東京-2回に分けてお届けしたアドバタイジングウィーク・アジアは、特に目新しいアイデアばかりではないものの、心に留める価値のある内容だったと総括できる。同質性の高い人との仕事からの脱却、従来型企業が革新的になる方法、日本がマーケティングの重要性を見直す必要性などが議論された。
ありえない組み合わせから最高の成果が生まれる
資生堂の社長である魚谷雅彦氏は、グローバルに通用するブランドを構築し維持するために多様性がいかに重要かを、素晴らしいプレゼンテーション(単独レポートを予定)の中で説いた。それは性別にとどまらず、国籍、経歴、年齢なども含めた多様性だ。
アミューズメント・パーク・エンターテインメントのCEO兼CCOであるジミー・スミス氏もまた、ワイデン+ケネディでの経験に触れ、同様の指摘をした。若き黒人男性であった同氏は当初、ハル・カーティス氏のように「いかにも白人らしい嫌なやつ」と組まざるを得なくなったことに憤慨。しかし、この組み合わせは最終的に、ナイキの最も有名なバスケットボールの広告を生み出し、二人は良い友人になった。「最高の仕事をしようと思ったら、自分と同じ見た目の人と仕事をしていてはいけない」と同氏は言う。「依頼している広告会社が白人ばかりだとしたら、駄目だ。黒人ばかりでも、全員日本人でも。仕事のレベルアップをしようと思ったら、自分とは違う人達と組む以外に方法はない」
日本企業はマーケティングとセールスを分けるべき
資生堂の魚谷氏は、グローバルブランドの構築を目指す日本企業には大きなハードルがあると指摘した。CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)のいる会社は10%程度にすぎないというのだ。日本企業のほとんどが、マーケティングは売り上げを伸ばすための単なる戦術と考えているが「もっと戦略的にならなくては」と苦言を呈した。
時代遅れの大企業にも望みはある
歴史ある大企業がスタートアップ企業をまねようとする姿をあざ笑うのは簡単だが、本気で変化を求めての試みであれば称賛に値する。QUANTUMの社長の高松充氏は、日本の巨大企業NTTと富士通から代表者を招き、いかにスタートアップの文化が両者の組織内に根付いているかを説明した。両社とも新しいビジネスモデルを自社に取り入れるために、スタートアップ企業の選定と資金提供を、マーケティング主導で行っている。
それは容易なことではなかった。NTTのケースでは、社長にハッカソン(ソフトウェア関連プロジェクトのイベント)に参加してもらうには、イベントをゴルフトーナメントに仕立てるしかなかった(後に社長はハッカソンに馴染んでくれたのだが)。NTTは、ハッカソンのようなイベントを提案する広告会社はクライアントに売り上げ増を確約する覚悟がなければならない、という点で態度を崩さなかった。「テレビ広告の制作だけでは不十分。このサービスレベルを提供できない広告会社とは付き合いたくない」とはNTTの社長談である。
大手食品会社モンデリーズのボニン・バウ氏は自身のセッションで、独自の方法でメディアを所有した経緯を述べた。同社はゲームアプリを開発し、そこに広告を掲載した(競合他社の広告も掲載している)。また、パッケージを消費者がカスタマイズできるクッキーを、通常の3倍の価格で販売し、3億米ドル規模の売り上げが見込まれている。「時間をかけてアイデアを発掘し、社内的に育てることが必要だ」と同氏は言う。「当社のような大組織には、それを実現できるチャンスがある」
(無音)動画はモバイルの未来
フェイスブックの大志摩丈嗣氏は、2020年までに世界のモバイル通信の4分の3が動画になるとのシスコのデータを引用しながら、これらの動画が無音で見られている傾向を企業は考慮すべきと説いた。また、モバイル機器の画面でフィードがスクロールされる速さを考えれば、最初の10秒間での印象付けが必須とも指摘。一方、フェイスブックの調査によれば、分かりやすいメッセージを、その時間内に無音で伝えられている広告は23%しかないとのことだ。
有意義な挑戦を敬遠しない
佐々木宏氏(サントリー缶コーヒー「BOSS」の長期にわたるシリーズ広告を電通で制作)は、60歳にして今なお、社会にインパクトを与える仕事を切望していると、デザイナーの佐藤可士和氏との対話の中で語った。「これまでに多くのCMを生み出してきたが、それで十分とはいえない」と佐々木氏。「あまり目立ったことをすると叩かれる。でも、リスク回避から新しいことへの挑戦へと、日本の雰囲気を変えられるかもしれない。思い切って変化を起こすべきだ」と胸中を明かした。
佐々木氏はまた、自然災害のときに企業は自主規制をすべきではないとし、トヨタ「ReBORN」キャンペーンの例を挙げた。これは同氏が2011年の東日本大震災の後に制作したもので、困難な時期にありながら前向きなメッセージを発信し、日本を支えた広告の好例だ。
(編集:田崎亮子)