「CMOは人と数字の両方を理解する立場にあり、かつては企業トップの最有力候補と考えられていました。それがどうなってしまったのでしょうか」。7月末にロンドンで開催された「デジタルジャーニーズ」で、IBMのテクニカルエバンジェリストであるジェレミー・ウェイト氏はこのように問いかけた。
ウェイト氏は米ハーバード・ビジネス・レビュー誌の最新号に掲載された「CMOにまつわる問題(The trouble with CMOs)」について触れた。このレポートは、28000人を対象にインタビューを実施した結果、CMOの48%の任期が2年以下であったことを伝えている。
「デジタルトランスフォーメーション(デジタルへの変革)が成熟するには3年以上を要するので、それ以前に辞めてしまうCMOはプロジェクトの完成を見届けていないのです」
ウェイト氏は同誌に掲載された別のデータも取り上げている。英フォーネイズ・マーケティング・グループの調査によると、CEOの80%はCMOを信用していないか評価していない。一方、CFOやCIOに対して同様な考えを持つCEOは、わずか10%だというのだ。
「役員の中で、CMOが最も信用されていないのです。コカ・コーラでさえもCMOは機能していないと考え、その職を廃止したのです」(ウェイト氏)
問題は、CMOの役割があまりにも膨大かつ曖昧で、多岐にわたりすぎていることにあるとウェイト氏は指摘する。
CMOが今後このような状況を打開するには、人工知能(AI)を活用する他に道がないとウェイト氏は主張する。個人情報はますます公開されなくなり、音声サービスの普及に伴いユーザーは画面を見ることなく情報を得ているためだ。
「マーケターにデータを提供しようという人が50%しかいない状況下では、カスタマージャーニー(認知から購入に至るまでのプロセス)がメールから始まるとは言い切れません。それよりも前から始まっており、あるのは匿名のデータのみ。できることは人間の行動の仮説を立てることであり、十分な仮説があれば、より正確な予測ができます。IBMのAI、ワトソンはその点で際立っているのです」
例えば、ワトソンは既にメールによるキャンペーンを分析する能力を持ち、どこに問題があったのかを特定することができるという。
「分析結果をある大手のエージェンシーに見てもらったところ、ワトソンが15分でできたことを、彼らがやれば3日はかかったであろうと言うのです」
「CMOの役割の復活は、データをうまく取得し、それを分かりやすい形で表現できる人たちの力があってこそ。ワトソンは、それを可能にするのです」。ウェイト氏はそう語った。
(文:エミリー・タン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)