電通イージス・ネットワーク(DAN)は、リージョナルレベルでのメディアエージェンシーの役割を再構築する。シンガポールのAPAC担当CEOの役職を解いて社員をレイオフし、持株会社レベルで新しい事業グループを編成する。影響を受けるのはカラ(Carat)、dentsu X、ビジウム(Vizeum)といった主要なメディアエージェンシーだけでなく、パフォーマンスエージェンシーであるアイプロスペクト(iProspect)、同ネットワークにおいてメディアイノベーションと投資を行うアンプリファイ(Amplifi)も含まれる。
この変化は、何カ月にも及ぶ市場環境の厳しさに対応するためのもので、クライアントのニーズの変化とも一致していると、ニック・ウォータース氏は電話で説明してくれた。同氏はDANのAPAC代表であり、同社を去ることが決まっている。
「過去12~24カ月、いくつかの大手多国籍企業の間には、グローバルからローカルへと構造を移行する傾向が見られました。これは我々の事業にも大きな影響を及ぼすもので、考慮に入れざるを得ません」とウォータース氏。「そこで国内外の組織的能力をまとめ、昨今のような情勢の中で我々の事業運営モデル『One P&L』を軸に、組織をどう編成するのか見直しています」
DANのメディアエージェンシーは、3つの主要なワーキンググループ(シンガポール内)に統合されることとなる。
1.ブランド・ソリューション・グループ
カラ、ビジウム、dentsu X、アイプロスペクトの人員からなる「流動的なブランド」グループは、新規事業やプロダクト開発に注力していく。代表は、ジョアンナ・カタラーノ氏(アイプロスペクトのAPAC担当CEO)。グローバル、APAC域内、そして国内の大型企画プレゼンをサポートしていく。プロダクト開発には、エージェンシーブランドの戦略的プランニングプロセスの開発や、データや解析のイニシアチブ、メディアやテクノロジー領域でのパートナーシップ構築なども含む。
DANのクリエイティブエージェンシーは、今回の再編成による影響はまだ無いが、将来的には発生し得る。DANのシンガポール及び東南アジア担当CEOのフィル・ティーマン氏によると、ブランド・ソリューション・グループは将来的にメディアとクリエイティブのより一層の統合をサポートするべく、進化していくとのことだ。
2.ワン・シンガポール・メディア・グループ
ジョナサン・チャドウィック氏(カラの元APAC担当CEO)が代表を、フィル・エイドリアン氏(dentsu X)がマネージングディレクターを務める。カラ、ビジウム、dentsu X、アイプロスペクト、アンプリファイから、一つのオペレーティング・メディア・ユニットを形成する。
「これらのブランドレベルで運営されてきたクライアントチームは、今後も引き続き維持されます。それぞれのブランドが備える能力を確実に有効活用するため、一つのチームとして統合させるのです」とティーマン氏は語る。
3.クライアント・ソリューション・グループ
このグループは、DANが新しい機能によって主要クライアントとの関係性を改善していくためのバーチャルなチームである。
率いるのは、ダンカン・ポインター氏(ビジウムのAPAC代表)と、スニル・ヤダヴ氏(アンプリファイのAPAC代表)。DANは組織内でポインター氏の新しい役割を探しているのではないかと、Campaignはみている。
DANはシンガポールの社員約700名のうち2%をレイオフすることを認めているが、誰が退くのかといった詳細については明かしていない。レイオフが月曜日、シンガポールのみで実施されたことをCampaignでは把握。主にシニアレベルの社員が対象となったようだ。だがウォータース氏は、これとは異なった見方をしている。
「実際に影響を受けた人たちというのは、新しい組織構造の中で適合しない、あるいは機能が重複してしまう職務に就く社員であり、その年齢層は多様です」
リストラは、シンガポール以外では行われていない。ローカル市場のエージェンシーにまで拡大して実施する計画も無いと、ウォータース氏は明らかにした。
今回の組織再編によって最終的には、新組織の「機敏性がより高く」なり、クライアントのニーズに応じてリソースや強みを横断的に動かしやすくなることを、同氏は望んでいるとのことだ。
ウォータース氏は英国ならびにアイルランドでDANを率いていくことが決定していたが、今回のリストラはそれに先駆けて意図的に行われたものだと、声明内で述べている。
(文:ロバート・サワツキー 翻訳・編集:田崎亮子)