出し、がっぷり四つに組んで、議論を戦わせ、困難を乗り越えながら問題解決に立ち向かうのが真のダイバーシティーの活用だ。
社会課題を解決するイノベーションを生み出すためには2-Dダイバーシティーのマネジメント能力が不可欠だが、これこそが日本人に最も困難なところだ。私はミシガン大学MBAの企業コンサルティングプロジェクトや、カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバルでWinnerを獲得したMasters of Creativity Program、そしてHakuhodo Internationalでのいくつものプロジェクトで2-Dダイバーシティーのチームを体験してきたが、最低でも下記のステップを踏む必要がある。
1. ゴールおよびメンバーが尊重するルールを設定し、共有すること
2. 各自の2-Dダイバーシティーを理解するためのチームビルディングに時間をかけること
3. 2-Dダイバーシティーから生まれるすべてのアイデアに共感と理解を示すこと
4. 各自に役割を与え、全員発言、全員発表を促すこと
日本PR協会の調査によれば、幸いにしてPR会社の従業員の約55%が女性であり、他の業界よりもその割合は高い。広告業界でも女性の視点はますます重要になっており、海外プロジェクトも増え、イノベーションを生み出すスタートアップと協働する機会も拡大している。こうした点において、我々コミュニケーション業界がダイバーシティーの重要性を提唱し、社会課題解決のためのイノベーションをリードする旗手になる可能性は十分にある。
この文章を読んだ2-Dダイバーシティーあふれる国内外の皆さんとともに社会課題に取り組みたい。そして、2020年、東京五輪を迎えるときに、日本が社会課題解決先進国になっていることを期待している。
室 健
博報堂
グローバルビジネス統括局 マネジメントプラニングディレクター
(編集:田崎亮子)