マーケターにとって、ビッグデータは依然重要なソースだ。だが実際は、「インサイトの源泉」というよりむしろ「頭痛の種」と考えるマーケターは少なくないだろう。こうした事情を反映し、企業が保有するデータの簡素化や合法性のチェック、アクセシブル化を担う企業が増加している。カリフォルニアに本社を置くティーリアム(Tealium)社もその一つ。昨年は日本でのサービス展開のため、博報堂とパートナー契約を締結した。同社の新たなVP(ヴァイスプレジデント)兼アジア太平洋地域GM(ゼネラルマネージャー)に就任したニック・デニス氏がシドニーから来京。GDPRやファーストパーティデータへの対応、データをシェアする企業への消費者の期待などを聞いた。
ティーリアムは具体的に何をするのですか?
マーケティング機能を身に付けたいと考える企業のほとんどは、そのための異なるツールを保有しています。チャネルが増え、それらが高度化すれば、企業はその度にツールを購入せねばならず、挙げ句の果てには90の異なるツールを抱えてしまうということになりかねない。それらが全て消費者情報なのです。消費者情報は多くのさまざまな塊になって分散しています。我々に求められるのはこれらのデータを集約・選別し、価値のあるものかどうか、法令に則ってシェアが可能かどうかを判断し、リアルタイムで活用させることです。
日本ではどのようなビジネスチャンスがあると考えていますか?
一つはデータのガバナンスです。クライアントが法令を遵守しつつ、いかに最大限活用できるか。もう一つは、データのリテラシー。インハウスでデータを取り込みことを単に責任と受けとめるのではなく、売上げとカスタマーサービス向上のためのアセットとみなせるよう「自信」を与えるのです。企業に流れるデータにはあまりにも多くのソースがあります。今朝もクライアントと20種類のデータのソースについて話し合いました。五輪の情報などの処理に関してです。
アジアのマーケターは、GDPRが自分たちにとってどのような意味があるのか理解していますか?
アジアのいくつかの企業ではまだ、経営幹部クラスであっても「GDPRは我々とは関係がない」「うちの会社は考える必要がない」と考えています。しかし、そうした態度が誤っていると気づかざるを得ない状況になりつつある。リーチする消費者の情報を正しく把握できていないため、GDPRをきちんと理解する必要に迫られているのです。こうした企業は顧客のことをよく理解し、自社の法務部と緊密に協働しなければならない。また自社だけで判断を下すのではなく、同業他社とどのような対策が取られてきたかを話し合うべきです。
あなたがマーケターだったとしたら、GDPRを良い規則だと思いますか? それとも悪い規則ですか?
良い規則です。その理由は主に二つあります。一つは、顧客からの信頼を得られること。この規則によって、顧客は取引するベンダーからデータを守ろうとするのではなく、安心して役立ててもらおうとします。もう一つは、企業が社内処理ではなく顧客に注力し、構造変革を目指すこと。顧客を中心に考えることは効率性やサービス、コンプライアンスに対する意識の向上を意味します。従来のプロセスを一新するために必要なのは、パラダイムシフト(社会の規範や価値観の変化)。企業は今、大きなスケールで顧客と1対1の関係を築こうとしています。ほかに選択肢はありません。
顧客に対する論理はそうでしょうが、依然として一般の消費者は企業との契約内容を理解していないと思います。
多くの消費者が自分の個人データの安全性を気にかけています。契約内容を自ら理解し、より質の高い契約を求める人々も増えている。自分のデータがどのように使われ、それが何を意味するのか −− 消費者はいずれそうしたことを知りたいと考えるようになるでしょう。今はそれまでの過渡期なのです。
消費者には「何を意味する」のですか?
企業にある一定の信用を与えれば、ある一定のサービスを受けられるということです。もし私が高いレベルのサービスを求めるなら、なぜそれが得られるか、どうすれば得られるかを考えるでしょう。
企業はどうすれば、ファーストパーティデータをもっと活用できますか?
必要なのは、データフローを把握するためのシンプルな「規律」です。効率的かつ正確で、到達すべきところに到達しているか −− こうしたことを把握しなければならない。企業は誰がどのようなデータを受け取り、そのデータからどうすれば多くの価値を引き出せるかを再検討する必要があります。現在のところ、あまりにも多くのデータがあまりにも少ないデータポイントに集中しています。データのより良い活用は、売上だけではなくカスタマーサービスの向上にもつながるのです。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)