広告代理店の対応は極めて遅く、コストも高い
Campaignは、クリエイティブディレクションの新たなモデルを探るパネルディスカッションを開催した。その中で「Inamoto & Co.」の共同創業者レイ・イナモト 氏は、「ブランドが社内でクリエイティブ機能を持つようになったのは、コストが大きな要因」と発言。資生堂グローバルコピーディレクター兼クリエイティブディレクターのディミトリオス・ペトサス氏も、「社内でコンテンツ制作をするようになって、より多くのものをより速くつくれるようになった」とブランド側の意見を述べた。因みにイナモト、ペトサス両氏とも、広告代理店で豊富な経験を積んでいる。
客観的視点を持つ第三者の存在は、依然不可欠
同じディスカッションの中でパネリストたちは、「ブランドが自らコンテンツを制作するようになっても、方向性を誤らないように広告代理店や外部コンサルタントが重要な役割を担える」という意見で一致した(ケンダル・ジェナーが出演したペプシのCMが炎上したことは記憶に新しい)。ペトサス氏は、「最もクリエイティブなアイデアは『クリエイティブ』という肩書を持つ人間からではなく、制作サイドの人たちから出てくることが少なからずある」と発言。このテーマに関しては、Campaign主催のセッションを詳しく紹介した記事をご覧いただきたい。
広告業界はコンサルタントの脅威を直視していない
マッキャン・ワールドグループのグローバルプレジデント、ルカ・リンダー氏は、CNNのインタビューの中で、マッキンゼーのようなコンサルティング企業の実力は認めるものの、「彼らのクリエイティブ能力はほぼゼロに近い」と語った。「マッキンゼーではなく、シルク・ドゥ・ソレイユのようになることが成功につながるのです。マーケティングとは採算だけを追うのではなく、より楽しさを追求すべきことですから」。それでも、コンサルティング企業が代理店に追いつく日は遠くないと我々は考える。同氏も「代理店も変わらなければ、生き残ることはできない」と語った。
ブランディングとは、深く自らを見つめること
世界の自動車市場におけるスバルのシェアは1%しかなく、その存在は決して大きいものではないかもしれない。だが、現在の売上高は2008年の2倍以上だ。これは、同社が「正しい道」を歩んできたことに他ならない。スバルの吉永泰之社長兼CEOはその背景をこのように語る。「製造工程で、スタッフが車の安全性を当然のものと認識していることに気づいたのです」。その結果、「安全性の追求」が同社のブランディングの礎となり、まず米国で、そして日本で、それが消費者の心に響くよう発信された。スバルは今でもイメージ向上に注力しているが、割安感や性能のメリットを訴えるような宣伝は今後も行わないという。
デザインの劣るサイトは、オウンドメディアとしての信頼を失う
「グローバル・コミュニケーション新時代 − 情報の信頼性と顧客エンゲージメント」と題されたセッションでは、ネット上の情報への不信感は増大しつつも、「ブランドのオウンドメディアは高い信頼を得ている」という調査結果についてパネリストたちは言及した。ただし日本人のパネリストたちは、日本企業や政府機関はウェブサイトをもっと分かりやすくするため「大幅な改善が必要」とも指摘。特に海外のオーディエンスに訴求するには、「簡素化がカギ」と述べた。また、多くの企業は単に異なる言語のバージョンを増やすだけで、「ユーザーインターフェースのことを考慮していない」とも。その中で日立を、オウンドメディアを改善して「良質のカスタマーエクスペリエンスを提供している好例」として挙げた。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:水野龍哉)