全米で1億1千万人以上が視聴するスーパーボウルは、広告主にとって絶好のアピールの場だ。だからこそ、視聴者にインパクトを残すCF作りは至難の技。今年、様々な意味で印象に残った作品を取り上げる。
ベスト・ユース・オブ・セレブリティ賞:アマゾン ‘Alexa Loses Her Voice’
今回、最も優れた作品とも言えよう。制作はロンドンのエージェンシー「ラッキー・ジェネラルズ(Lucky Generals)」で、セレブリティの使い方が極めて巧妙だ。AIアシスタント「アレクサ(Alexa)」は人間により近い存在で、アマゾンはアレクサを決して大真面目に捉えているわけではない −− そんなアピールに成功している。重要なポイントは、セレブリティの存在が単なる飾りになっていないこと。彼らはストーリーの中で鍵となる役割を演じる。映画「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクター役で知られるアンソニー・ホプキンスが、特に印象的。
ビッグ・アイデア賞:タイド ‘It’s a Tide ad’
様々な商品のお決まりのCFスタイルを、皮肉を込めてパロディー化。サーチ・アンド・サーチ制作による「タイド(Tide、P&Gの洗濯用洗剤)」のCFは、結果として差別化に成功している。アイデアとユーモア、そして出来映えも秀逸だ。
ベスト・クオリティー賞:オーストラリア政府観光局 ‘Dundee’
1980年代にヒットした映画「クロコダイル・ダンディー」の続編予告か、と思わせる設定。そうであればあり得るシーン、そしてあり得ないシーンを織り交ぜて視聴者を翻弄し、笑わせる。オーストラリア政府観光局のこのCFは、スーパーボウルに合わせて公開された。アモビー・ブランド・インテリジェント社が1月1日から25日にかけて行った調査によると、スーパーボウルに関わるブランドの中で群を抜いて高いデジタルエンゲージメントを獲得したという。
トゥルー・トゥ・ブランド(ブランドに忠実)賞:コカ・コーラ ‘The Wonder of Us’
インスピレーション溢れる(ソフトドリンクブランドの)イメージと陳腐さは紙一重。幸いにもコカ・コーラの1分動画は前者の方で、スーパーボウルのコンテクストにもよくフィットし、1970年代に確立した「人々を1つにつなぐ」というブランドアイデンティティを忠実に守っている。「全ての人々のドリンク」という信頼性をあるレベルまで築いたのは、長い時間をかけて進化したブランド力に他ならない。
ベスト自動車広告賞:トヨタ自動車 ‘Good Odds’
自動車ブランドは総じてスーパーボウルで大きな存在感を放つが、トヨタのシリーズ物のキャンペーンである‘Start Your Impossible(不可能なことを始めよう)’は最もインスピレーションに溢れ、包括性が高い。テーマはクルマではなく「モビリティ」。よってこのCFでは、ハンディを乗り越えたパラリンピックの金メダリストの人生に焦点を当てる。五輪スポンサーであるトヨタが目指す方向性によく合った、アスリートの賢明な活用法だ。
ワースト自動車広告賞:ラム・トラックス ‘Built to Serve’
正直に言って、ラム・トラックスは決して優れた自動車ブランドではない。そんな米国メーカーが歴史上の偉大な人物と自社のイメージを結びつけようとする軽率なCF。オンライン上では多くの視聴者が酷評した。見当違いで支離滅裂なコンセプトは、すぐに人々に見破られたようだ。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)